片思いの「LINE地獄」拒んで49か所刺された女性が残した手紙 | FRIDAYデジタル

片思いの「LINE地獄」拒んで49か所刺された女性が残した手紙

昨年6月、19歳の沼津女子大生が殺されたストーカー事件の残忍さが明らかに

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初公判が行われた静岡地裁沼津支部(撮影:高橋ユキ)
初公判が行われた静岡地裁沼津支部(撮影:高橋ユキ)

2020年6月に静岡県沼津市で大学生の女性(19=当時)を刺殺したとして殺人などの罪に問われている同級生の堀藍被告(21)の裁判員裁判初公判が、7月5日に静岡地裁沼津支部(菱田泰信裁判長)で開かれた。

堀被告は昨年6月23日、三島市の同じ大学に通っていた山田未来さんを包丁で刺して殺害したという殺人罪のほか、包丁やナイフを携帯したという銃刀法違反、殺害前にはLINEやインスタグラムで山田さんのスマホに執拗にメッセージを送信したというストーカー規制法違反、そして山田さんの連絡先を知るために学内の部室に忍びこんだという建造物侵入で起訴されている。

白いTシャツの上に濃紺のジャケットを羽織り、同じく濃紺のズボンという若い起業家のような装いで法廷に現れた堀被告は、短く刈られた坊主頭のためか濃い眉と二重の大きな目が目立つ。直立不動で起訴状読み上げを聞いたのち、罪状認否で「間違いありません」と起訴事実を全て認めた。事実関係に争いはなく、この裁判員裁判の争点は量刑だ。

堀被告による山田さん殺害は突然の出来事ではなかった。事件前年からストーカー行為を続けており、最終的に殺害に至ったストーカー殺人である。冒頭陳述や証拠調べでは、被告のしつこすぎるストーカー行為や、恋愛感情が充足されないことによる嫌がらせ行為、そして残忍な殺害態様が明らかになった。

検察側冒頭陳述や証拠から分かった時系列によると、堀被告は2019年4月、三島市の大学に進学した。学科は異なるが、山田さんも同じ学部の同級生だった。7月、学内で山田さんを見かけて好意を抱いた被告は、10月までに繰り返し山田さんに「LINEのIDを教えて」と迫った。

当初は断っていた山田さんだったが、被告が何度も要求するため最終的には断りきれずIDを教えた。ここから被告によるLINE地獄が始まる。やりとりを始めてすぐに、名前を呼び捨てにして、たびたび食事の誘いを持ちかけたのだ。

〈来週にでも未来と一緒にご飯行きたいと思ってるけどどう?〉

〈テスト終わったらさ、一緒にご飯行ってくれませんか〉

〈今月は空いてる日ある?〉

〈明日ラーメン食べに行くけど、もし時間があったら一緒にいかが〉

山田さんは〈友達の家に遊びに行くことになってて、ごめんね、ちょっと厳しいかも〉〈あしたはバイト入れちゃっててごめんね〉など、そのたびに断った。ところが被告はLINEを送り続けた。2019年10月から事件を起こす2020年6月の間に合計789回のやりとりがなされているが、そのうち被告からのLINE送信は551回にもおよぶ。

〈いままで付き合った彼氏とかいるの〉
〈どういう人がタイプなの〉
〈恋愛したいとか思ってる?今は特に好きな人いないって感じかな〉

など、プライベートに踏み込む質問を繰り返し、山田さんからの返信が滞ると、不満を隠すことなくこう送った。

〈未来、返信遅い〉

バイト先の同僚は山田さんの性格を「純粋で誠実、裏表のないとてもいい子。その反面、断りきれず、頼み事を引き受けたり、嫌なことを嫌だと断れず溜め込むことがあった」と振り返る。山田さんは被告に催促され、返信を送る日々が続いた。

「同級生の男の子がしつこく連絡してきて困ってる。プライベートなことまで根掘り葉掘り聞かれる」

当時、山田さんからこう打ち明けられた友人は、山田さんのスマホでLINEのやりとりを見せてもらったとき、こう思ったという。

「え、何これ、と思いました。普通じゃない」

山田さんは友人に「できるならブロックしたい、でも逆上して何されるか分からなくて怖い。返信が遅いと『遅い』と言われる。遅れた理由を丁寧に説明すると『そうだったんだ、ごめんね』と言うけど、再び怒り出す」と打ち明けていた。ブロックしたいけど怖い、という消極的な思いで返信を続けていたが、被告は増長してゆく。一方的に恋愛感情をぶつけながら、プライベートに踏み込む質問を繰り返した。

〈未来は俺に会いたいって思ってる?〉
〈俺の中で恋愛感情消えないんだ、どうしたらいいのかわからない〉
〈男の子好きになったことある?見た目か中身、どっちが大事?〉
〈身長は何センチ?体重はいくつ?〉
〈未来の親って仕事何やってるの〉

被告のLINEでの暴走が続く中、山田さんの身辺では不審な出来事が起こった。2019年12月ごろから、山田さんの電話に公衆電話から無言電話がかかってくるようになったのだ。応答すると電話の相手は「マクドナルドに名前と電話番号と『電話してください』と書いてあった」と言う。

また、SNS上の質問箱に、山田さんの携帯電話番号が書き込まれてもいた。たびたび被告についての相談を受けていた山田さんの母は、山田さんに「これも堀くんのせいなんじゃない?」と言ったが、山田さんはこう答えた。

「しっかりした証拠があるわけじゃない。はっきりした証拠がないのに疑いたくない」

堀被告が事件を起こし、逮捕されたのちに、こうした嫌がらせ行為も被告によるものだと判明したが、当時、山田さんは被告を犯人扱いせず、これを警察に相談した際も「好意を持ってくれてる男の子がいる」と話はしたが、被告の名を出すことをしなかったという。被告は山田さんの携帯電話番号を入手するため、山田さんが所属していた部活の部室に忍びこみ、名簿をスマホで撮影していた。

その後、山田さんは2020年4月、LINEでしっかりと拒絶を示した。

〈ごめんね、たくさんLINEしてきてくれてるけど、好きじゃないんだ。他の人とLINEしたほうがもっと楽しいと思う〉

被告はこれにも引き下がる様子はなく〈前にLINE続けてくれるって言ったじゃん。それに俺は未来のことが好きだし、好きな人とLINEしてるの一番楽しいから、そう言われても無理〉と、山田さんの拒絶を受け取ろうともしなかった。相変わらずLINEを送り続け〈一緒にインスタライブやらない?〉と誘いを持ちかけたりもするが、断られていた。そして事件の数日前に、LINEをブロックされる。堀被告はこのとき殺意を抱いたとされている。

2019年10月から事件を起こす2020年6月の間に合計789回のやりとりがなされ、そのうち被告からのLINE送信は551回にもおよんだ(写真はイメージ、アフロ)
2019年10月から事件を起こす2020年6月の間に合計789回のやりとりがなされ、そのうち被告からのLINE送信は551回にもおよんだ(写真はイメージ、アフロ)

ところが、実生活において被告はその前から山田さん殺害の準備をすすめていた。2020年2月のうちに、凶器として用いた包丁をホームセンターで購入している。犯行直前にはAmazonでサバイバルナイフも購入し、さらにはこれまでのLINEで得た断片的な情報から山田さんのアルバイト先と自宅、そして車を特定。自室ではナイフと包丁を手に、段ボールを山田さんに見立てて包丁で突き刺すなど“練習”を繰り返した。

逮捕後、被告の部屋からは壁に釣られた穴だらけの段ボール紙や、ロフトの上に置かれたボロボロの段ボール箱が見つかっている。

さらに被告の部屋から見つかったノートには、山田さんへの愛情を超えた憎しみがびっしりと書き殴られていた。以下はほんの一部だ。

未来を殺したい
死ね死ね死ね
殺す殺す殺す
未来は俺を見下している
うざい
俺が見えてないみたいな
行動しやがって

未来に未来なんかない
死だよ
殺される運命が待ってるんだよ

殺害当日の2020年6月23日。山田さんは朝から車に乗り、コンビニのアルバイトに向かった。堀被告は山田さんの自宅近辺で山田さんが家に戻ってくるのを待ち伏せしていた。13時に勤務を終え、車で自宅に戻った山田さんが運転席ドアを開けるやいなや、堀被告は手にした包丁で山田さんに襲いかかる。

車内でもみ合いになる中、山田さんは一旦は包丁を奪い取り、車から逃げ出し、近所の家の戸を叩いて助けを求めたが、その間に被告に捕まり、包丁を奪い返される。段ボールで練習していたように被告は山田さんの腹部、背部、頸部を何度も突き刺し、殺害した。凶器に使った包丁は鶏肉解体用の業務用のものだった。

「女性には致命傷となる傷が多数あり、いくら救命が早くても出血多量による死は絶対的に免れない状況だった。傷は柔らかい部位に集中しており、急所を狙って刺したことは明白。これだけ急所を多く刺しているということは、その最中に女性は意識を喪失したことが推定され、完全に事切れるまで刺し続け、事切れたのを確認して行為を止めたと推定される」(解剖医の供述)

山田さんの遺体には、49箇所もの傷が確認された。残忍な犯行が証拠で明らかになるたび、法廷は静まり返った。また嗚咽のような声や、鼻をすする音がひびくこともあったが、被告は大型モニターに映る証拠をしっかりと見つめ、終始無表情で落ち着いていた。

事件がなければ昨年9月には20歳になるはずだった山田さんは、中学の頃、20歳の自分に向けて手紙を書いていた。事件後、当時の担任が山田さんの母親にこれを持ってきたという。

「今楽しいですか。20歳の私には悩み事はありますか。私は小さなことで落ち込みます。LINEで変なこと送っちゃったなとか。成人式も楽しみです」(山田さんが15歳の頃に書いた手紙より)

航空管制官になるという夢を抱き、学業に邁進していた山田さんの命をあまりにも一方的に奪った堀被告。被告人質問で「(LINEを)ブロックされて自分の存在を拒否されたことに絶望を感じた」と語った。山田さんはLINEで何度も堀被告を拒絶していた。だがそれを全く受け止めようとしないどころか、相手に責任を転嫁するのがストーカーだ。一体どうすれば事件を防げたのだろうか。

堀被告には無期懲役が求刑されており、判決は13日に言い渡される予定だ。

  • 取材・文・写真高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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