英国研究機関の調査報告が示す「情弱ニッポン」の巨大な課題 | FRIDAYデジタル

英国研究機関の調査報告が示す「情弱ニッポン」の巨大な課題

軍事ジャーナリスト・黒井文太郎レポート

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「主要国一の情弱」といわれるニッポン。デジタル庁のどたばたを見るだけでも、その「危うさ」がわかる。国際社会で日々更新される「サイバーセキュリティー戦略」に遅ればせながら踏み込んだ日本。その現状と課題を、海外の最新データをもとに軍事ジャーナリスト・黒井文太郎が読み解く。

日本の情弱ぶりが露呈した。内閣サイバーセキュリティセンターのHPは「2000年ごろのテンプレ」だ。しかしこれは「あえて」なのか…軍事ジャーナリストが読み解く

7月7日、日本政府のサイバーセキュリティ戦略本部は、今後3年間の「次期サイバーセキュリティ戦略」案を策定した。日本はサイバー戦で主要国から後れをとっているといわれるが、これはそのサイバー防衛力の強化を図る戦略だ。今回、警戒する相手国として中国、ロシア、北朝鮮が名指しされた。今後、これを元にさらに議論を深め、正式な新戦略は今年9月に閣議決定する予定である。

もっとも、日本政府機関はすでにそれぞれサイバー能力の強化を模索している。防衛省では2022年度概算予算要求でサイバー部門の大幅予算増を求める予定だ。また、警察庁は2022年度にサイバー局を新設し、その傘下で約200人のサイバー直轄隊(仮称)を運用する予定である。

では、日本は現在、サイバー戦能力では世界でどれほどの位置にいるのか?

英国研究機関の調査報告が示す「情弱ニッポン」の現状

6月28日、英国の有力シンクタンク「国際戦略研究所」(IISS)が調査報告書「サイバー能力と国家パワー」を発表した。主要15か国のサイバー能力を独自の指標で算定したものだ。これはあくまで同研究所の評価だが、その内容はたいへん興味深い。

同報告書は15か国を厳密には順位付けしていないが、能力の高い順に3つの階層にランク付けしている。以下にまとめてみよう。

第1グループ(サイバーのすべての要素で世界トップレベルの能力がある国)

▽米国

国家のサイバー能力を強化するため、多額の投資を行ってきた。軍または他の組織によるサイバー攻撃力は高く、しかも世界規模だ。同盟国との高度な連携という強みもある。また、他方では他国のサイバー攻撃を検知する民間企業も多い。

弱点は、サイバー上の敵国であるロシア、中国、イラン、北朝鮮などと比べ、サイバー攻撃に政治的・法的な制約があること。また、経済的な要素も含めてサイバー活動の管理が複雑化し、関係する組織も多いため、迅速な意思決定と実行を阻害する可能性もある。その点では、面倒な調整も必要なく、政治的リスクをほとんど厭わない国に比べ、不利といえる。

第2グループ(7か国:いくつかの分野で強みがあるが、部分的に比較的弱い分野がある国)

▽中国

サイバー攻撃やサイバースパイの手法開発に力を入れており、活動実績が豊富。敵国に対する情報誘導工作も行っている。ただし、そうした工作は欧米のセキュリティ企業にしばしば検知されてはいる。

現時点では米国よりサイバーセキュリティ産業が弱いが、急成長しており、将来的に米国と並んで「第1グループ」に入る可能性のある唯一の国である。

▽ロシア

国内のサイバーセキュリティ産業は強くないが、国家のサイバー攻撃、サイバースパイの活動実績がきわめて高い。特に海外での情報誘導工作はきわめて大規模に行っている。

▽英国

サイバーセキュリティ、サイバー攻撃の手法開発、活動実績ともに豊富。サイバーセキュリティ産業も育っている。また、米・英・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドによる緊密な情報活動協力協定、いわゆる「ファイブ・アイズ」により、サイバースパイ能力も高い。ただし、将来的にネットインフラを構築する力が米国、日本、中国などに比べて弱い。

▽フランス

サイバーセキュリティとサイバースパイの力があるが、独力で動いているため、もちろん米英らの「ファイブ・アイズ」に比べると弱い。また、サイバーセキュリティ部門を、サイバー攻撃部門やサイバースパイ部門と分離している点も不利な要素になっている。

▽カナダ

デジタル経済が強固で、技術系も強い。官民が連携し、強いサイバーセキュリティ分野を構築している。サイバースパイでは「ファイブ・アイズ」の一員という強みもあるが、サイバー攻撃の分野がまだ強くない。

▽オーストラリア

「ファイブ・アイズ」の一員として、サイバースパイを活発に行っている。米英と共同でサイバー攻撃の力もある。ただし、サイバーセキュリティや情報通信産業分野でカナダよりも劣っている。

▽イスラエル

サイバー攻撃、サイバーセキュリティ、サイバースパイの高い能力を持つ。社会全体がサイバーセキュリティに取り組んでおり、その分野の産業も発達している。ただし、サイバースパイの活動領域は中東に集中しており、また将来的なネットインフラ構築能力が遅れている。

第3グループ(7か国:いくつかの分野で強みがある可能性はあるが、他の多くの分野に弱点がある国)

▽インド

大規模なデジタル経済があるのが強みだが、サイバーセキュリティはまだ高くない。サイバー攻撃とサイバースパイの能力はあるが、主にパキスタンに対する限定的なものだ。

▽インドネシア

基本的にサイバー攻撃能力はあまりない。国内監視のためのサイバー情報収集は行っているが、サイバーセキュリティの分野は遅れており、サイバー犯罪の脅威に直面している。

▽イラン

国内の反体制派弾圧や海外での破壊活動のため、サイバー攻撃やサイバースパイを継続的に行っているが、能力は高くない。サイバーセキュリティのレベルも低い。しかし、レバノンのイスラム勢力「ヒズボラ」に対し、サイバー戦の訓練を行っている。

▽マレーシア

ASEAN(東南アジア諸国連合)でもっとも早くサイバーセキュリティの強化に乗り出した国だが、能力自体はまだ高くない。

▽北朝鮮

サイバー能力は高くないが、大規模なサイバー犯罪を実行している。サイバー攻撃もサイバースパイも能力は低く、さらにサイバーセキュリティは世界でももっとも低いレベルだ。ただし、国外とネットで繋がれていないので、影響は少ない。サイバー工作を行うため、要員は国外に出る必要がある。

▽ベトナム

情報通信技術分野の発展と電子政府プラットフォームの構築を進めている。サイバーセキュリティも進めているが、予算と人員不足でまだ不十分だ。少ない予算・人員は国内世論の監視・管理に割かれており、サイバーセキュリティとサイバー攻撃の能力強化が後回しされている。

▽日本(後述)

日本の弱点は「民間の意識」と「憲法の壁」

では、同報告書では日本はどう評価されているのか?

日本は、今回調査の15ヵ国で最下層の第3グループだから、評価は高くない。しかし、まるでダメというほどでもない。

日本が有利な点としては、高度な情報通信技術産業があることが指摘されている。たとえば世界の大企業をランキングするフォーチュン誌の「フォーチュン・グローバル500/2020年版」にランクインした情報通信技術企業51社には、日本企業10社が含まれる。これは米国についで2番目に多い数だ。

ただし一方で、日本では政府と民間の情報共有が遅れていることが問題視されている。日本の情報通信技術基盤の90%は民間企業だが、この民間と政府の連携がようやく少しずつ進みだした程度というところが、米英などと比べて、大きくポイントを下げている。また、多くの民間企業が、サイバーセキュリティにコストを負担しようとしないこともネックなっているという。

日本社会はすでに情報化が進んでおり、とくに社会インフラへのサイバー攻撃は非常に危険であるとして、そのセキュリティの強化の必要性が指摘されている。

そのサイバーセキュリティ分野では、中国と北朝鮮に対する懸念が高まった状況で、東京五輪に向けて警戒する必要が生じたため、米国とオーストラリアの後押しもあって、体制の強化が進められたと評価されている。しかし、その動きはまだ始まったばかりであり、課題は多い。

また、日本は決定的に、安全保障分野でのサイバー戦の能力強化が遅れているという。たとえば、日本はいまだに公式の軍事サイバー戦略が構築されていない。最近になってようやく、自衛隊のサイバー専門部隊の創設などの実務面は徐々に進み始めたところだが、これまでは憲法上の制約、つまり専守防衛の国是から、サイバー攻撃能力を開発してこなかったことが不利な点だというのだ。

 サイバースパイでも日本の弱さが指摘された。日本で安全保障分野のサイバースパイを担うのは防衛省情報本部の電波部(英語ではDSI=信号情報部という)だが、予算も人員も多くない。電波部はもともと露・中・北朝鮮らの軍事電波を傍受する機関だったが、2012年に米軍機関の支援を受けてサイバー作戦の情報支援を開始した。ただ、その規模が小さいというのだ。

日本は前述した米英などの「ファイブ・アイズ」の友好国だが、総じてサイバー分野の能力はまだ低いとの評価だった。

前述したように、以上はあくまで一つの民間シンクタンクの調査・研究による評価である。そもそもサイバー能力はそれぞれの国の置かれた立場、あるいは脅威の性質なども違っており、一概に数値化して比較・評価するのは難しい。

したがって、他の指標で評価すれば、またランキングも変わる。

たとえば2020年9月にハーバード大学ケネディ行政大学院ベルファーセンターが発表した「国家サイバーパワー・インデックス2020」では、サイバー能力の総合力では以下のランキングになっている。

①米国 ②中国 ③英国 ④ロシア ⑤オランダ ⑥フランス ⑦ドイツ ⑧カナダ ⑨日本 ⑩オーストラリア

これはサイバー能力に加え、国家のサイバー活動の意思も加えたランキングで、商業・産業力や規範確立といった分野も重視しているため、日本もランクインしている。

また、別の調査もある。この7月1日には、国連国際電気通信連合(ITU)が、各国のサイバーセキュリティへの取り組みをランキングした「ITU グローバル・サイバーセキュリティ・インデックス2020」を発表した。結果は以下のとおりである。

▽ランク1:米国 ▽ランク2英国、サウジアラビア ▽ランク3:エストニア ▽ランク4:韓国、シンガポール、スペイン ▽ランク5:ロシア、UAE、マレーシア ▽ランク6:リトアニア ▽ランク7:日本 ▽ランク8:カナダ ▽ランク9:フランス ▽ランク10:インド

こちらはあくまで安全なネット社会という意味でのサイバーセキュリティへの取り組み姿勢に対する評価だが(したがって、たとえば中国はランク33と低い)、このように何を指標とするかで、順位はかなり変わる。

ただ、日本は産業基盤の分野では評価が高いものの、やはり国家としてのサイバー戦の攻防という分野ではまだ上位とはいえない。国際社会におけるサイバー戦は、今まさに安全保障の最前線ともいえる重要分野であり、その強化は急務と言える。

政府が今後、どのような戦略のもとでそれをどう具体化させるのか、注視したい。

防衛省情報本部「職員採用パンフレット2022」より。サイバー情報収集部門「情報本部電波部」が運営する全国の拠点「通信所」
  • 取材・文黒井文太郎

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