浅野忠信が朝ドラ『おかえりモネ』で背負った被災者の”魂の叫び” | FRIDAYデジタル

浅野忠信が朝ドラ『おかえりモネ』で背負った被災者の”魂の叫び”

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NHK朝ドラに出演中の浅野忠信。カリスマ漁師の役だが、その存在感はドラマに深みを与えている

女優・清原果耶がヒロインを演じるNHK朝ドラ『おかえりモネ』。宮城県気仙沼の亀島に生まれたヒロイン永浦百音が森の街・登米で青春を送り、やがて気象予報士の資格を取って故郷の役に立ちたいと奮闘する物語。第9週では念願だった気象予報士に合格。第10週では上京してお天気キャスターとして羽ばたいていく姿が描かれる。

そんな中、忘れてはならない親子がいる。百音の幼馴染で見習い漁師をしている及川亮(永瀬廉)とカリスマ漁師だった父・新次(浅野忠信)の親子。彼らこそ、東日本大震災から10年という節目の年に描かれる朝ドラの”影の主人公”といっても過言ではない。

第8週では、そんな及川親子の東日本大震災にまつわるファミリーヒストリーが解き明かされ、涙腺崩壊する視聴者も続出している。時計の針を少し戻してみよう。

「亮の父・新次は震災の前年、19トンの新しい船を作るために幼馴染の銀行員・耕治(内野聖陽)の元を、妻の南波(坂井真紀)と訪れます。夜の宴ではカラオケで十八番の『かもめはかもめ』を南波が歌い上げるなど、二家族の心温まるエピソードも描かれます。

ところが穏やかな生活も11年3月11日の東日本大震災をきっかけに、一変。家、お披露目したばかりの船、妻の南波(坂井真紀)までも失い、新次はすっかりふさぎ込んでしまい仮設住宅の布団に横たわり、携帯電話に残された生前の南波の声を聴きながら嗚咽。その姿には胸が締め付けられました」(放送作家)

大事なものをなくしてしまった及川家と、何も失わなかった永浦家。この日を境に、両家の運命は一変。新次を演じる浅野は

「この週の脚本を初めて読んだときは、涙が止まりませんでした」

と話している。そんな浅野演じる新次が、思いの丈をぶつける場面が、第39話に登場する。

気仙沼の仮設住宅からいなくなった新次は亀島に舞い戻り、津波で流され自宅の跡地で酎ハイのロング缶を呑んで泥酔。耕治たちに肩を抱かれ永浦家に帰って来る。酔いから覚めた新次は、耕治たちに向かって謝罪と共にこんな思いを打ち明ける。

「5年って長いですか。おまえ、まだそんな状態かよって、あっちこっちで言われるんですよ。でもオレ、なんでかずーっとドン底で、オレなんにも変わらねぇ」

さらに、「メカジキ50本上げた」と息子の亮から電話が掛かってきても、妻・南波と一緒に”息子の成長を喜べない”と嘆き、亡き南波を思って

「オレ、立ち直らねぇよ。絶対に立ち直らねぇ!」

と携帯を握りしめる姿には、俳優・浅野忠信の凄みを改めて感じさせる名場面となった。

「今回演出を手掛けた桑野智宏監督によると、昨年10月のクランクイン初日、浅野は実際にロケ先となった新次の自宅跡地まで足を運び、当時の津波の爪痕をしっかりと胸に受け止め、今回の撮影に臨みました。

特に『オレは立ち直らねぇよ』の場面は、『リハーサルの時から気持ちが入った芝居をされて、本番の時に感情が枯れることもありませんでした』『想定をはるかに超えるお芝居を目の当たりにして、浅野さんの凄さに鳥肌が立ちました』と話しています」(前出・制作会社プロデューサー)

浅野は中学3年の時、テレビドラマ『3年B組金八先生第3シリーズ』(TBS系)のオーディションに合格して俳優デビュー。当初はドラマにも出ていましたが、本人曰く

「テレビはシステムに縛られて撮影している感じがして、サイクルが自分には合わなかった」

として、活躍の場を映画に求めた。

「岩井俊二、是枝裕和、青山真治といった新進気鋭の監督の作品で知名度をあげると、いち早く海外にも目を向けロシア人監督の映画『モンゴル』では主役のチンギス・ハーン役を全編モンゴル語で演じ‘08年、第80回アカデミー賞外国語作品部門にノミネートされ、’11年には映画『マイティー・ソー』でハリウッド進出。その後も名匠マーティン・スコセッシ監督『沈黙-サイレンス-』(‘16年)、『ミッドウェイ』(‘19年)などにも出演。活躍の場を広げています」(制作会社プロデューサー)

新次を演じる浅野忠信の迫真の演技は、映画俳優として世界を舞台に活躍してきたキャリアの賜物なのか。だが、それだけではあるまい。

浅野は‘14年、ドラマ『ロング・グッドバイ』(NHK)で連ドラ初主演。‘17年、木村拓哉主演の日曜劇場『A LIFE〜愛しき人〜』(TBS系)に出演するとその年の10月期、『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)で、民放の連ドラ初主演の座を勝ち取る。しかしGP帯で主役を張り、いよいよこれからという時に悲劇が起きてしまう。

「所属する個人事務所『アノレ』の社長を務める実の父が、『刑事ゆがみ』放送中に覚醒剤取締法違反容疑で逮捕。さらに翌年6月、執行猶予中にもかかわらず再逮捕。父と浅野はこれまで二人三脚で歩んできただけに、本人のショックは計り知れません。

さらにこの影響もあって、人気俳優の加瀬亮はじめ数名の所属俳優が事務所を移籍。さらにバイプレーヤーとして活躍していた新井浩文が‘19年に不祥事を起こしてしまい、事務所は勿論のこと、浅野自身も窮地に追い込まれてしまいました」(ワイドショー関係者)

そうした苦悩が血となり肉となり、新次の”魂の叫び”が生まれたのではないか。

脚本を手掛けた安達奈緒子は、新次を演じる浅野忠信についてこう語る。

「”復興”にスポットを当てるのも、私たちが”立ち直る姿”を見たいからでしょう。けれどもそんな簡単なことではないはず。”一歩も動きたくない”という新次のような人もいるはずです。浅野忠信さんには、大切なものを失った人の苦しみを背負っていただきました」

東日本大震災から10年。このドラマは、浅野忠信なくしては語れない。

  • 島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓

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