久代アナのケースで考える「女子アナの異動は一方通行」の深刻問題 | FRIDAYデジタル

久代アナのケースで考える「女子アナの異動は一方通行」の深刻問題

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人気ユーチューバー『北の打ち師達』はるくんとの結婚でも世間の注目を集めていた久代萌美アナウンサー
人気ユーチューバー『北の打ち師達』はるくんとの結婚でも世間の注目を集めていた久代萌美アナウンサー

フジテレビの久代萌美アナウンサーがアナウンス室からネットワーク局に人事異動となったことが話題になっている。

「ステマ騒動が異動に関係しているのではないか」というような記事や、久代アナの実力について言及したり、フジテレビの姿勢を疑問視する論調もある一方、「久代アナは優秀だからこそ期待されて異動したのだ」「久代アナが人事異動になったとしても、それは通常の異動であり、会社員として当たり前のことであり、フジテレビになんの問題もない」と久代アナやフジテレビを擁護する声もある。

正直に言って久代アナの人事異動自体には、テレビマンとしてあまり感想はない。いわゆる「女子アナの人事異動」はどの局でも良くある話であり、過去に例がなかったわけでもなく、もちろん今後もあるだろう。

しかし、久代アナの異動を機に噴出したこれらの論調には違和感がある。特に「久代アナが人事異動になったとしても、会社員として当たり前のこと」という論調には、テレビマンであれば誰しも当然分かっている大切なポイントが抜け落ちている気がするのだ。

その「大切なポイント」とは、ズバリ「女子アナの人事異動はほとんどの場合、一方通行である」ということだ。確かに「自分の希望とは違う部署に人事異動となり、やりたくない仕事をしなければならない」こと自体は会社員として当たり前だし、テレビ局でも往々にしてある。

例えば、制作のプロデューサーが、報道に異動になったり、スポーツ部署に異動になることはままある。また、番組制作の部署から営業などの事務系の部署に異動になり、様々な経験を積むことでテレビマンとして一回り大きく成長することを期待されることも、よくある。

そしてここからが大切だが、一部「元の仕事はあまり向かなかった」と判断された人以外は、だいたい何年かすると元の部署に戻ってくることが通常だ。制作→営業→制作→編成→制作などというコースを辿って、出世していくのがむしろエリートコースと言えるかもしれない。

しかし、“女子アナ”は違うと私は思う。アナウンス室やアナウンス部と言われる部署から他の部署へと異動になり、そのあと再びアナウンサーとして復帰したケースは、私が知る限りほとんどない。“女子アナ”の人事異動がだいたいにおいて「一方通行」であることは「会社員として当たり前」では済まされないのではないだろうか。

しかも“女子アナ”が人事異動になるのは、ほとんどの場合それなりの年齢に達したあとだ。「アナウンサーとして長年報道番組を経験してきたので、記者になりたくなった」ということで報道局に異動になったり、スポーツ取材がしたくてスポーツ局に異動になったりというケースはとても多いと思う。

あるいは「そろそろアナウンサーとして、活躍する機会も減ってきた」とか「アナウンサーをやり続けることに疲れたので、もう他の部署に移りたい」という本人の希望があって、事務系のセクションに異動になるケースも非常によくある。私の経験的には、アナウンサーとして研鑽を積んだトーク力やコミュニケーション能力を買われて、役員秘書になったり広報関係の仕事につく人が多い。

だが、今回の久代アナのように、番組にガンガン出演していて、脂が乗っている時期に突然、事務系のセクションに異動になるというのは、明らかに一般的ではないと思う。しかも、ネットワーク局というのは、系列関係にある地方局などとの調整や交渉事がメインとなる「なかなかシブい」事務部署だ。言ってみれば「裏方中の裏方」であり、そこにそれほどアナウンサーとしてのトーク力やコミュニケーション力を活かせる場面があるのだろうか? と思ってしまう。

久代アナウンサーになんの恨みもないし、全く存じ上げない方なので、なんとも言いようがないのだが、テレビマン的な常識で考えると今回の久代アナの異動には「何か特別な背景がある」と考えるのが普通だと思う。

しかし、仮にこの推測が合っていたとしても、これまた業界の常識で考えると「しばらく番組出演を控えさせるくらいでいいのに、ずいぶんと厳しい処遇だな」と思ってしまうテレビマンも多いのではないだろうか。

今回ぜひフジテレビには「女子アナの人事異動は一方通行」というこれまでの業界の常識を打ち壊して欲しいものだ。

そもそもなぜ“女子アナ”は二度とアナウンス部に戻ってこないのかというと、その背景には「女子アナは若いうちが花」と言ったような、昭和的・差別的な考え方があるように思えてならない。「様々な業務を経験して、一回り大きなアナウンサーになって欲しい」と会社が望んでいれば、必然的に女性アナウンサーの人事異動もアナウンス部→他部署→アナウンス部ということになるはずだと思うのだ。

世界では欧米などを中心に、経験豊富で信頼感のあるベテラン女性アナウンサーたちがテレビにガンガン出演している。しかし、日本はというと、昨今の制作費削減で「新人女子アナがいきなり看板番組に起用」されたり、「育成する必要のないアイドルなどの経験者が女子アナとして採用される」ケースが増えたり、むしろ女性アナウンサーはどんどん「若返り」している印象さえある。これは明らかに、昨今のジェンダーフリーの考え方とは逆行する動きなのではないだろうか。

仮に私がいう「女子アナの人事異動は一方通行」が現在でも正しければ、我々は久代アナウンサーが番組出演する姿を見られないことになる。しかし、それはあまりに残念なことではないだろうか。適性があり、活躍し、多くの共演者たちにも愛される将来有望なアナウンサーの芽を摘むことは、正しくないと思う。

ぜひ、フジテレビにも他のテレビ局にも、女性アナウンサーの人事異動を「普通の局員と同じように双方向に」して欲しいものだ。そして、個性的で魅力に溢れるベテラン女性アナウンサーたちがたくさん活躍する日本のテレビに、一日も早くなって欲しい。

  • 鎮目博道/テレビプロデューサー・ライター

    92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。近著に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)

  • 撮影西圭介

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