聖火リレー先導の電動キックボード「ノーヘル運転」は許されるのか | FRIDAYデジタル

聖火リレー先導の電動キックボード「ノーヘル運転」は許されるのか

神聖な聖火リレーの場で守られなかった「安全」に対するモラル

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聖火ランナーを先導した電動キックボードの女性。ヘルメットはかぶっていない(撮影:加藤久美子)
この車列の後に電動キックボードの女性が走っていった

道交法上「原付」扱い ヘルメット着用は義務

3月25日に福島からスタートし約4か月を掛けて全国を駆け回った聖火リレーが間もなくゴールする。筆者は7月8日に実施された「埼玉3日目」でやっと目の前で聖火リレーを見ることができた。埼玉の前の神奈川や千葉、埼玉の次の東京(島しょ部除く)においては、すべての区間で公道でのリレーは中止。セレブレーション会場での点火セレモニーに変更となったので、実質、埼玉3日目が公道リレーの最終日となった。

ウワサには聞いていたが、聖火リレーというよりもスポンサー企業の車列パレードだ。白バイやパトカー、「密を避けてください」など呼びかける車のあとから、いよいよパレードの車列が始まる。

初めにトヨタ・ハイラックスをベースに架装したチームNTTの青い宣伝車が非常にゆっくりとしたスピードで通過していった。そして次に現れたのが同じNTTの青いユニフォームを身に着けた女性が乗る電動キックボードである。ナンバープレートはついている。長い髪をなびかせて軽やかに駆け抜けていった。肝心の聖火ランナーが来るまで、車列の先頭から15分も費やした。しかしここでふと、疑問が生じた。

「電動キックボードを乗っていた女性にヘルメットがない。え?え?これって大丈夫なの?」

電動キックボードは現行の道路交通法で「原付」と同じ扱いとなっている。つまりヘルメット着用が義務づけられており、車検はないが、ナンバープレートは必要で自賠責保険の加入も自動車損害賠償保障法で義務付けられている。

SNSに上がっているこれまでの聖火リレーの写真や動画サイトに上がっている全国各地の聖火リレー動画を見てみたが、全国すべての聖火リレーでNTTの電動キックボードは「ノーヘル」で乗っていたと思われる。

もちろん、法的に問題はないのだろう。しかし、なぜ、聖火ランナーよりはるかに前の方に現れる電動キックボードの女性たち(場所によっては男性の姿も)はノーヘルだったのか。

超少子高齢化の中、ラストワンマイル(1・6㌔)の移動手段が不十分であることによる「買い物難民」や「免許返納後の高齢者の移動手段を確保などが社会問題としてあがっている。それら課題の解消をめざす中で、自民党の中にも「自民党MaaS議連PT」というグループが立ち上がっており、電動キックボードのシェア事業者で作られる「マイクロモビリティ推進協議会」と共に電動キックボード普及のための「規制緩和」(一定速度下においてノーヘルや免許不要とするなど)を強力に推進している。

聖火リレーで「ノーヘル走行」を敢行したNTTにおいては、過去にNTT東日本が同推進協議会のトップをつとめるシェア事業者を支援してきた経緯があり、経済産業省も新事業特例制度として「ノーヘル」をはじめとした電動キックボードに関わる規制緩和を推進する立場にある。

聖火ランナーという華やかな舞台に登場させて、ノーヘルで手軽に運転できるイメージを普及、浸透させて規制緩和につなげたい狙いがあるのかもしれない。

近年、日本においても電動キックボードの普及は進んでいるが、実際、ルールやマナーを守った走行を見かける機会は少ない。東京都内の繁華街周辺の道路を「無灯火、ノーヘル、ナンバー無し」で傍若無人に駆け抜ける悪いイメージしかない。歩道走行禁止なのに歩道も車道も好き放題走っている。

当然事故も多発しており、今年5月にはヘルメット無し、ナンバー無し、禁止されている二人乗りと歩道の走行で歩行者に衝突してそのまま逃走。頭蓋骨骨折という大けがを負わせた事故もあった。(大阪簡裁が罰金50万円の略式命令を出している)。電動キックボードの事故多発に警察も各地で取締りの強化に乗り出している状況だ。

2019年夏、福岡市内で行われた米バード・ライズ社の電動キックボードの実証実験。本来あるべき姿だ(写真:共同通信)

日本より普及している海外は事故多発で規制強化

実は日本よりも早くから電動キックボードが普及していた海外の事例を調べると、フランス、韓国、シンガポールなどの国々では事故の多発や無秩序な駐車が社会問題となったため、速度制限やヘルメット着用の義務付け、シェア事業者の数を絞るなどの対策を講じている。

日々、ノーヘルの電動キックボードが違法走行を繰り返し、あちこちでトラブルメーカーとなっている状況の中、国民が注目する聖火リレーという場においては、きちんとヘルメットを着用して「ヘルメットが必要であることを啓発」するべきではなかったのか。

この辺りを東京五輪パラリンピック組織委員会はどう考えているのか。
聖火リレー広報担当者および、≪NTT≫CONNECTING WITH SMILES プロジェクト事務局に電話やメールで問い合わせた。

――現在、道路交通法において電動キックボードは原付と同様の扱いで免許も必要、ヘルメット着用義務などがある。聖火リレーの電動キックボードはヘルメット無しで乗っていたが法的に問題はないのか?交通規制下における走行なので道路交通法的には問題ないという認識か?

「キックボードの使用方法については、事前に警察庁様との調整を行っております。その上で、各都道府県実行委員会に使用方法の情報提供を行い、各都道府県実行委員会から各都道府県警察に道路使用許可申請を行い、道路使用許可を得た範囲内でキックボードを使用しております。なお、使用者については、安全に使用できるように、事前の操作講習も行い、使用しております」

――多くの国民が目にする聖火リレーの場で、道路交通法的には問題ないとしても、ヘルメット無しで電動キックボードを派手に走らせることについてはモラルに反する行為ではないか。

「上記回答の通り、各県警からの道路使用許可を得た上で実施しているため問題ありません」

――多くの国民が目にする聖火リレーの場では国民の模範となるような運転をするべきではないか?

「上記回答の通り、必要な申請を行い安心・安全に留意して実施しております」

また、チームNTTの広報担当者にも同様に質問したところほぼ同じ内容が返って来た。

組織委員会にはさらにその後、複数回、質問を投げかけたが、「聖火ランナー」で電動キックボードに乗っている人の安全についての正当性についての返答に終始し、ヘルメットをかぶらずに電動キックボードを運転する姿を一般の人に見せるリスクについての返答はとうとうもらえなかった。

道交法に抵触せずともモラルに反する行為がなぜ採用されたのか? 「ヘルメットを着用する」という選択肢はなかったのか?筆者が危惧しているのは、ノーヘルで乗る女性の姿を見て、「電動キックボードはヘルメット無しで走っていいんだ!」という誤解を与える可能性だってあることだ。

聖火リレーのパレードには多くのクルマが参加しており、NTTの車両含めドライバーや助手席同乗者は外から見た限りではシートベルトを着用していた。交通規制下の道路で、時速10キロ以下という徐行に近いスピードであれば、シートベルトを着用しなくても危険性はなさそうだし、道交法的にも問題にはならない。それでも乗っていた人はシートベルトを着用していた。その事実を踏まえれば、道交法に抵触しなくても、聖火ランナーで電動キックボードを運転する人はヘルメットを着用するべきだったと思う。

東京五輪の開会式を目前に控え、過去の言動を問題視されて開会式の楽曲担当が辞任する事態に発展するなど混乱が続いたまま、五輪が幕を開ける。聖火リレーという神聖な場においても、本来、大前提となるべき「安全」のモラルが守られなかったことに残念な思いを抱いている。

大阪市内で電動キックボードを運転する人。ヘルメットを着用していない。軽微な違反でも反則切符を切られる(写真:共同通信)
  • 取材・文加藤久美子

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