強豪・アルゼンチン代表監督が見たサッカー日本代表のリアルな実力
現役時代にJリーグでプレーした経験もある”日本をよく知る”強豪国監督が日本代表のメダルの可能性を語った
熱戦が繰り広げられる東京五輪サッカー。7月22日に初戦を迎えた森保一監督率いるU24日本代表は、南アフリカを相手に辛くも勝利を収めた。
開催国としてメキシコ五輪以来53年ぶりとなるメダル獲得の期待も高まっているが、はたして世界の強豪国は日本の「リアルな実力」をどう分析しているのか。
本誌は7月21日、北海道のホテルに滞在中のアルゼンチン代表フェルナンド・バティスタ監督(50)にリモート取材。アルゼンチン代表は、’04年のアテネ五輪でカルロス・テベスらをそろえ頂点に、’08年北京五輪ではリオネル・メッシを筆頭としたスター集団で2大会連続の金メダルを獲得している。
今大会には過去のようなスーパースターはいないが、それでも才能豊かな若手をそろえるアルゼンチンはメダル候補に挙げられる。バディスタ監督は現役時代にアビスパ福岡や鳥栖フューチャーズ(
――最初に、今大会への意気込みを聞かせてください。
フェルナンド・バティスタ(以下・バティスタ):まずこれだけ大変な世の中で、無事東京五輪を迎えることができ、その場にアルゼンチン代表がいるということに対して関わってくれたすべての人に感謝を述べたい。我々は金メダルを獲得するために日本に来たし、そのために長い時間をかけて本気で準備をしてきたという自負がある。
今大会のチームには、メッシやテベス、セルヒオ・アグエロのようなスーパースターはいない。ただ、そのぶんチームとしてまとまりを見せており、非常に団結力がある。ボールを保持しながら試合を進め、耐えながらも勝負するところでは一気に畳み掛ける。勝ち方を知っている選手が多いことは、大会が進んでいくにつれてアドバンテージとなっていくはずだ。
先月行われたコパ・アメリカ(南米選手権)では、アルゼンチン代表が優勝した。英雄マラドーナが亡くなってから暗いニュースが続いていたけど、この優勝で再び国民は熱を帯びている。マラドーナの追悼という意味でも、次は若い世代が続くべきだ。何より私達は、
オーバーエイジ枠にGK1人しか選出できていないが、本音を言えば、セリアA『インテル・ミラノ』に所属しA代表でも主力であるラウタロ・マルティネスのようなトップ選手を招集したかったね。
ただ、トップ選手たちが所属する各クラブが選手を出したがらなかった。アルゼンチンという国は多くの複雑な問題を抱えており、五輪で活躍して市場に選手が出ることを嫌がるクラブも少なくない。そういった意味では、ブラジルやスペイン、そして日本のようにベストに近い選手を招集できている国は羨ましくもある。それでも、イングランドやスペイン、イタリアで活躍する選手がいる。戦力には満足しているよ。

――今大会の展望をどう捉えていますか。
バティスタ:金メダルに最も近い位置にいる国としては、スペインとブラジルが挙げられる。本来はアルゼンチンと言いたいところだが、この2ヵ国は経験の面でも技術的にも他の国よりもリードしていると思う。次いでフランス、ドイツといった伝統国もやはり侮れないチームだ。そして、ここに日本を加えた国が、メダルを争っていくのではないか、とみている。
やはりホームアドバンテージというのは大きいし、今の日本代表は若くしてヨーロッパのトップリーグでプレーする選手が出てきた。3月に日本との親善試合で来日した際、日本チームのクオリティの高さに正直驚いたよ。
――バティスタ監督は’90年代に福岡や鳥栖でプレーした経験があります。
バティスタ:当時の日本は、技術と勤勉性は高いがフィジカルや賢さでは見劣りする面があった。だが、今年3月の親善試合ではたびたびアルゼンチン選手に空中戦で勝り、効果的な攻撃を繰り返していた。実際、我々は敗れている。すごいスピードで進化していると感じる。当然大会でも要注意な国としてみており、メダルに届いても不思議でないクオリティを持っているといえるだろう。
あえて課題を挙げるなら、チーム内での競争力だ。五輪のような短期決戦においては、サブも含めたすべての選手の質が勝敗に直結する。そのためには、チーム内でどれだけ競争力があるかが重要になってくる。レギュラーメンバーにアクシデントやターンオーバーが必要になった時、どんな戦いができるかがメダル獲得への鍵になるだろう。

――メダル獲得に向け、キーマンになりそうな選手はいますか。
バティスタ:先程も述べたが、これまでの日本サッカーにおいて、フィジカル面の弱さというのは一つのウィークポイントでもあった。ところが、現在はサイズ感にしてもスピードにしても強豪国と遜色ない選手も出てきていると感じている。DFとして海外で活躍するトミヤス(富安建洋)やイタクラ(板倉滉)のような選手がそれを象徴しているよ。
アルゼンチン代表がヘディングに競り負けているシーンは、実に屈辱でもあったんだ。同時に言えることは、もうフィジカルを言い訳にできる時代は終わったということだろう。当然、サッカーは身長の高さを競う競技ではない。メッシやアグエロ、ラウタロ・マルティネスといったアルゼンチンの選手がそれを証明しているし、日本にもクボ(久保建英)がいる。
写真:JMPA取材協力:ワカタケ