大江千里『格好悪いふられ方』から格好いい年の取り方への30年 | FRIDAYデジタル

大江千里『格好悪いふられ方』から格好いい年の取り方への30年

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最高順位は意外にも…

ちょうど30年前のヒット曲を紹介する連載です。冷夏となった8月に向かっていく1991年7月18日にリリースされたのは、大江千里『格好悪いふられ方』。彼の最大ヒットとなり、50.2万枚(オリコン)を売り上げました。

2016年5月6日、ハワイ・ホノルルで熊本地震のチャリティーコンサートを開いた大江千里(共同フォト)

歌詞の内容は、ふられた男性が、ふった女性のことを思うもの。それでも最後に「♪幸せかい 傷ついてるかい あの日の夢を生きているかい」と強がるところがキュートです。

最高位は2位。7月29日付オリコンチャートでは、1位を槇原敬之『どんなときも。』に阻まれた2位で、翌週にはCHAGE AND ASKA『SAY YES』が1位、2位が『どんなときも』で、この曲が3位…と、かなり強力なライバルがウヨウヨしていた時期でした。

今回もまたタイアップが付いています(当時のヒット曲はたいていそうです)。TBSドラマ『結婚したい男たち』。出演陣は、片岡鶴太郎、布施博、風間トオル、南果歩、山口智子、とよた真帆と、何とも91年な布陣。「TBSチャンネル」のサイトに掲載されたドラマの紹介文も、なかなかに91年していまして……。

<真剣に結婚を望みながらも、なぜか結婚に至ることが出来ない男たちと、結婚がすべてではないと思いつつ、ひとりで生きていくことが耐えられない女たち、そんな結婚適齢期の男女が本当の愛を知りながら、結婚するまでを描く。結婚願望の強い27歳のOL役の山口智子はお見合いパーティーで知り合った老舗の和菓子屋の長男と恋に落ちるが…>

「結婚」が、今よりも一大事だった時代をしのばせる文面です。『格好悪いふられ方』の歌詞にも「♪ひとりで思う寂しさは 結婚しても同じだろう」「♪いろんな人を好きになり おそらくぼくは結婚する」と、その一大事な感じが込められています。

40代で傷ついて

さて、この曲が大ヒットしていた頃、大江千里本人は、人気の低下、言ってみれば音楽シーンから「ふられ」始めたことに気付いていました。『文春オンライン』のインタビュー記事(2018年09月16日)から本人談。

――「勢いがあったのは、初めてアルバムでオリコン1位をとった『APOLLO』(1990年)かな。あの時に、次の『格好悪いふられ方』(1991年)でシングルヒットを狙うための助走もついてました。でもコンサートでは、一番後ろの列からお客さんが少しずつ減りはじめていて」

また、この3月に出版された著書『マンハッタンに陽はまた昇る 60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)では、『格好悪いふられ方』を作った30歳の自分の心持ちを、こう解き明かしています。

――自分の音楽を多くの人に聴いてもらえるようになったのに、心が満たされないのはなぜ? そう自問自答している。

いろいろな葛藤があったのでしょう。2008年には一念発起、ジャズピアニストを目指し渡米、ニューヨークの「THE NEW SCHOOL FOR JAZZ AND CONTEMPORARY MUSIC」という、長い名前の学校に入学。本格的にジャズを学ぶことになります。

しかし、2015年に出版された著書『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』(KADOKAWA)によれば、ここで彼は徹底的にしごかれるのです。ジュリアという名前の先生にこう言われます……ここまで言われます。

――「千里の場合、ポップスが骨まで身についているから、それを超えるくらいに『ジャズのノリ』を身につけることだと思う」
「あなたがジャズピアニストになるには、ポップスで築いてきたその体に流れてる血を総入れ替えしなければならない」

当時、私はこの本を読んで、「天下の大江千里が、そこまでしてジャズとやらを学ばなくてもいいじゃないか」と、正直思いました。「血を総入れ替え」してしまうと、『十人十色』(85年)や『Rain』(88年)を生み出した、あの個性的な作曲センスまで失われてしまうぞと。

個人的にジャズに明るくないことも影響して、大江千里の存在を、「ジャズ」という、私の脳内で、あまりアクティブではないフォルダに入れることにしたのですが――。

自分へのメッセージだったのか…?

「ええ顔したオッサンになったやん!」

雑誌『ミュージック・マガジン』の最新号(8月号)に載っていた、ニューヨークの自室で楽しそうにキーボードを弾く、還暦・大江千里の姿を見て、そう思いました。

それ以外にも、ニューアルバム『Letter to N.Y.』関連で露出する、大江千里の最近の姿が、おしなべて、いきいきとした、とっても爽やかな笑顔で写っているのです。

先の「オッサン」は、やや侮蔑的な表現に聴こえるかもですが、実は大江千里は、大阪の藤井寺市出身で、私(東大阪市出身)と同じ河内(かわち)エリアの出。「河内」と言えば、ミス花子のヒット曲『河内のオッサンの唄』(76年)でしょう。

「譜面も書かず、コードも決めないまま、コンピューターとカシオの小さいキーボードをつないで24時間弾きまくって」(『音楽ナタリー』2021年7月21日)作ったニューアルバムも、等身大の還暦・大江千里が感じられる、爽やかな読後感の作品でした。

「格好悪いふられ方」から「格好いい年の取り方」「格好ええオッサン」への30年――。

爽やかな笑顔、爽やかな作品に触れて私は、『格好悪いふられ方』の最後のフレーズ=「♪あの日の夢を生きているかい」は、実は、30年後の自分に宛てたメッセージだったのかと、憶測してみたりするのです。

  • 執筆スージー鈴木写真共同フォト

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