コロナ禍にあえぐ沖縄から見える「この国の未来」 | FRIDAYデジタル

コロナ禍にあえぐ沖縄から見える「この国の未来」

沖縄在住15年のノンフィクションライター・渡瀬夏彦が目撃した「沖縄2021」

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コロナ禍に迎えた2度目の夏。沖縄には、いつもの夏の賑わいはない。名護市から取材を続けるノンフィクションライターが見た沖縄には、この国のこれからが凝縮されていたー。

コロナ禍に苦しむ沖縄から、怒りの声が届く。遺骨が眠る土で基地建設を進めようとする政府に、国民への敬意は感じられない 写真:渡瀬夏彦

7月29日、新型コロナウイルス新規感染者数は、東京で3865人、沖縄で392人と過去最多を記録した。人口比で換算すると、沖縄の「392人」は東京での「3750人」に等しい。沖縄県の状況は極めて深刻だ。沖縄は、政府の無策によって、拡大するコロナ禍の被害に遭い続けてきた。

5月からずっと休業している

東京に4度目の緊急事態宣言が発出された7月12日、沖縄では5月23日以来の緊急事態宣言がさらに延長された。五輪開幕時に沖縄の「緊急事態」は丸2ヵ月経過していたのだ。2ヵ月間ずっと「緊急事態宣言下」にあって経済活動を止められてきた沖縄県民。「それなのに」感染は再拡大した。観光が主な産業である沖縄にとって、この夏休み期間のダメージは計り知れない。

那覇市内で居酒屋を経営する男性は、行政からの協力要請を受け、雇用調整助成金なども利用して従業員に給料を払いながら、5月からずっと臨時休業を続けている。

「明らかにオリンピックに合わせた緊急事態宣言延長ですよね。沖縄の医療現場を守るためには仕方がないことかな、と思いますけど、何ヵ月も店を開けられないのは、やはり苦しいです。でもね、ウチなんかまだよいほうです。取引先の酒屋さんなんか、なんの補償もなく頑張ってます。そういうところにも手当てが必要じゃないでしょうか」

ふだんなら観光客が行き交う「国際通り」など那覇市内の商店街では、昨年春から営業がままならない状態が続いている

ところが政府は、苦しんでいる人たちに対して、真逆のことをやる。西村康稔コロナ対策担当大臣の、酒類を悪者にして飲食店を「制圧」しようとした発言は、飲食業界にとっては忘れられない「暴言」だろう。沖縄県中部の、昼営業の飲食店を経営する男性はこういう。

「沖縄の場合、一番必要なのは、県外から来られるお客さんの、出発地の空港でのPCR検査(渡航前検査)のはずです。でもそれがこの年数ヵ月間、全然できていないと思います。細田(博之)元官房長官の発言なんか、ひどかったですよね。玉城デニー知事が上京して、渡航前検査に政府の支援がほしいと政府・与党の関係者に直訴したとき、まるでバカにした返答をしました。あれは、沖縄県民全体に対する言葉だと感じました」

5月19日「国に頼るなんて、沖縄らしくない」細田博之元官房長官は、そう言い放った。(自民党・細田博之【発言全文】 | 沖縄タイムス+プラス

沖縄での感染拡大を「バカじゃないか」とまで言ったのだ。

政府は、ようやく形ばかりの「支援策」を始めた。水際対策の基本「出発地検査」(沖縄及び北海道への渡航前のPCRまたは抗原検査)を、8月31日までの夏休み期間限定で、希望者が無料で受けられるようにしたのだ。ただしこれも、羽田、成田、伊丹、関空、福岡の5空港のみ。沖縄への直行便は、他にもいろんな空港から飛んでいる。対策は十分とは言い難い。お粗末な「水際対策」でお茶を濁されたのでは、ただでさえ政府の理不尽な政策に苦しめられてきた沖縄県民はたまったものではない。

米軍基地の感染爆発を抱える沖縄

さらに、細田発言の中で看過できない部分がある。発言の終盤に出てくる「(新型コロナウイルスは)旅行者が持って来るに決まってるんだから。米軍が持って来るわけでもないだろうし」という「私見」だ。これを聞いたとき、多くの沖縄県民が怒りを覚えたことは言うまでもない。

沖縄の感染状況で見過ごしてはならない厄介な存在が、まさに米軍基地なのだ。在沖縄米軍関係者に感染が急増していることはかねてより指摘されている。(「米軍でデルタ株流行か」沖縄県が見解 – 琉球新報デジタル

そもそも沖縄の嘉手納空軍基地や東京の横田基地などには、常に多くの米軍関係者が降り立ち、日本の検疫と関係なく、基地のフェンスの外に自由に出ていく。このことは、日本国憲法よりも上位に位置すると皮肉られる日米地位協定で許されている。つまり、米軍関係の感染者がフェンスの外に出たとしても、どんな行動をとったのか、沖縄県民とどこで接触したのかといった点を含め、一切がブラックボックスなのだ。

沖縄の新規感染者が354人になった27日には、その数字とは「別に」米軍関係の新規感染者が19人判明したことが発表されている。沖縄に駐留する米兵・軍属及び家族の正確な人数は発表されていない。が、およそ5~6万人と推定される。仮に6万人として人口比換算をすると、在沖米軍関係の「19人」は、東京の「4420人」に等しく、恐ろしい感染者数である。

昨年7月の独立記念日、沖縄中部で米軍関係者がお祭り騒ぎをしてクラスターが発生した。今後も、軍関係者がフェンス外でどんな行動をしたかまったく不明な状況が続くかと思うと、県民の感染不安は募るばかりだ。

日本政府が、この沖縄の状況を知らぬはずはない。そのうえで、飛び出した細田元官房長官の暴言は「沖縄差別」「沖縄いじめ」としか思えない。

「この世の地獄を集めた」と形容される地上戦の沖縄戦。その直後から27年間続いた人権蹂躙そのものの米軍統治時代。そして復帰後も、広大な土地を米軍が占有し続け、治外法権の理不尽な状態に置かれ続けている。

子どもの貧困問題ひとつをとっても、沖縄戦・米軍統治時代から地続きの沖縄ならではの問題がある。つまり、全国一律の手法ではなく、沖縄に対しては、独自の丁寧な手当のあり方が模索されるべきなのに、現在の政府・与党関係者には、沖縄の歴史と向き合った上で本気で問題解決を図ろうとする真摯さが欠けている。

米軍基地の存在が常に「脅威」であり続けている沖縄の、現在の基幹産業は「観光」だ。飲食業のみならず、ダイビングショップなどのマリンサービス、ホテル、タクシー等観光産業では、3ヵ月もの緊急事態宣言下で満足な補償もなく喘いでいる。

沖縄北部のタクシー運転士はこう嘆く。

「会社には、行政から多少の支援があるみたいですけど、運転手は出勤日数減らされてるだけです。わたしなんか出勤しないと収入はゼロの契約ですから、次の仕事を探すことを考えてますよ」

那覇市内の飲食店経営者は、こう話していた。

「東京では時短協力金がなかなか支払われなくて苦しいという話も聞きますが、沖縄では行政の人たちは頑張ってると思います。ウチもそれでなんとか食いつないでいます。しかし、ダイビングサービスの経営者なんかまったく補償もないのに、お客さんが減っているわけです。そういう人への手当てを政府がなんとかしてくれ、と言いたいです」

戦争と平和について学ぶ場も危機に

沖縄には、戦争と平和についての学びの場として貴重な資料館や美術館がいくつもあるが、どこも窮地に立たされている。糸満市の「ひめゆり平和祈念資料館」や、那覇市の「不屈館」では、チャリティーライブをして寄付金を募ったり、クラウドファンディングで支援を得たり、と苦境を乗り越えてきた。丸木位里・俊夫妻の「沖縄戦の図」シリーズなどを所蔵展示していることで知られる宜野湾市の「佐喜眞美術館」関係者は、厳しい実情を語っている。

「コロナ禍で、修学旅行のキャンセルが相次ぎました。入場料収入が激減し、大きなダメージを受けてます。ほんとにギリギリのところまで来ています。そろそろウチもクラファンを考えないといけないかもしれません」

沖縄戦で看護師として動員された女学生たち。まだ10代だった彼女たちが体験した「地獄」から学ぶものは多い。コロナ禍に訪れる人が減った「ひめゆり平和祈念資料館」も、運営が厳しくなっているという

コロナ禍で苦しいのは、もちろん沖縄だけではない。が、米軍基地の約7割を「引き受けさせられている」この地の不安は、他県とは異なっている。独自の感染対策、経済対策が必要だろう。しかし政府は、コロナ禍に乗じて辺野古新基地建設ゴリ押し工事を加速させる気満々だ。

昨年4月、沖縄本島南部地域の「沖縄戦犠牲者の遺骨まじりの土砂」を辺野古埋め立て用に使う計画が明らかになった。沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表・具志堅隆松さんらが中心になって、計画中止を訴えている。今年3月と6月にはハンガーストライキをするなど、必死の訴えをしているのだ。

「遺骨の眠る土地を掘り起こして、その土砂を米軍基地を造るために海に投げ入れるなんて、戦没者を二度殺すようなものです。国による死者への冒涜(ぼうとく)を絶対に許すわけにはいきません」(具志堅さん)

遺骨の収集を続けている具志堅さんは、今年3月と6月、沖縄県庁前や平和祈念公園でハンストを行った。テントには、多くの市民が激励に駆けつけたという

3月には東京・永田町の首相官邸前でも、沖縄出身者が単独でハンストを決行した。座り込みは4月まで続いた。県内メディアは大きく報道し、活動への共感は県民の間に広がっている。が、全国メディアの報道はあまり多くない。具志堅さんらは、8月15日の戦没者追悼式に合わせ、会場になる東京・日本武道館近隣でのハンストも考えているという。

政府は、沖縄の世論をねじ伏せたい

菅義偉首相自身が事実誤認と印象操作によって、コロナ療養者のための宿泊施設を用意できていないのは沖縄県の失策のせいだと喧伝しようとしたことがある。

あるいは、県政与党議員だったはずの赤嶺昇県議会議長が、PCR検査の拡充ができないまま感染拡大に至ったのは玉城デニー知事の失策のせいだと喧伝しようとしたこともある。

菅首相は、新基地建設推進政策に歯向かう沖縄の世論をなんとかしてねじ伏せたい。そのための「沖縄の民意分断工作」を、官房長官時代から絶えずしかけてきた。故・翁長雄志前知事との会談で、普天間基地が出来た歴史的経緯などを説明されたとき、「私は戦後生まれなので、歴史の話をされても困ります」と返した。

菅義偉という人は、歴史に学ぶことをしない。沖縄と向き合う際に最低限必要な真摯さを著しく欠いている。政府はコロナ禍に乗じて「沖縄いじめ」を加速させており、その度合いはますます酷くなっているのだ。

沖縄からは、この国の狂った姿がくっきりと見える。この苦境は、いずれ沖縄だけでなく全国に広がってしまうのではないだろうか。ここ沖縄から見る日本の未来は、けっして明るいものではない。

県知事が措置命令を出し、開発にブレーキをかけた「熊野鉱山」(糸満市)は、すぐ隣に「魂魄の塔」や「東京の塔」もある慰霊の地。一帯には今も遺骨が眠っている
沖縄県には31の米軍施設がある。米海兵隊基地のある名護市・辺野古崎(へのこざき)、南側の浅瀬の埋め立てが進んでいるのがわかる
  • 取材・文・写真渡瀬夏彦

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