この夏、異常な「ゲリラ豪雨」が日本を襲っているワケ
発生回数が昨年の2倍となるところも 中国・河南省では「1000年に一度」の大雨で1331万人が被災 北海道、東日本の日本海側、関東北部は特に要注意
「1000年に一度」
地元メディアがそう報じる記録的な豪雨が中国の中部、河南省で観測された。同省・鄭州市の7月17日夕方から20日夜までの降水量は計約617㎜。これは同市の1年間の平均雨量にほぼ等しい。とくに20日午後には1時間に200㎜を超える猛烈な雨が降り、市内各所の道路が完全に水没した(上写真)。
河南省当局は7月27日、死者が計71人におよび、1331万人が被災したと発表した。災害リスクに詳しい立命館大環太平洋文明研究センターの高橋学特任教授はこう解説する。
「本来、鄭州は水はけが悪い大平原の西端に位置するため、水害を起こしやすい地域です。しかし、普段の降水量が少ないため豪雨への備えが不十分でした。ただ、多大な降水量を考えると、被害の規模には違和感がありますね。1時間で200㎜は異常な数字です。40㎜でも水害が発生します。東京で200㎜の雨が降ったら、低地にある銀座、東京、豊洲、上野などの地下鉄は冠水するでしょう」
実は、この尋常ではないレベルの豪雨が、日本で発生してもおかしくなかった。
株式会社ウェザーマップ代表で気象予報士・森朗(あきら)氏はこう語る。
「日本の真上に一時的に高気圧が存在していたため、台風6号の水蒸気を多く含んだ空気が日本を避けて鄭州に流れていったんです。もし上空に高気圧がなかったら日本のどこかで同じような大雨が降ったかもしれません」
河南省の水害はけっして他人事ではないのだ。森氏は「8月以降は『ゲリラ豪雨』(局地的な大雨)に警戒が必要」だとこう指摘する。
「今年は例年以上にゲリラ豪雨の発生が増えそうなんです。通常は梅雨が明けて真夏になると、日本の真上に太平洋高気圧がドンと居座り、晴天が続いて天候が安定します。ところが今年はこの高気圧の位置が少しズレ、それもあって勢力も弱い。そのため、寒気が日本列島に流れ込みやすく、ゲリラ豪雨が発生しやすい状態になっています」
世界最大級の民間気象会社「ウェザーニューズ」の発表によれば、日本全国のゲリラ豪雨の発生回数は昨年の1.2倍になる見込みだという。
下の図を参照してほしい。今年7~9月のゲリラ豪雨の予想発生回数は全国でおよそ7万5000回(昨年は6万2000回)。なかでも北海道や東日本の日本海側、関東北部では昨年比1.5~2倍に増加する。
「今年一番危ないエリアは、気温が上がりやすく、寒気の端が降りてきそうな関東から近畿にかけて。ピークとなる時期はお盆過ぎの8月中旬から下旬です。
日本では『長崎大水害』(’82年)の1時間187㎜が観測史上最大となっています。この記録があるうえ、年々、短時間で激しく雨が降る傾向が強まっていることを考えると、200㎜の雨がありえないとは断言できません」(森氏)
さらに言えば、ゲリラ豪雨の恐ろしさは、降水量だけではない。
「温暖化が続いている状況下で、近年のゲリラ豪雨は落雷や降雹(こうひょう)、突風を伴う場合が多くなっています。また、竜巻にも警戒してください。竜巻をもたらすのは、『スーパーセル』と呼ばれる巨大な積乱雲です。米国では頻発していますが、このスーパーセルと見られる突風が日本で発生した例が出始めています。なかでも関東平野は要注意です」(森氏)
お盆の前に万全の対策を――。


『FRIDAY』2021年8月13日号より
写真:AFLO、Getty Images、共同通信社