柔道混合団体放送接触率分析でわかった「残念な五輪の見られ方」 | FRIDAYデジタル

柔道混合団体放送接触率分析でわかった「残念な五輪の見られ方」

勝利だけが見たいのか? 接触率乱高下の意味とは

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柔道混合団体では、日本は決勝戦でフランスに敗れ銀メダルとなった。テレビの前で応援した人も多いだろうが、この試合の番組の観られ方から分かったこととは……(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

日本が銀メダルとなった「柔道 混合団体」。個人では男女あわせて金メダル9つと14階級の3分の2ほどを占めたが、混合団体では決勝戦でフランスに4対1で敗れた。

その中継の接触率推移をみると、数字は極端な乱高下を見せた。どうやら試合展開や選手の人間性より、日本が勝利する姿だけが見たいという視聴者が少なくないようだ。そうした視聴者の様子を、視聴データで分析してみた。

決勝戦の概要

今回の東京オリンピックでは、日本の柔道は快進撃を見せた。混合団体が始まるまでに、男女合わせて金9個、銀1個、銅1個と計11個のメダルを獲得しており、フランスを圧倒していた。

決勝戦は、以下6人が出場した。
第1試合 新井 千鶴(70キロ級 金)
第2試合 向 翔一郎(90キロ級 3回戦敗退)
第3試合 素根 輝 (78キロ超級 金)
第4試合 ウルフ アロン(100キロ級 金)
第5試合 芳田 司 (57キロ級 銅)
第6試合 大野 将平(73キロ級 金)

決勝戦の中継は、7月31日(土)の夕方6時半過ぎから始まった。時間的には悪くない。

裏では日本テレビが陸上男子100m予選などを放送し、6時30分から10時までで世帯視聴率11.4%をとっていた。またNHKはサッカー男子準々決勝「日本×ニュージーランド」(7時30分から8時39分)で、なんと26.9%と高い数字を出した。

それでもTBSの柔道中継も、5時から7時50分までで14.0%とかなりの数字だった。2時間50分の内容は、日本がドイツを下した準々決勝とロシア五輪委員会との準決勝をVTRで見せ、フランスとの決勝がライブ中継となった。

番組全体の接触率推移をみると、9%前後で推移していたVTR部分から、ライブ中継にかわると急上昇した。16~17%台を上下し、フランスに敗れた瞬間は18%近くまで上がった。ところが直後に急降下して5%を切ってしまった。結局は中継部分が、前後に比べ倍近い数字だったのである。

乱高下する決勝戦

では決勝戦の各試合を、接触率データで詳しく追ってみよう。

第1試合は女子70キロ級で金メダルだった新井が、63キロ級で金メダルだったC.アグベニューと対戦した。試合が始まると数字は急伸したが、途中で新井が出血し治療で畳を降りると直ぐに数字も下がった。試合がとまっている間は、寸暇を惜しんで裏の陸上やサッカーをチェックする視聴者が少なくない。

試合は残り30秒ほどで新井が“技あり”をとられ、あわせて“一本”となり敗北した。すると数字も一瞬下がる。視聴者の落胆が、接触率にも反映しているかのようだ。

第2試合は男子90キロ級の向と、同じクラスのA.クレルジェが闘った。この試合でも、クレルジェが出血で治療に入った際に、やはり数字は急落する。ザッピングをする視聴者が相当数いることがわかる。

試合は延長戦(ゴールデンスコア)の末、向が敗れて日本は2連敗となった。すると接触率は1.5%以上急落した。

女子78キロ超級で金メダルの素根と同クラス銅のR.ディコの第3試合となっても、元に戻らない。男子100キロ級金のウルフ アロン対100キロ超級銅のT.リネールが激突した第4試合が始まっても、試合終盤になるまで数字は回復しなかった。

要は2連敗で日本の金メダルが難しいと直感し、完全に見るのをやめた視聴者がかなりいたのである。

しかも素根は勝利したもののウルフは敗れ、日本は1勝3敗と後がなくなった。やはりこの瞬間も1%以上の人が流出した。さすがに大詰めだけあって、女子57キロ級銅の芳田と同銀のS.シジクの第5試合では、接触率は試合開始まもなくで回復した。

それでも途中で芳田が“技あり”を決められたり、繰り出した寝技が決まらなかった瞬間、同じように数字が下落する。どうやら日本の敗北を見たくない人はかなりの数にのぼると考えざるを得ない。

敗北の瞬間

極めつけは、芳田が負け日本の銀メダルが決まった瞬間だ。

接触率は急落をはじめ、わずか10秒で1.5%ほど下落した。この間に映し出された映像は、勝者シジクの歓喜の顔だった。

次の20秒で下落幅は2.5%に達する。その時の映像は、フランスチームの欣喜雀躍、芳田の得も言われぬ顔やため息、落胆する日本チーム、そしてフランス応援団の喜ぶ様だ。

結局、試合終了後1分で5%以上急落した。最後は日仏両チームが畳の上で称え合う感動のシーンとなるが、視聴者の3分の1は既に消えていた。その後に敗れた日本チームの6人がインタビューに応じたが、その時には半分ほどの視聴者が去った後だった。

第1試合の新井は「先方として良い流れを作らなければいけなかったが不甲斐ないです」と、悔しさを押し殺した顔で語った。向・ウルフ・芳田のそれぞれの敗者の弁も味わい深いものだった。

自らの出番がないままチームが敗れてしまった大野は、「応援ありがとうございました。フランスチーム強かったです。尊敬しています」と相手チームや周囲を気遣う言葉から始めた。そして「正直この場で自分の柔道を見せたかったという気持ちはありますが、チームで戦えたことを誇りに思っています」と語り、3年後へと前を向く姿勢を見せてインタビューを〆ていた。

オリンピックの各競技には、参加する一人一人に思いと物語がある。それを見せてくれるのが試合後の表情であり、インタビューではじめて人間性が垣間見える。ところが日本が負けた瞬間に視聴をやめてしまう人があまりに多い現実をみると、複雑な気持ちにならざるを得ない。オリンピックはテレビゲームではなく、生身の人間によるスポーツを介した表現だからだ。

メディアの中にも日本のメダル数だけに拘ったり、各試合の勝敗にフォーカスするだけだったりといった記事がたくさんある。そもそものオリンピック精神に思いを寄せると、勝敗やメダル数という表面だけでなく、もう少し行間を楽しむような見方があっても良い。

「柔道 混合団体」の視聴データの意味するものを考えると、釈然としない気持ちになる。

  • 鈴木祐司(すずきゆうじ)

    メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

  • 写真森田直樹/アフロスポーツ

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