おかえり、高橋大輔選手! ファンが見てきた「復活」までの4年間

現役復帰はまさに「晴天の霹靂」だった

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10月7日、フィギュアスケートの近畿ブロック大会の会場、兵庫県・尼崎スポーツの森のリンクは、全日本と見まごうまでの熱気に包まれていた。高橋大輔選手の復帰戦となったこの日は、地獄のチケット争奪戦を勝ち抜いたファンが全国から駆け付けた。かくいう私も、奇跡的にチケットが当たり、新幹線に飛び乗りやってきた一人だ。

「大ちゃんファン」になって約13年、復帰の舞台にいられるのは感無量である。本来なら無料で見られる大会なのだが、高橋選手の参加が決まったことで、混乱を避けるために急遽有料の事前抽選になった。

家族や友人に協力を頼み、10口以上申し込んだのにかすりもしなかった人を何人も知っている。あきらめきれず、チケットなしで会場まで足を運び、チケット募集のプラカードを持って立った猛者もたくさんいた。

それほどの熱気と注目が集まった、今回の復帰戦。
ファンが見守る中、ついに6分間練習で高橋選手がリンクに現れた。黄色い歓声が飛ぶなか、高橋選手が滑りながらジャージを脱いでいく。初お目見えとなるSPの白いコスチュームが現れ、声援は更に高まる。

「本当に復帰したんだーー」。
それがどれほど奇跡的なことであるかを、長年見てきた大ちゃんファンなら知っている。待ち望んだ瞬間がやってきた。静まりかえったリンクに「7番 高橋大輔さん 関西大学KFC」というコールが響き、大歓声とともに、高橋選手がリンクイン。両手を広げ風を切ってセンターに向かっていく。

ソチ五輪以来、実に4年半ぶりの実戦。しかも夏は肉離れで練習ができなかった。どんな演技になるのかと思いは乱れ、ファンの私も既に生きた心地がしない。不安と期待を抱えながら、スタート位置についた高橋選手を食い入るように見つめた。

会場となった尼崎スポーツの森

ファンも復帰はあきらめていた

高橋選手が現役復帰する電撃発表があったのは今年の7月1日。’14年の引退から約4年、ファンでさえ完全にノーマークだった。10代から20代前半の選手が多いフィギュアの男子シングルに32歳での復帰は異例中の異例。高橋選手は、アジア男子(日本人男子としても)として、初の五輪メダリストであり、初めて世界王者となった「レジェンド」でもある。

そのレジェンドが国際大会の復帰枠も使わず、32歳で地方大会から一から出直す。そんな復帰も、新しい道を次々と切り開いてきた彼らしい決断なのかもしれない。

引退は28歳の時、ソチ五輪後の休養したシーズン途中での発表である。怪我で満足のいく演技ができないまま、本人も迷いが見えるなかでの決断だった。ファンも万雷の拍手と花でリンクから送り出せなかったことは心にささった棘となった。

本人も「目標が定まらず抜け殻」となり、「もうスケートに戻らないかもしれない」という言葉を残し、語学留学のためにNYへ旅立ちファンをやきもきさせた。しかし、悩みながらも「スケートを軸にいろんなことに挑戦しながら目標を探す」と切り替え、帰国後は国内外のアイスショーに出演しながら、全日本フィギュアのナビゲーターやニュース番組のキャスターにも挑戦。その姿はみなさんご存知だろう。

引退後も高橋選手の活動を追っかけてきたファンの一人として、印象深いショーが2つある。1つ目は、’16年と’17年に行ったダンスショー『LOVE ON THE FLOOR』。米国のトップダンサーたちとの競演で、日本人は高橋選手ただ一人。スケート靴を脱いだ陸の舞台ながら、まるで何かが憑依したような圧倒的な存在感をみせつけ、2年とも13公演をほぼ満員にする動員力を示した。

もう一つが、歌舞伎とフィギュアスケートの初の饗宴『氷艶 HYOEN 2017~破沙羅~』だ。当時の市川染五郎さん(現・松本幸四郎)とのW主演で、歌舞伎役者とプロスケーターがともにリンクに上がり、神代が舞台の物語を演じた。

氷上での猛スピードの殺陣や、日舞とヒップホップの手踊りを混ぜた高橋選手の独舞など、その中身は圧巻の一言。3日間3万5000人の観客を魅了し、彼も新たなアイスショーの可能性を感じたようで、この後「パフォーマーとして生きていきたい」趣旨の発言をし始めた。

私自身、ソチ五輪から止まっていた時計が、この「氷艶」から動き出したように思う。ファンとしては高橋選手がパフォーマーとして生きていく決意が固まってきたのはうれしかった。だが、密かに抱いていた「現役復帰」の夢は徐々にしぼみ、引退から4年目となる平昌五輪のシーズンに復帰しなかったことで、多くのファンは完全にあきらめかけていた。

その矢先、まさかの現役復帰――。これを「晴天の霹靂」と言わず、なんと言おうか。
また、高橋選手の競技プログラムがみられる。復帰理由のなかに、「スケートを軸に、今後、パフォーマーとして生きていくために、まず現役に戻って体を作り直し、自分のスケートを取り戻したい」というものがあった。将来の目標を持っての復帰、何より本人が前を向いている様子にファンはどれほど喜んだことか。

復帰戦当日、関係者に笑顔でお辞儀をする高橋選手

おかえりチャンピオン

10月7日の復帰戦に話を戻そう。SPは坂本龍一作曲の『The Sheltering Sky』。振り付けは2度目のタッグとなるディヴィッド・ウィルソン氏だ。

復帰最初の演技ということもあってか、多少動きが硬かったが、最初のポーズを決めたときから、観客を魅了するスケートは健在。出だしの3アクセルも無事に決まった。切ない調べに合わせたステップに、みなが引き込まれていくーー。2分半の演技後、スタンディングオベーションとともに、会場のあちこちから「おかえり!」の声が飛んだ。

SP1位で迎えた、翌日のフリーは現在もっとも注目される振付師ブノア・リショー氏と初タッグ。曲は『Pale Green Ghosts』だ。残念ながらこの日は生で見られず、動画で見ることに。ジャンプは失敗が多かったが、何という斬新で力強いプログラムだろう。

アシンメトリーの黒い衣装に身を包んだ高橋選手は、まるで魔界の戦士のようだった。ラフマニノフの「鐘」をリスペクトしたこの曲は、クラシックの重厚な調べから、徐々にモダンで怪しいリズムが刻まれ、軽快なボーカルが入ってくる。その変化を高橋選手の柔軟な動きやスピーディーなステップが見事に表現し、後半の黒い炎のようなステップにワクワクがとまらない。

ジャンプの失敗が響き結果は近畿ブロックで3位。「ブランクが出た」「体力的に厳しい」などの声もあるが、ファンはとても明るく見ている。私自身もそうだが、あのプログラムが磨かれ、完成されることを考えると、楽しみで仕方ないのだ。

海外の有名なフィギュアサイトを手掛けるジャーナリストも「スタミナにはまだ課題があるが、フリーは彼のマスターピースとなりうる作品。おかえりチャンピオン。これからあなたが進む道を楽しみにしています」という趣旨のコメントを発表。世界を見ても、レジェンドの帰還の反響は大きい。

何より高橋選手自身が「こんなにぼろぼろになったのは初めて」といいながら、はちきれんばかりの笑顔を浮かべていたことが印象的だ。

いつだって、高橋選手は「今」の演技が最高である。
現役を離れていた時、ダンスを通してスケートとは違う筋肉を鍛え、外側からフィギュアの世界を見つめ直すこともできた。これらが彼の血肉となり、さらに進化した演技を見せてくれるに違いない。

今年の高橋選手の目標は、「全日本の最終グループ入り」だそう。それを会場で見届けるため、我々ファンはいち早く、「チケット争奪戦」という負けられない戦いの真っ最中なのだ。

  • 田中亜紀子写真アフロ(1枚目)、菊地弘一(3枚目)

Photo Gallary3

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