BE:FIRSTがNiziUやJO1をしのぐ期待を集める理由
ついにオーディション『THE FIRST』完結。逆風を覆した決め手とは?

「虹プロの二番煎じ」の声を払拭
13日朝、『スッキリ』(日本テレビ系)で、オーディションプロジェクト『THE FIRST』のデビューメンバーが発表された。
この週の『スッキリ』は毎日『THE FIRST』の特集を組んできたが、13日は番組の約半分を割き、さらに彼らをプロデュースするSKY-HI(AAA・日高光啓)が生出演。昨年放送された『Nizi Project』を上回るほどの扱いであり、爆発的なSNSのコメントや動画配信数などとともに、盛り上がりの大きさを物語っている。
SKY-HIが発表したグループ名は、「常にトップを狙う」という願いを込めた“BE: FIRST”。メンバー数は当初予定された5人から7人に増やし、ソウタ、シュント、マナト、リュウヘイ、ジュノン、リョウキ、レオの順で選ばれた。
当初はNiziUを輩出した「『Nizi Project』の二番煎じ」。あるいはボーイズグループのプロデュース経験がないSKY-HIに対して「彼で大丈夫か?」。さらに「『スッキリ』も徐々にフェードアウトするのでは」などと軽く見る声が目立っていたが、現在では「NiziUよりも期待できるのでは」という声すら聞こえてくるように変わった。
逆風を覆し、これほど期待されるようになった理由は何なのか。
パフォーマンスがコンセプトに到達
BE:FIRSTのメンバーが支持を集めるようになった最大の理由は、「コンセプトにパフォーマンスが追いついてきたから」だろう。SKY-HIは当初から参加者たちに「クリエイティブファースト、クオリティファースト、アーティシズムファーストのチーム」「意志がある。主張がある。メッセージがある。だけどお互いを尊重し合えるグループ」の結成を打ち出していた。
実際、超一流の講師をそろえた「疑似プロ審査」や、参加者が自ら楽曲や振り付けを手がける「クリエイティブ審査」などのオーディションは斬新かつハイレベルなものが続出。参加者たちは必死に食らいつくことで才能を輝かせ、段階的な成長を見せて、パフォーマンスの精度を上げてきた。事実、最終審査で初めて彼らのパフォーマンスを見た人々の中にはレベルの高さに驚いた人も多かったようだ。
加えて、彼らの情熱や絆の素晴らしさを知っている視聴者と業界人の間で、「彼らなら本当にSKY-HIの打ち出したチームになれるのではないか」と期待せずにはいられないムードが生まれている。
また、SKY-HIは公式ホームページで、《ダンス&ボーカルといえばK-POPという時代になってから随分と経った。特にクオリティと手数の多さでは大きく水を開けられてしまった。僅か10年ほどで、である。次の10年で、本気で追いついて、日本から世界へ新しい風を巻き起こすつもりである》と宣言していた。
『Nizi Project』のNiziUも、『PRODUCE 101JAPAN』のJO1とINIも、ほぼ日本人で結成されながらも、楽曲やビジュアルなどの面でK-POPの流れを組むグループ。嫌韓感情のある人も少なくない中、「メイドインジャパン」と言い切れるBE :FIRSTへの期待値が高くなるのは当然だろう。
SKY-HIもBE:FIRSTのメンバーも、K-POPグループの向こうに世界を見ているだけに、「その夢を一緒に追いかけていきたい」というファンが今後も増えていくのではないか。
「全員を背負う」SKY-HIの覚悟
そしてオーディションコンテンツとしての『THE FIRST』を成功に導いたのは、当然ながらSKY-HIにほかならない。『スッキリ』で放送されるたびにネット上には、「こんなに素晴らしい人だったのか」とSKY-HIの人柄を称える声が相次いでいた。
オーディションにおける“選ぶ側”の人は、「参加者と距離を置く」のがセオリーだが、SKY-HIは合宿で彼らと寝食をともにすることを選んだ。その理由は、「個々の才能を伸ばすために、よりアドバイスの機会を増やしたいから」であり、その前提として「信頼してもらうため」という。
もちろん“選ぶ側”だけに、脱落者を決めるなど非情に徹しなければいけない瞬間も多く、「つらかったです」と漏らしている。SKY-HIは私財1億円を投じただけでなく、「自分がつらくても、参加者のためになることを優先させられる」タイプの人間であり、それが“見る側”の人々にも伝わっていたのだ。
そんな姿を象徴していたのが最終審査直前の夜。SKY-HIは参加者たちに正座で向き合い、「次に会うのは最終審査の会場。『このグループでデビューしよう』というのを考えて発表します。ここまで素敵なアーティストになってくれて心から本当にありがとうございます」と声をかけつつ、土下座するように頭を下げた。
さらに最終審査の会場に富士山合宿で脱落した5人を招き、彼らにも「よく来てくれました。ありがとう」と頭を下げ、同じ仲間というメッセージを贈っている。
その他にも、「必ず参加者全員の名前を呼んで声をかける」「ときに全身で楽しさを表現し、誰よりもはしゃぐ」「審査当日は参加者に敬意を表するためにスーツ・ネクタイ姿で登場する」「脱落したメンバーに救済案を提案し、別の可能性を模索する」「結果として最終審査で絶望する人を出さず、感動のエンディングを作る」など、全員を背負うかのような覚悟を見せ続けてきた。
早くも「プレデビュー曲」をリリース
メンバー発表直後、『スッキリ』に生出演したSKY-HIは、「単純に『ヒットするボーイズグループを作りたい』っていうよりは『価値観そのものをひっくり返すカルチャーを作る』つもりで。『今ここにないものを、完全にそれが必要だ」と思ったので、『人生賭けてやってみよう』と思った」とコメントしていた。これを聞いて、「日本にもこんなに素晴らしい若き音楽プロデューサーがいる」と理想の上司像を感じた人が多かったのではないか。
デビュー前からこれほど互いの性格や長所を知り合い、グループコンセプトを強烈に意識し合い、強い絆を感じ合っているグループはなかなかお目にかかれない。少なくとも、これらの意味ではNiziU、JO1、INIに負けていないだろう。また、BE:FIRSTの“上”ではなく“横”の目線で、“アーティスト・SKY-HI”が接している心強さも特筆に値する。
16日にプレデビュー曲「Shining One」がリリースされ、25日には『スッキリ』でテレビ初パフォーマンス披露。それぞれどれほどの結果が出るのか楽しみだ。Huluでもこれまでの未公開シーンやデビューまでの軌跡を追う新コンテンツが始動するなど、まだまだ彼らはこの夏を盛り上げてくれるだろう。
文:木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。ウェブを中心に月30本超のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、地上波全国ネットのドラマは全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。