鉄腕・下柳剛が「投手のバックアップ」に見た日本金、米国銀の差 | FRIDAYデジタル

鉄腕・下柳剛が「投手のバックアップ」に見た日本金、米国銀の差

元阪神下柳剛が独自の視点で捉えた侍ジャパン金メダルの理由

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悲願の金メダルの瞬間、マウンドに駆け寄る侍ジャパンメンバー 写真/JMPA

東京オリンピック悲願の金メダルで幕を閉じた侍ジャパン。5戦全勝とはいえ苦しい試合展開が続いたが、栄光の金メダルを手にした日本と他国のどこに違いがあったのか。ダイエー、日本ハム、そして阪神で活躍し、05年には最年長最多勝のタイトルを獲得した鉄腕・下柳剛が解説する。

日本野球の金メダルに泣いた

東京オリンピックはテレビの前でずっと泣いてたよ。スケートボード女子パークで世界ランキング1位の15歳、岡本碧優が金メダルをかけて最後に大技に挑んで失敗した後、国籍関係なく参加選手みんなで称えたシーンとか。陸上女子5000m走で接触して転んだアメリカとニュージーランドの選手が互いに励まし合いながらゴールまで走ったシーンとか。男子板飛び込みで、6大会出場となる寺内健が最後の演技を終えた後に会場から万雷の拍手も浴びたシーンとか。

これぞオリンピック、というシーンにいくつも出くわした。

そしてもちろん、侍ジャパンの金メダルも泣けた。13年ぶりにオリンピックに野球が戻ってきて、また次のパリ大会から消えてしまう。おそらく最後になるであろうオリンピックでの野球。稲葉篤紀監督率いる日本は当然のように金メダルを期待されて、しかも同じ境遇にある女子ソフトボールが見事金メダルを獲得していた。これで金を逃したら「野球はなにしてんだ!」って騒ぎになるところ。自国開催、しかも実質最後のオリンピックで金メダルを宿命づけられて……日の丸を背負うことは、選手も監督もコーチもとんでもないプレッシャーだったと思う。

何より嬉しかったのは、今回の日本の金メダルが、日本がやるべき野球をしっかりやったことによってもたらされたこと。コロナ禍だろうと無観客だろうと、6ヵ国しか参加していなかろうと、自分たちの野球を一瞬でも見失わず最後までやり抜いて結果を出した。終始、目の前のプレーにかける集中力が凄まじかったよ。

1球にかける執念を見たバックアップ

世界の野球の中では明らかにパワーで劣る日本が、きめ細かな野球で金メダルに辿り着き、一方でアメリカは銀メダルに終わった。その差を象徴した対照的なプレーがある。

準決勝の韓国戦に先発し、5回1/3自責点2でまとめた山本由伸 写真/JMPA

ひとつは準決勝の日本対韓国戦。6回表の日本の守備で、先発の山本由伸(オリックス)が0アウト2塁から韓国の2番打者・姜白虎にレフト前へヒットを打たれたシーン。そしてもうひとつは決勝の日本対アメリカ戦。8回裏の日本の攻撃で3番打者・吉田正尚(オリックス)が1アウト2塁からセンター前にヒットを打ったシーンだ。

ともに点が入ったこのシーン、どちらも外野からの返球が逸れ、バックネット方向へボールが転がった。この時、準決勝での日本はバックアップに入っていたピッチャーの山本が身を投げ出してボールを抑え、打者の2塁進塁を止めた。それに対して決勝でのアメリカは、同じくバックアップに入っていたマクガフ(ヤクルト)がバックネットに当たって転がるボールを捕ってホームに送球。しかしランナーの山田哲人(ヤクルト)が間一髪早くホームインし、リプレイ検証の末、決定的な1点が認められた。

外野手からの返球が逸れるのを見て一気にホームインした山田哲人 写真/JMPA

どちらもバックアップに回った投手は間違っていない。ただ、ここに日米の1球にかける執念の差を見た。外野からの送球を予測してバックアップに入りボールをギリギリ食い止めた山本と、形だけバックアップに入ってボールが逸れてから対応したマクガフ。そこには、どれだけプレーに集中していたかという差が見て取れた。あの山本のプレーに、日本の選手たちがどれだけ本気で金メダルと獲りたいと思っているのか、その気持ちの強さが凝縮されていた。

たしかにこのバックアップは山本個人の好プレーだ。でも、俺にはそうは見えなかった。その裏には、やっぱり極限の集中状態にあった日本チームの結束があると感じたね。

結果、打って勝てばいい、投げて勝てばいいというアメリカの大味な野球でなく、神経を張り巡らせながら突き詰めて勝利を目指す日本の野球がトータルで上回ったことを証明してくれた。

中継ぎの難しさを感じさせなかった千賀のメンタル力

チームとしての集中力、結束力が個人の好プレーを呼び込んだと感じたのは、みんながみんな持ち味を出していたから。個々の果たすべき役割をしっかりやり切った。

日本が戦った全5戦でエラーはたったのひとつ。ルーキーで活躍した伊藤大海(日本ハム)、栗林良吏(広島)は若手特有の怖いもの知らずの腕の振りで何度もチームを救ってくれた。キャッチャーの甲斐拓也(ソフトバンク)なんかは、オリンピック期間中ほとんど寝てないんじゃないかな。ピッチャー陣と話し合いを重ねていただろうし、データを取るために他国の試合も観ていただろうし。

試合中もピッチャーとサインが合わない時はしっかりタイムを取っていた。1球たりともバッテリーが納得のいかない投球をしないようにというすごい緊張感を持っていた。打撃面でも、初戦のドミニカ戦、1点ビハインドで迎えた9回のセーフティスクイズなんて、これまでのオリンピックで誰もやったことないんじゃない?

決勝のアメリカ戦で1回無失点に抑えた千賀と甲斐のバッテリー 写真/JMPA

その甲斐と普段は同じソフトバンクでバッテリーを組んでいる千賀滉大は、今回のオリンピックでは中継ぎに回った。彼を筆頭にレギュラーシーズンでは先発の投手が中継ぎに回ったけど、これは簡単なことじゃない。特に千賀は先発としてキャリアもあるし、ケガ明け。中継ぎでいくのは難しかった面もあったと思うよ。

本来、先発から中継ぎに回るより、中継ぎから先発に回ったほうがやりやすい。肩の作り方といった話ではなく、メンタルの持っていき方がまるで違う。先発は最初から試合の流れを見ながら、時には自分で流れを作りながら対応していく。でも、中継ぎは既にできている流れの中に急に突っ込まれる。

しかも流れを止めるべき時もあれば引き継ぐべき時もあって、その対応は先発に比べたら数倍複雑で難しい。でも、千賀はそんな難しさなどおくびにも出さなかったね。実際、甘いボールもあったけど、気持ちを入れて腕を振っていたから抑えられた。ホント、すごい度胸だよ。

メジャーリーガー連れてこんかい!

無観客だったとはいえ、現場を運営しているスタッフもボランティアもみんな日本人だから声援は聞こえなくてもどこか日本を応援している空気感が追い風になったんじゃないかな。準々決勝のアメリカ戦の延長タイブレーク。0アウト1、2塁から始まるんだから、2失点は覚悟しないといけない。そこを無失点という最高の形で切り抜けた栗林には驚かされた。ただ、本人の力はもちろんだけど、やっぱりあの場面は自国開催という後押しで何かしらの力が働いたんだと思う。

俺は相撲、柔道、空手、そして野球は国技だと思っている。今回の東京オリンピック、余計なプレッシャーを感じて本来の力を出せなかった競技や選手もいた中、野球ではその重圧がプラスに働いてくれた。野球の神様がいたんだって、そう感じさせてくれたよ。たかが野球っていうけど、でも俺たちにとってはされど野球だから。

次回の侍ジャパンの舞台は早ければ23年に行われるWBC。今回、銀メダルに終わったアメリカに言いたいね。

「バリバリのメジャーリーガー連れてこんかい!」って(笑)。

  • 取材・文伊藤亮

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