東大野球部左腕が明かす「文と武を本当に両立させる思考法」 | FRIDAYデジタル

東大野球部左腕が明かす「文と武を本当に両立させる思考法」

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マウンドに立った時の小宗氏(本人提供)

東京大学野球部の左腕として4年間で27回マウンドに立った小宗創投手は、現在、勝利至上主義と高校野球をテーマに、卒論を執筆中だ。

甲子園大会のあり方について、私は違和感を覚えてきた。米国のスポーツ界を取材するようになってからは、特にである。メジャーリーグやNCAAではあり得ない連投や強行スケジュール、そして暴力指導が蔓延る世界だからだ。そこで先日、甲子園のみならず我が国のアスリートの環境が改善されることを祈り、スポーツ先進国の事例を紹介する内容の『ほめて伸ばすコーチング』を上梓した。

小宗投手がその本を読んだことで、出会いが訪れた。彼は言った。

「高校野球の問題点を解明というか、高校野球の成り立ちと部活との関わり方、日本と海外の学生野球との違いを比較して結論を出そうと思っています」

小宗氏は武蔵高校2年次に、夏の甲子園予選西東京大会でベスト16という成績を残している。エースとして投げ抜いた。

「高校時代はチームワークの大切さを学びました。3学年全部員を合わせて20人弱の全員野球でした。メンバーはどこかで必ず公式戦に出場できたと思います。
僕の代は6人だったのですが、バラバラな方向を向いていては、チームが一つにならず絶対に勝てない。だから、定期的にミーティングを重ね『勝利』という同じ方向を目指すようにしました」

3年次は更に上を狙う筈だったが、春先に左肩の筋肉を損傷し、2カ月間をリハビリに費やす。

「最後の夏には間に合ったのですが調子が上がらず、1回戦でコールド負けしてしまいました」

その悔しさを大学で晴らそうと、東大野球部でプレーすることを誓う。

「選手として、野球を上のステージでやることと、東京大学で野球をするという目標が並立していました。六大学野球でやりたかったのですが、自分の実力を鑑み、どこの大学なら出られるかということを考えて、東京大学を志望校としたのです」

高校時代、学業との両立を彼はどのように捉えていたのだろうか。

「野球をやることで体力がつき勉強にも生きる、という気持ちがありました。平日は4時間ほどの練習が終わった後、肉体的にきつくて勉強ができない状態に陥っていましたから、片道1時間の通学時間を無駄にしないようにしました。電車の中で単語帳などを開いて、暗記物を学習しましたね。ノートを見返すのも電車内でした。

勉強面に関しては、周りの環境が良かったと感じています。武蔵高校は半数くらいが東大を受験しますから、そこを目指すのが普通でした。また、助監督が東大野球部のOBの方だったんです。武蔵の卒業生でもあって、東大野球部を引退して院生だった時に指導者として来られていました。何度も『東大野球部は楽しいぞ』と話していましたね。身近にそういう方がいることで、目標が具体的になっていきました」

だが、日本の最難関校である。現役合格は叶わず、一浪を経験した。

「受験勉強に集中する日々でしたが、適度にランニングなどはしていました。近所のバッティングセンターに通ったりもしましたね。東大野球部の試合を見に行ったり、動画で見たりして『このチームの一員になりたい』という気持ちを保ちました。『その為には勉強しなくてはいけない』と考えました。予備校で東大野球部に入りたいという友人ができたので、励まし合いながら過ごしましたよ」
2018年、晴れて東大に合格。迷わずに野球部に入る。

「1年生時の4年生の先輩方は体付きがまるで違いました。皆さん、大きかったです。自分もこんな体を造ることが自然と目標になりました。どこかで、進学校出身者が揃っているチームだろうという思いもありましたが、予想よりもずっとレベルが高かったです。浪人の時に太ってしまったので、トレーニングをして筋肉をつけたり、筋トレをしたり、日々のトレーニングで走ることで絞った感じです」

総勢120名ほどの部員内でのレギュラー争いに勝ち、小宗氏は1年生の秋からマウンドを踏む。大学2年の春からサイドスローを覚え、それを武器とした。白星は挙げられなかったものの、最終学年春リーグの早稲田大学戦におけるピッチングは生涯忘れないと話す。

2021年4月11日、小宗投手は4回から9回まで投げ、試合は0-0で引き分けた。延べ24人の打者に98球を投げ、2安打、無失点、5奪三振と快投。彼はその日を次のように記している。

「まだ4月頭と春の早い時期だったが、マウンドに立っていたら暖かい日差しと応援を感じた。0-0のまま進んだ9回表、この回を抑えれば、負けはなくなると自分を奮い立たせて早稲田打線に立ち向かった。2アウト2塁で迎えたバッターは、3番蛭間拓哉選手。前日もHRを打っており、1番嫌な打者である。ここを抑えれば流れが来ると、真っ向勝負を挑み、三振に打ち取ることが出来た。ベンチに帰る時に出迎えてくれたチームメイトの喜ぶ顔や、観客の拍手、試合後声を掛けてくれた様々な人。これらは一生忘れられない宝物になるだろう」

充実した野球生活を終えようとする今、小宗氏は語る。

「武蔵高校は、ある程度勉強と競技をしっかり分けてやっていたと思うのですが、強豪校だと野球をするために学校に行くという風になっているところも多いでしょう。それはやはり、学生の本分とかけ離れている部分があるのではないかな、と。

最上級生で試合に出られないメンバーは、裏方に回るというイメージも強いです。本人が望んでいるなら、それでもいいと思いますし、本人のためにもなると思います。しかし、そうでない場合、『試合に出られないから、お前はコーチに回れ』というのは、指導者として、あってはならないんじゃないかな、と自分は感じます」

哀しいかな、日本の高校野球ではその種の指導がまかり通っている。2軍以下の生徒は練習をするのみで、公式戦当日はメガホンを持って、客席から校歌や応援歌を歌うことを強いられる。これでは野球部に在籍したことにはなっても、野球をしたことにはならない。また練習とは、あくまでも試合に向けた準備である筈だ。修学旅行にさえ行けず、3年間、練習のための練習を強要する文化が根付いてしまっているのが日本の高校野球だ。

一方、アメリカの高校ベースボールは、1軍には1軍の、2軍には2軍の、3軍には3軍のリーグ戦があり、誰もがプレーできる。必ずバッターボックスに立てるのだ。加えて、いかに優秀なアスリートであってもGPA(評定平均)が2.0を下回ると、部での登録を抹消される。高校生の本分が学業であることを、社会全体で認識している。

「日本の場合は、高校野球で終わりという人が多いのかな、と感じますね。アメリカだと、競技を続けるためにはある程度の学業成績が必要だということがあります。日本でそれは無くて野球だけしていればいい、という調子で、卒業後に困る人が多くいるだろうと思うんです」

2017年度の夏の甲子園で優勝したチームのキャプテンが、大学を1年で中退し、住居侵入、強盗致傷、窃盗で逮捕された事件は記憶に新しい。

「この彼は僕と同年代です。残念だし、勿体ないですよね。もっと学校側が卒業後について指導することが必要ではないでしょうか。野球を続けるにはいかなる選択肢があるのか、続けない場合でも、どんな道があるのかを示すべきです。上のステージもある、草野球もある、と色々な道があって、いつまでも野球が好きでいられ、やり続けられることが大事だと思います」

現在も甲子園大会が開催されているが、毎年叫ばれる炎天下での過密日程も、主催者サイドは依然として改善策を検討しようとしない。100年以上この方法で続いてきたからのだから、それでいいのだ、という姿勢を崩さない。そればかりか、高校生を利用した大人たちのカネ勘定が先行している。アスリートの健康は考えずに、ビジネスを最優先事項としているところに危険を感じざるを得ない。

その点を小宗氏にも訊ねてみた。

「兵庫県の暑さや2週間の過密スケジュールで高校生を行使するということも、最近叫ばれているので、複数の投手を用意しなければ勝ち上がれなくなっていますよね。そんななかでも『甲子園で投げられれば燃え尽きてもいい』と思う選手もいるでしょう。もっと未来の可能性があるのにって思いますね。

日本人は美談が好きで、子供たちが頑張っている姿は受けがいい。そういう国民性が現れているものの一つが甲子園ではないでしょうか。美談にするのは悪いことではないと思いますが、美談にするために過密日程を組んだりすることは、変えなければいけないですよね」

美談の裏で未だに残るビンタやケツバット等の暴力指導についても、彼に質した。

「自分はビンタやケツバットの経験は一度もありません。指導者の方に恵まれました。ですから、野球を嫌いになったことは一度もありません。割と、ほめて伸ばしてもらったなという感じがあります。掛けられた言葉ひとつで、次に繋がるか否かが大きく変わるでしょう。

受けて来た指導が、自分を構成する大きな要素になると思うのですが、間違っているのかなと疑う視点を持たなければ、下の世代を指導してはいけないでしょう。

野球名門校の監督さんたちは、自分がチームを強くしてきたという自負があるでしょうから、指導法が変わり難いように感じます。結局それを変えるには、チームが弱くなるか、問題が発覚するかの2つしかないという気もしますね。体罰等が無くなれば、もっと住みやすい野球界になるかと思います」

小宗投手に野球から学んだことは? と質問すると、「目標に向かって取り組むことの重要性でしょうか。日々の生き方にも活用できるように思います」という答えが返って来た。

いかなるスポーツにおいても、アスリートは自分で判断することが肝心だ。狂信的に監督の指示に従わねばならない日本の高校野球とは、果たして主催者たちが主張する<教育>として機能しているのだろうか。

小宗氏の、「指導者は自分のコーチングに対して疑問を抱かなければ、次世代を指導してはならない」という言葉が胸に残った。

  • 取材・文林壮一

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