サッカー日本代表・長友佑都らが始めた「富士山5合目トレ」の全貌 | FRIDAYデジタル

サッカー日本代表・長友佑都らが始めた「富士山5合目トレ」の全貌

東京五輪のメダルを逃したサッカー日本代表は、9月2日からW杯最終予選がスタート

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6月3日、サッカー日本代表-サッカーU24代表で行われたトレーニングマッチの一コマ。34歳の長友佑都(右)は、20歳の久保建英に負けないスピードでドリブル突破(写真:アフロ)

東京オリンピックの注目競技のひとつだったサッカー男子は、惜しくもメダルに届かず4位で幕を閉じた。大会と同時にU-24(24歳以下)日本代表での活動も終焉を迎えたが、主将の吉田麻也が3位決定戦後のフラッシュインタビューで語っていたように、すぐに次の戦いが待っている。

来年11月21日、カタールW杯が開幕し、そのためのアジア最終予選が来月2日からはじまる。日本代表で10年以上にわたって左サイドバックのレギュラーとして君臨する長友佑都、爆発的なスピードで欧州リーグでも活躍する伊東純也らが通う、日本初の高地トレーニングスタジオ「ハイアルチ」の創業者・新田(しんでん)幸一氏に、トップアスリートが取り入れている秘密を聞いた。

地上で高地の環境と同じトレーニングができる

陸上選手よりサッカー選手が続々集結する「秘密基地」は山の中ではなく、東京・三軒茶屋の駅前にあった。「ハイアルチ」の1号店で創業者の新田氏が開店の経緯をこう明かす。

「箱根駅伝のフィジカルコーチをしていたのですが、そのときに仲間内で日本マラソン界がオリンピックでなぜメダルから遠のいているのかという話になったんです。その時に知ったのが、世界のトレンドは高地トレーニングや低酸素トレーニングで進んでいるのはアメリカではなく高地のないオーストラリア、ということでした。

高地に行くとたしかに心肺機能は赤血球が増えたりして強くなるのですが、激しい運動ができないので筋力が落ちてくるというデメリットがあります。でもオーストラリアでは、『筋力が落ちるのなら地上のトレーニングと高地でのトレーニングを並行してやればいい』とロジカルに考えられるというのです。その情報を聞いた1か月後には、現地に飛んでいました(笑)」

オーストラリアは、低酸素トレーニングの先進国だ。2000年のシドニーオリンピック時に、地元・オーストラリア出身の競泳選手イアン・ソープが、地上での高地(低酸素)トレーニングを取り入れて3つの金メダルを獲得。しかも4×100mのリレーという短距離と400mという中距離の、求められる質が違う両方の種目で金メダルを獲得したことで世界の注目が一気に集まった。新田氏が続ける。

「ダメ元でオーストラリアのオリンピックセンターに行ったら、見学させてもらえることになりました。話を聞いていくと、トレーニングの効果だけでなく、移動や滞在にかかる費用や高山病など病気への懸念といったデメリットも払拭されることがわかりました。日本でも広めたいと思い、まずは手作りの高地トレーニングスタジオをマンションの中に作ってみました。知り合いの大学教授から高地トレーニングに関する論文やデータをもらって、高地での実験通りの結果が出るのかを試したら、本当にその通りになったんです」

2016年に帰国後数ヵ月で東京・三軒茶屋に「ハイアルチ」をオープン。従来はマスクをつけて高地の状態をつくっていたが、「ハイアルチ」ではトレーニングルーム全体を高地と同じ低酸素にしているためマスクは必要ない。「話しながらトレーニングができる」ことをコンセプトにした、日本初の高地トレーニングスタジオだ。そこは標高2500m、富士山の5合目と同じ酸素濃度に設定されている。海外業者との交渉を重ねて、オリジナルモデルを制作。コストも従来の国内メーカー機器よりも数分の1まで抑えて作られている。

10年前のトップフォームを取り戻したい

「ハイアルチ」にはトップアスリートだけでなく、部活をやっている学生の姿も多く見られる。肌ツヤがよくなったり、生理不順が治ったりといった効果も期待できるといい、健康維持が目的の人までユーザー層は広い。「ハイアルチ」が一躍脚光を浴びたのは、元サッカー日本代表の槙野智章がこのジムでトレーニングを積み、パフォーマンスの向上をメディアや自身のSNSで語ったことがきっかけだった。

その後、北海道、大阪、名古屋、広島、福岡などにも店舗ができ、槙野の情報をもとに訪れるJリーガーが急増。今では100人近くに上る。

チームの通常練習に加える持久系の個人練習を実施する場合、2時間ぐらいの時間を確保しなければ、と考えがちだが、それでは長続きしない。新田氏は高地トレの特徴を生かしながら、トレーニング目的が違っていても30分で終了するメニューを考案。さらに選手のデータも数値化して蓄積しているので、たとえばJ1で90分間出場する選手の基準値などが提示できるのだという。

東京オリンピックに出場した選手や、日本代表の若手の有望株も足を運んでいて、その噂を聞きつけた長友佑都もこの夏、三軒茶屋で高地トレーニングに取り組んだ。そのときの様子を新田氏が振り返る。

「来月35歳を迎える長友選手でも運動量や走力が落ちてきています。2011年にインテル・ミラノに移籍したころがピークで、当時と比べたらパフォーマンスは今は6割〜7割と言っていました。長友選手は10年前のフィジカルを取り戻そうとしているんです。そのためには、走り込んだらいいのですが、年齢を重ねているのでリカバリーが追いつかない。

いかに効率良くパフォーマンスを上げるか、どこまで数値を上げればいいのか、ということを私たちはデータとして数字で持っているので、逆算してアプローチしました。7月のオフの期間で計10回トレーニングを行ったのですが、初日の数値から目に見える成果が出て、『こんなに変わるの』と実感していました」

日本代表のスピードスターと称されると右サイドの攻撃的MF伊東純也も訪れていた。ただ、長友と伊東では求めているものが違う。新田氏が解説する。

「長友選手は長い距離をアップダウンできて、その心拍数をいかに素早く元に戻すか、の繰り返しです。準備期間を含めて15秒のスプリントを想定しています。一方、伊東選手に関しては走る距離自体は短いのですが、90分間通してパフォーマンスが落ちることなく10mのスプリントを繰り返せるか、ということで、7秒以内のスプリントのレンジを上げていくことにフォーカスしています」

専用マスクとトレーニング機器を運び込んで、高地トレを行うブラインドサッカー日本代表。エース川村怜(右端)の計測結果を見る新田幸一氏(中央)と高田敏志監督(左端、写真提供:ハイアルチ)

ブラインドサッカー日本代表のハイパフォーマンス

個人ベースではなく、チームで成果をあげているところもある。8月24日に開幕する東京パラリンピックに出場するブラインドサッカー日本代表だ。

今年5月から6月にかけて行われた「Santen IBSA ブラインドサッカーワールドグランプリ 2021 in 品川」(WGP)は、東京パラリンピックと同様の日程で大会が運営され、ブラインドサッカー日本代表は、準優勝という好成績をおさめた。「大会前に高地トレーニングを取り入れ、その効果が出ている」とブラインドサッカー日本代表の高田敏志監督はは、手応えを語る。

「世界で勝つ可能性を高めるには、パフォーマンスが100%の状態を1分でも、1秒でも、長く伸ばさなければいけません。そのためには、走力をつけつつ、できるだけ走らず質の高い動きをする、いわゆる戦術的理解が高いサッカーを目指しています。『ハイアルチ』の噂を聞いて、チームのトレーニングに取り入れる前に、自分で検証したいと思って、6週間試したのが1年ほど前。実際、54歳の私が心肺機能や持久力といった数値が1.8倍くらいに伸びたんです。『トップアスリートならどれほどの効果が期待できるのだろう』と日本代表チームにも取り入れました」

ブラインドサッカーのチームとしては、「おそらく世界初」だという、高地トレーニング。視覚障がい者にとってはジムに通うことがハードルになるため、新田氏と相談のうえ、機器を導入してトレーニング施設に自前の高地トレーニング機器を設営。選手たちはエアロバイクでトレーニングを行った。

「WGPから逆算して6週間前から週に2回チームでトレーニングを行いました。試合中でも選手たちには心拍数のセンサーをつけているのですが、プレーが止まっている間にすぐに心拍数が下がっていました。相手チームが肩で息をしていても日本の選手の呼吸は整っていた。ブラインドサッカーは選手交代を頻繁にできるのですが、WGPでの日本代表はパフォーマンスが落ちなかったので、ほとんどメンバー交代をしませんでした」

走るトレーニングの時間が短くなった分、ボールを使ったトレーニングに時間を割けるようになってチーム力も上がる、という好循環も生んでいる。選手からも好評だ。

今月末に控える東京パラリンピックで、日本は、予選プールでフランス、大会4連覇中のブラジル、金メダルも狙える実力と言われる中国と対戦する。U-24日本代表やなでしこジャパンと同じユニフォームをブラインドサッカー日本代表が初めて着用する、記念すべき大会でもある。

「日の丸とジャパンのユニフォームに恥じないような戦いをしたいと思っています」(高田監督)

ブラインドサッカーの絶対王者、ブラジルでもやっていないトレーニングも取り入れ、パラリンピックで世界をアッと驚かせる準備を進めている。

部屋が低酸素状態の中でランニングマシンで走る槙野智章。マスクをつけずにトレーニングできることが利点(写真提供:ハイアルチ)
トレーニング結果を見る浦和・槙野智章(写真提供:ハイアルチ)
高地と同じ低酸素状態のトレーニングルーム内。槙野智章が走っていたランニングマシンの前方左にテレビ、中央に標高(2927m)が書かれたモニタ、右端はトレーニングしている人の心拍数が表示される
トレーニングルーム内の設定標高のモニタを拡大。2891mの下に書かれた「Oxygen concentration」は酸素濃度のことで15%と示される。通常の陸地は21%と言われている。
  • 取材・文奥山典幸

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