コロナで出場辞退の悲劇 宮崎商に「再戦の機会を!」の声
投打の軸がそろった好チーム、優勝候補・智辯和歌山との「注目の一戦」が消えて…
新型コロナウイルスは、いったいどれだけ球児の希望を打ち砕けば気が済むというのか。
8月17日、第103回全国高校野球選手権の大会本部は、PCR検査の結果16日に選手ら5人の陽性が確認された宮崎商の辞退を発表。これにより、宮崎商と2回戦で対戦するはずだった智辯和歌山の不戦勝が決定した。大会中の出場辞退は103回の歴史上初の出来事。13年ぶり5度目の出場で1964年の4強越えを目指した宮崎商は、まったく予期せぬ形で夏を終えることとなった。
無観客で開催となった今大会は、天候に泣かされている。台風と大雨でじつに6日間の順延。大会3日目の第4試合は19時20分開始、21時40分終了と、史上最遅を記録し、「プロ野球よりも遅く終わった」と話題となった。名門・大阪桐蔭とセンバツ8強・東海大菅生の好カードも「これから山場」というところで23年ぶりの雨天コールド(大阪桐蔭が勝利)。このままだと決勝戦は史上最も遅い8月28日が予定されている。
さらに、コロナが追い打ちをかける。宮崎商に続いて15日には初戦で強豪・愛工大名電を下した初出場・東北学院(宮城)の部員ひとりに陽性反応が出て、17日夜に辞退を表明した。
コロナによる大会の途中棄権は、関係者やファンがもっとも恐れた最悪の事態だ。宮崎商の感染は、その後の医療機関による検査で陽性者が13人に拡大し、濃厚接触者も8人と発表。日本高野連・八田英二会長は「宮崎商の選手の無念を思うと、まったく言葉もない。厳しい練習を重ねて、いよいよ晴れ舞台。悔しさはいかばかりか。私も残念に思っている」と、苦しい胸のうちを語っている。もちろん当事者の宮崎商だけでなく、彼らを県代表として甲子園へと送り出した46校のライバル校たちも無念の思いでいっぱいのはずだ。
プロ注目の強打者と、投手二枚看板…宮崎商は強かった
宮崎商対智辯和歌山。もし試合が行なわれていれば、名勝負になっていたかもしれない。甲子園では馴染みが薄いかもしれないが、宮崎商は好チームだ。
今春センバツの初戦で天理(奈良)に敗れているが、その試合で先発し好投したエース右腕の日高大空(3年)が成長。スピンの効いた130キロ台後半のストレートで打者の懐をえぐり、スライダーを軸とする低めの変化球もキレ味を大幅に上げていた。打者も春の九州大会で1試合3発を放った高校通算23本塁打の西原太一、同33本の遊撃手・中村碧人といったプロ注目の強打者も揃っている。さらに投手がもう一枚。夏の宮崎大会で常時140キロ超のストレートを投げた2年生の本格派右腕・長友稜太も、最速146キロを叩いている。投打の軸がそろっており、各スポーツ紙の大会前評価で、軒並み優勝候補に名を連ねていた智辯和歌山が相手であっても、善戦以上の勝負に持ち込めていた可能性は大だった。
2年ぶりに開催された今春のセンバツでは、有観客の中で球児たちは彼らが発する瑞々しいエネルギーを存分に放ち、野球を通して多くの元気と勇気をもたらしてくれた。当時とは比較にならないほど感染状況が悪化している中での、難しい大会運営を強いられている今大会だが、常に感染防止対策をアップデートしながら今回のような悲劇を繰り返さないよう努力していくことが求められる。
宮崎商・橋口光朗監督は言った。
「選手たちの最後の試合を甲子園のグラウンドでプレーさせてあげられなかったことが申し訳なく、無念極まりない。また、県代表という立場で学校関係者、保護者、OBなど県民の皆様に出場辞退という報告になってしまい、大変申し訳なく思う」
今回の発表を受けて、早くも地元宮崎市内では、OBや有志を中心に「ぜひ宮商に再戦の機会を」と嘆願書を集める動きがあるという。少年たちの涙を突き動かされた大人たち。ぜひ宮崎商ナインが躍動する姿をもう一度見てみたい。
- 取材・文:加来慶祐
- PHOTO:小池義弘(1枚目)、松橋隆樹