累計2000点…!「コアチョコ」のTシャツ製作壮絶秘話
『金曜日の蒐集原人』第1回「コアチョコ代表MUNEさんのTシャツ・コレクションを見に行く」
コレクションはおもしろい。特定のテーマに沿って集められた充実のコレクションを見るのも楽しいけれど、それ以上にコレクションすることに夢中な人間の話はもっとおもしろい。この連載では、毎回いろいろな蒐集家の元を訪ねて、コレクションにまつわるエピソードを採取していく。人はなぜ物を集めるのか? 集めた先には何があるのか? 『金曜日の蒐集原人』とは、コレクターを蒐集したコレクションファイルである。
いまや芸能人にもファンが急増中のTシャツブランド「ハードコアチョコレート(以下:コアチョコ)」。年間に100タイトルほどリリースされている製品は、デザイナーであり代表も務める宗方雅也氏(通称:MUNEさん)がすべて自らの手でデザインしているという。そんなMUNEさんの、個人的なTシャツコレクションを、見てみたい! そこで、東中野にある酒場バレンタイン(こちらもコアチョコの経営)まで、コレクションを見せてもらいに行ってきた──。
Tシャツに目覚めた頃
──コアチョコのTシャツは、プロレスラーや芸人さんなど有名人にも愛用者がたくさんいます。まさに飛ぶ鳥落とす勢いという表現がぴったりですが、MUNEさんは元々Tシャツ好きだったんですよね?
MUNE とくにTシャツだけが好き、というわけではないですけどね。
──Tシャツって、好きなものがプリントされたやつを着るだけで、自己表現できますね。
MUNE そうなんです。中学生くらいまでは洋服なんて無頓着なものじゃないですか。オフクロが買ってきた、よくわかんない英単語が書いてあるやつをただ着るだけで。
──はい。ぼくはいまだに家では母が買ってきたジャージを履いてますが、そこに「WINNING SPIRITS」って書いてあります(笑)。
MUNE そうそう。あと、なんか知らないバスケットボールのチーム名とか。
──自分の人生とはまるで縁のないアメリカの大学の名前とか。
MUNE 中2くらいまではそんなのを着てたんですが、そこからだんだんお洒落に目覚めていくなかで、変わった柄のシャツを着たいなと思うようになって、友達と買い物をしに行くようになるんです。
──MUNEさん、墨田区の出身でしたよね。服はどの辺へ買いに行きましたか?
MUNE 当時、曳舟に住んでいたので、買い物は上野へ出ますね。
──ということは、アメ横だ。
MUNE やっぱり新宿、渋谷は遠いというか、乗り換えもあるし。その点、上野は家からも行きやすいし、アメカジの聖地みたいなところもあるでしょう。ただ、ハーレーダヴィッドソンの……あれは鷲でしたか、鷹でしたか、そういう柄のシャツとか、髑髏(ドクロ)とか、そんなのはいっぱいあるんだけど、なんか自分にはしっくりこなくて。
──わかります。メジャー感というか、分かりやす過ぎるんですよね。
MUNE それで、映画が好きだったから、自分のお気に入りの映画のTシャツを探すようになって、原宿あたりの古着屋まで足を伸ばすようになります。
──どんなのがあったか覚えてますか?
MUNE 『スタートレック』とか『フラッシュゴードン』とか、あと『スターウォーズ』もいま大資本が大々的にファストファッションとして展開してますが、そういうのではなく、海外の小さいメーカーが転写に近い感じの安っぽいプリント、インクにラメが混じったようなね、そういうのを見つけては買ってました。
──ラメ入り! 70~80年代のアメリカのTシャツって、なぜかラメ入りインクが多かったですよね。あれは西海岸の文化なのかな。
MUNE 当時集めたやつはほとんど残ってないんですけど、いくつか持ってきました。

──うわーっ! まさに、こういうのを見せて欲しかったんですよ!
MUNE これは色も絶妙でいいんですよ。しかも『ロッキー』の定番の写真を使っていないところがまたよくて。
──あの頃って、こういうアメリカ産の安っぽい映画TシャツやキャラクターTシャツが日本の古着屋に大量に流れてきてましたよね。
MUNE そう。ぼくは中学3年から高校1年くらいまで、完全に原宿のシカゴ(古着屋)に入り浸ってました。
──それは早熟ですよ。90年代から2000年代くらいに、そういうのを掘るのがお洒落な行為として流行ったんですけど、MUNEさん、その先鞭をつけてるじゃないですか。
MUNE ハンガーラックを端から何時間も見ていくんですよ。何軒も何軒も古着屋をまわって、数え切れないほどのTシャツをチェックした末に、ようやく1枚だけ買って帰る、みたいなことをやってました。
──中高生だと、お小遣いも限られてるし、そんなにたくさんは買えませんよね。
MUNE それともう1着。これはサイズが小さくて自分では着れないんだけど。

──トム・セレックの『スリーメン&ベビー』! これのTシャツをチョイスする人はなかなか居ないと思います。
MUNE このプリントの小ささがいいんですよ。自分では着れなくても、なんとなく押さえで買っておいた。ただ持ってるだけ。
──おそらく、世の中に映画Tシャツを集めてる人は他にもいるでしょう。でも、このテーマに関しては、MUNEさんだからいいんです。
MUNE 当時、ぼくの周りのみんなはボディグローブとか、そういうサーフブランドを着るのがお洒落な感じだったんですけど、それに対抗して『タクシードライバー』のTシャツとか着てましたからね。
──あはは、「You tolkin’ to me?(そいつはオレに言ってんのか)」って? それは不穏だなあ。
MUNE まだ高校生だから『タクシードライバー』の良さなんてよくわかってないんですけど、なんかカッコ良さげで着てたんですよ。『ゴッドファーザー』とか。
──MUNEさんはパンクも好きでしょ。そういうTシャツは買いませんでした?
MUNE もちろん、パンクTシャツもいいんですけど、高2か高3くらいに自分でもバンドを始めるんですよ。それでライブのときに、ちょっと変わった衣装を着たいと思ってTシャツを集めていたところもあるから、バンドのTシャツよりは映画ネタとか、あと相撲のTシャツとか。
──相撲?
MUNE 表参道にオリエンタルバザールという店があって、海外からの観光客向けの雑貨店なんですけど。
──キディランドのすぐ近くにありますね。
MUNE そこで相撲のTシャツ買ったり、渋谷スペイン坂の大中(中国雑貨店)で毛沢東のTシャツ買ったりして、ステージで着てました。
──ああ、なるほど! で、そういう活動を経て、Tシャツを自作するようになっていくわけですね。
欲しいTシャツがなければ自作する
MUNE 学校を卒業して、社会に出てからも同じようなことをしていて、とにかく自分がおもしろいと感じるTシャツを買っていったらコレクションみたいになっていった。プロレスもそうだし、映画とか、パンクとか。だから、いまのコアチョコの存在意義と一緒なんですよ。
──好きなものを身に付けるという点でね。
MUNE それで市販されているものでは満足できなくなって、だんだん自作したいという欲が湧いてきた。その頃、パンクの雑誌なんかに「Tシャツの作り方」みたいな記事が載ってたんですよ。好きなバンドの写真をペタッと貼り付けて、剥がすとそれがTシャツになる! とか。
──ああ、アイロンプリントでTシャツを作る方法みたいなノウハウ記事ですね。
MUNE そういうのを真似しました。
──MUNEさんのご著書『コアチョコ 流Tシャツブランドの作り方』には「Tシャツくん」というアイテムを使ったと書かれていました。
MUNE それはシルクスリーンの簡易キットですね。それでシルクの原理を覚えて、いまに至るという感じですよ。その頃に作った手刷りのやつがこれです。

──『幻魔大戦』!! MUNEさんの個人的なTシャツコレクションを見せて欲しいとは思っていましたが、まさかこいうのが残っているとは思いませんでした。コアチョコの歴史において、これは超重要な1着ですよ。
MUNE この頃は行き当たりばったりでデザインしてるから、ハルマゲドンのスペルが入りきらなくなったりしてるの(笑)。しかも、画像を取り込む方法とか知らなかったから、一生懸命、模写したんですよ。
──そういうところも含めて最高です!
MUNE 『幻魔大戦』の他には『仁義なき戦い』と、『恐竜戦隊コセイドン』と、『カムイ伝』を作ったんですよ。手刷りで。
──いいラインナップですねえ。
子供の頃に集めていたもの
──ちょっと話を戻しますが、古着屋を回ってTシャツを集めるには、それなりにお金がかかると思います。お小遣いは潤沢にあったのでしょうか?
MUNE 当時の自分はそう感じてなかったんですけど、いま思えば潤沢だったんですかね。小学生のときは1日100円もらってました。
──月にすれば3,000円くらいですから。当時の小学生としてはもらってる方かもしれませんね。MUNEさんのお父様は、バリバリ商売やってる方だったでしょう?
MUNE 共働きですけどね。それで中学校に上がったら200円になり、高校生のときは1日500円になるんですけど、うちは母ちゃんも仕事をしていて弁当作れないから、プラス500円して1,000円やるから弁当でも買えと。
──1日に1,000円あったら豊かですよ。
MUNE そういうなかで小遣いのやりくりみたいなことを覚えるわけです。たとえば小学生時代には、1日の出費を50円に収めれば、翌日は150円に増えるじゃないですか。それで雑誌を買うとか、ガチャガチャにつぎ込むとか、いろいろやりくりしてました。高校のときなんかひどいもんで、食パンを8斤とかまとめて買ってきて、何日かに分けて食べるんです。おかずがないからクラスの女の子に弁当のおかずを分けてもらって挟んで食べて(笑)。そうすると劇的に小遣いが浮くわけですよ。
──たくましいなー。それで浮いたお金を好きなものに注ぎ込むわけですね。何か集めていたものってありますか?
MUNE 小学生の頃はキン消し(キン肉マン消しゴム)とか、怪獣消しゴムとかになっちゃうんですけど、別にそれはコレクションというつもりはなくて、なんとなく集めるじゃないですか。
──そうですね、子供だから単に好きで買ってるうちに集まっちゃいます。

MUNE コレクションをしようと思って意識して買っていたのは、手塚治虫と藤子不二雄のコミックスなんですよ。
──手塚漫画って、ひょっとしてあれですかね? 講談社から出た白い背表紙の『手塚治虫漫画全集』。
MUNE そう、それです! 家の本棚にそれが揃っていくと、次から次に欲しくなっちゃうんですよ。藤子不二雄に関しても、てんとう虫コミックスみたいなのはクラスのみんなも持ってるんだけど、やっぱりそれだと「甘いな」と思って、サンコミックスとか、近所に古い在庫が残ってる本屋さんがあったので、そこで『フータくん』とか『ジャングル黒べえ』なんかを買って並べて、それがコレクションの始まりと言えるのかも。
──漫画とか本は、本棚に並べて一望できるものだから、コレクション心が芽生えやすいです。
MUNE 中学の頃はおニャン子クラブのファンだったので、『Dunk』や『BOMB』を買ってました。雑誌でも小さめのサイズ(A5判)なんで、並べるとかっこいいなと思って。
──MUNEさんのパブリックイメージとはちょっと違った(笑)、柔らかいコレクションですね。もっとこう、ミニカーとか、ブルマァクの怪獣人形とか、そっちへ行くのかなと思ったんですけど、案外そうでもなかった。
MUNE いや、怪獣も持ってはいたんですけど、これを集めよう! とまでは思わなかった。カルビーのプロ野球カードとかも持ってましたが、やっぱりそれを保管して眺めて……という感じではなかったですね。雑にバーッと箱に入れて。
──子供たちにありがちな興味ということですね。MUNEさんと付き合っていても、コレクター気質はあまり感じません。たとえば、この店の壁になってるDVDの棚とか圧巻だけど、コレクションしてる意識ってそんなにないわけでしょう?

MUNE そうなんですよ。見たい映画を興味のおもむくままに買っているだけですからね。だから新品のDVDも買うけど、ちゃんと再生できるならレンタル落ちでも全然気にしません。コレクターズエディションで揃えたいとか、そういう気持ちもない。オレ、特典ディスクにも興味ないんです。映画そのものが好きなだけで、映画の製作過程の裏話とか、監督の談話とか、そういうのを見たいとはあんまり思わないんです。
──映画は出来上がったものがすべて、ということですね。プロレスはどうでしょう。やはり子供の頃から好きでしたか?
MUNE はい、小2からずっと好きで。
──プロレスのグッズを集めたりはしなかったんですか?
MUNE プロレスグッズはちょっと高価なんですよ。プロレス雑誌を購読するくらいが精一杯で、マスクなんかは、たとえレプリカでも子供の小遣いでは買えるようなものじゃない。いちおう、3,000円くらいの安い特価マスクもあるんですけど、小学生の時点でそのショボさには気づいていたし。
──子供の目で見てもわかる程度のクオリティなんですね。
MUNE どうせ買うならこんなのじゃなくて試合用のが欲しいと思ってたから、絶対手を出さなかったんですよ。で、中学1年のときに友達と初めて新宿の「アイドール」っていうプロレスショップに行って、7,000円のエルカネックのセミプロマスクを買いました。試合用のやつよりワンランク下なんですけど、このクオリティなら7,000円は出してもいいと思えた。ただ、それでも高いからコレクションするという感じにはならなかったですね。
──質と値段の釣り合いが取れていても、ひとつ7,000円は中高生がホイホイ買えるものじゃないですもんね。
MUNE そうなんですよ。お年玉でももらったときじゃなきゃ買えない。だから本当のコアなプロレスファンは、後楽園ホールとかで出待ちして、メキシコの選手に交渉して手に入れるなんて言ってましたけど、自分はそこまではしませんでしたね。
──トレカはどうですか? プロレスカード。
MUNE それが登場するのは、ぼくが二十歳過ぎてからなんですよ。子供の頃にあったらハマったかもしれないけど。プロレスって、実はコレクションするものがあんまりないんです。フィギュアもこれといったのがなかったし、せいぜい消しゴム?
──キン消しではなくて、実在するレスラーのキン消し的な商品があったということですか?
MUNE そうそう。そんな程度ですよ。
──MUNEさんが中学生くらいの頃はまだプロレスも全盛期で、テレビ放映だってやってましたよね。
MUNE はい。
──ぼくがプロレスのことを全然知らないので、この辺の話は深く掘り下げて聞けないんですけどね(笑)。
趣味が高じて映画のレンタル屋を始める
MUNE あとはまあ、やっぱり映画ですね。映画がいちばんの趣味なんで。いまでも忘れられないのは、小5くらいのとき友達の家に行ったら、そいつの親父さんが集めてるビデオカセットがズラーっと並んでいて。そのカセットの背中に映画雑誌か何かの付録のインデックス(タイトルラベル)が綺麗に貼ってあって、その光景がすごく羨ましく感じられたんですよ。それで自分もビデオデッキを買ってもらったら、まずはダビングするところから始まって。
──レンタルしてきたのを見るだけじゃダメなんですね。
MUNE そう、あのカセットが並ぶ光景に憧れてるわけだから、ダビングして手元に置かなきゃならない。それで友達の家にデッキを持って行って、2台つなげてレンタルしてきた映画をダビングする。それで、題字を真似して描いたラベルを作って、貼るわけです。

──自分でレタリングまで! それって、いま仕事にしていることの原点じゃないですか。
MUNE 言われてみればそうだ。とにかくダビングするのが好きだったんです。映画を見るより好きだった(笑)。それで中2の頃には学校内でレンタルビデオ屋をやってました。生徒手帳にラインナップを書いて、友達連中に見せて、1本50円で貸し出す。
──わははは、商魂たくましい! この話、書いていいのかな。ま、もう時効だからいいか。
MUNE それでダビングしたカセットはたくさん集まったんですけど、中3あたりで1本くらいちゃんとしたパッケージのビデオが欲しいなと思うようになります。でも、当時はビデオって高かったんですよ。
──そうですね。映画1本が1万5千円くらいしました。
MUNE それで買えずに諦めていたら、だんだんレンタル落ちが出回るようになって、『ビバリーヒルズコップ2』を2,980円くらいで買って、あとCICビクターがブロックバスター価格といって、『トップガン』を筆頭に何本か安く売り始めたんですよ。16,000円だったのが10,500円になったのかな。それだけでも安く感じるじゃないですか。いま考えたら高いんですけど。それで『アンタッチャブル』をお年玉で買いました。
──ブライアン・デ・パルマの傑作ですね。
MUNE で、『ビバリーヒルズコップ2』と『アンタッチャブル』のビデオが並んでるのを見ていると、さらに欲しくなっていくんです。
──あ、ヤバい。呼び水になりますよね。その行き着いた先がこのバレンタインの壁なんですね(笑)。最初に映画を好きになったきっかけの作品って何ですか?
MUNE いやー、なんだろう。『死霊のはらわた』を友達の家で見せてもらったときかな。
──それはショックを受けるでしょう。
MUNE それまでも映画は見てたんですけど、なんかそのとき「これだ!」って思ったんですよね。しかも、友達が「なんか凄いのがあるぞ!」って持ってきたことにジェラシーを感じて。
──ああ、先に見つけられてしまったから。
MUNE それはいつもオレの役目だったはずなのに! って。遅れを取ったわ~という感じで、悔しかったんですよ。だから必死になって『狼男アメリカン』とか『エルム街の悪夢』とか『悪魔の毒々モンスター』とかはオレが見つけましたね。オレが見つけた、っていうのもおかしいけど(笑)。
──まあ、仲間内で最初に発見したっていう意味でね。
ゆるやかなキャップコレクション
MUNE そういえば、とみさわさんの本(※『無限の本棚 手放す時代の蒐集論』ちくま文庫)を読んだときに自分も何かコレクションしたいなと思って、帽子集めをゆるくやることにしてるんですよ。海外に行ったときだけ買うってルールで。
──いいですね。コレクションはルールを設けるとおもしろくなるから。
MUNE だからそんなに増えないんですよ。それで偽物もおもしろいと思えば買うというルールで。これは韓国に行ったときに買ったやつで……。
──わははは、ポップヨシムラだ!
MUNE ヨシムラ(※バイク用品メーカーのヨシムラジャパン。ロゴマークのステッカーはライダーに大人気)はこんな色合いないでしょう。
──赤・白だけですもんね。

MUNE かっこいいなあと思って。このオレンジのやつは韓国のハンファ・イーグルス。それと、テキサコの偽物も韓国で買ったやつ。海外で買うというルールを決めると、変なのしかなくても何かは買わなきゃいけなくて。
──このJAって……奈良のお米って刺繍してありますよ。奈良の農協のキャップなんて、どこで買うんですか。
MUNE マレーシア。こういうね、ゆるいコレクションをやってます。
──いやあ、予想外にいいコレクションが出てきました。
Tシャツはコレクションさせる側になった
──いまコアチョコでは、年間どれくらいの新作をリリースしていますか?
MUNE だいたい3日に1枚はデザインしてるから、年間にすると100タイトルくらいですね。
──それはすべてMUNEさんが1人でデザインしてるわけですよね?
MUNE そうですけど、いまは要領がつかめてるから、そこまで大変ではないですよ。
──そうか、こう言っては失礼ですけど、ある程度のデザインパターンはあるわけですよね。
MUNE はい。パターンを作ることは初期の頃から意識的にやってきました。自分の中でAのデザイン、Bのデザイン、Cのデザインというふうに10パターンくらいあって、そこに素材をはめていく感じでやると、すごく仕事が回るんです。
──なるほど。趣味ではなく仕事としてやる以上、効率アップを図るのは当然です。
MUNE それくらいのペースでデザインしていくと、感覚が麻痺するのか自分では「これを着たいな」って思わなくなってくるんですよ。だから「プリントをミスったのちょうだい」って、そういうふうになってきました。
──ああ、自分が着るものはそんなのでいい、と。
MUNE Tシャツに関しては自分はもうコレクターじゃなくて、コレクションさせる側になってしまいました。だから、ウルトラ怪獣のシリーズなんかはナンバリングして、初めからコレクションしてもらうことを狙っている部分もあります。もう70体、80体くらい作ってますから。
──現時点でコアチョコ のTシャツが全何種類あるのか把握できてますか?
MUNE それ、よく聞かれるんですけど把握してないんですよ。年間100として、20年やってるからだいたい2000点くらいでしょう。
──そのうち、自分でいちばんのお気に入りってあるものですか?
MUNE お気に入りか……。とみさわさんが今日着てらっしゃる『悪魔の毒々モンスター』なんかは、かなり上位に入ります。あとは……(2冊目の著書『コアチョコTシャツ全仕事』をめくりながら)この『ガメラ』も好きですね。配給会社へ素材をもらいに行ったとき後ろ姿の写真もあったから、じゃあそれをバックプリントにして、ロゴも反転させて入れようとか考えて。
──ああ、そういうアイデアがピタッとはまったものは愛着が湧くでしょうね。
MUNE 『ホステル2』も気に入ってます。この辺からデザイン的に覚醒をしてきて、手描き文字とフォントのバランスがうまくわかるようになったというか。このあたりから現在のスタイルが確立できた感じがあります。
──あのー、冬はともかく、夏場はMUNEさんの私服って、やっぱりほとんどコアチョコのTシャツですか?
MUNE そうですね(笑)。そこはブランドの責任者として、自らも宣伝に力を尽くすという意識はあります。
目指せ海外進出! コアチョコのこれから
──コアチョコを始めてからも、コアチョコ以外のTシャツを買うことはありますか?
MUNE ありますよ(笑)。どうしても欲しい絵柄のものがあれば買います。これはアメリカに行ったときに買った『マチェーテ』。
──ああ、それはぼくも欲しいです!

MUNE モチーフもそうだし、あと色とかも「これは!」と気になるのがあれば買うようにしてますね。でも、滅多にないです。どっちかっていうと専門的な目線で、「ああ、こうすればいいのに……」とか思ってしまうんで。
──そりゃ20年も作ってればそうなりますよね。
MUNE とくに自分の好きなモチーフのものだと、余計にそういう目になってしまいます。「オレだったらこういう風に作るのになあ」って。
──気に入ってるTシャツブランドはありますか?
MUNE いやあ、それはないかな。アメリカにプロレスリングT’sっていうTシャツ屋があって、ようするにプロレスネタに特化したコアチョコみたいなところなんですけど、さすがにプロレス専門だけあって、すっげえマニアックなレスラーのやつとかあって、そこではたまに買ったりします。この間も、デビッド・シュルツっていう昔のレスラーのTシャツを取り寄せました。着たらすごいペラペラでショボくて、なんだこれって思ったけど。
──通販だとサイズはまだしも、生地の質感とかはわからないですからね。
MUNE だから、好きなブランドっていうのはないです。ただ、ユニクロなんかは勉強のためよく覗きに行きます。最近、ユニクロはネタやデザインがだんだんこっち(コアチョコ)に寄って来てるな、って気がしていて(笑)。
──わはは、時代が追いついた。
MUNE だって『将太の寿司』とか普通やんないでしょ。あと、ユニクロじゃないけど珉亭や兆楽みたいな町中華のTシャツも出てきたりして、ああいうのは嫉妬しますね。まあ仕事にするとそういうふうに考えるようになってしまうのは仕方ないでしょう。
──いまのコアチョコは、好きなデザインだから買うというよりも、コアチョコだから買うという、コアチョコそのもののファンが増えている気がします。それで、コアチョコのサブスクってできないかなあと考えたりしました。
MUNE ははは。コアチョコは「一度ハマるとカツアゲされる!」ってよく言われるんですよ。もう次から次へと好みのTシャツがリリースされるので、買わざるを得ないという。
──だから、月額1万円くらい払うと毎月3枚か4枚ランダムでTシャツが勝手に届く、みたいな。
MUNE どうだろう、喜ぶ人いるかなあ。
──コアチョコの今後のことを聞かせてください。何かのインタビューでMUNEさんは「アメト--ク!」でコアチョコ芸人をやりたいと言ってましたよね。
MUNE はい、はい。
──それって実現の可能性は意外に高いと思うんですよ。なぜなら、いまは芸人さんにもコアチョコのファンは多くて、有名どころだと博多華丸大吉の大吉さんとか。
MUNE あとは東野幸治さんも、このあいだ何かの番組で「のりおよしおTシャツ」を着てくださってました。ほかにもハチミツ二郎さん、マキタスポーツさんとか。
──ああ、「のりおよしお」「いくよくるよ」といったレジェンド芸人シリーズは、一気に芸人さんたちの間でコアチョコの知名度を広めたでしょうね。会社としても大きくなってきたし、大御所漫才師のTシャツも作れるようになった。コアチョコ主催の映画祭もやった。さらに何か夢はありますか?
MUNE あとは海外進出だけですね。
──おおっ!
MUNE 実際そういう話が来たことは何度かあるんですよ。「代理店をやらしてくれ」って。そこは常に前向きに対応してます。たとえば、これまでにも東映の作品はいくつもリリースしてるけど、いつも国内ライセンスだけなんですね。だから、海外での展開を代理店がクリアしてくれるなら全然OKですよ、って。
──すでにコアチョコの直販だけじゃなくて、いまはAmazonとか他のショップさんにも卸してるわけですから、海外での販売もその延長上にあると考えれば、まるで無茶な話ではないですね。いいな、海外展開。
MUNE そう。海外進出するというのが、いまはいちばんの目標です。
(取材後記)
ぼく自身、取材当日は『悪魔の毒々モンスター』を着ていたように、コアチョコのTシャツは日常的に愛用している。でも、そんなことを抜きにして、MUNEさんの個人的なTシャツコレクションを見たいと思って、今回の取材を申し込んだ。すると、まさかの手刷りで自作していた頃の作品が残っていたのには驚かされた。あの『幻魔大戦』Tシャツよかったな~。当時のデザインのまま(ロゴが渋滞したまま)で「MUNE Early Days」として復刻してくれたら絶対買う!
(この連載は、毎月第1金曜日の更新となります。次回は12月3日の予定です。どうぞお楽しみに!)
取材・文:とみさわ昭仁
コレクションに取り憑かれる人々の生態を研究し続ける、自称プロコレクター。『底抜け!大リーグカードの世界』(彩流社)、『人喰い映画祭』(辰巳出版)、『無限の本棚』(筑摩書房)、『レコード越しの戦後史』(P-VINE)など、著書もコレクションにまつわるものばかり。
撮影:嶋田礼奈