コロナ最前線の医師が解説!「抗体カクテル療法」の利点と難点 | FRIDAYデジタル

コロナ最前線の医師が解説!「抗体カクテル療法」の利点と難点

医療崩壊ニッポンで最前線の医師に聞いた「今できること」

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新型コロナの感染拡大が止まらない。医療に届かず自宅で療養する人も多い。医療崩壊が現実になったなか、菅義偉首相が期待しているのが「抗体カクテル療法」だ。会見でも「新たな治療薬」と語り、頼みの綱としている。「重症化を7割防ぐ」ともいわれるこの療法、いったいどんなものなのか。千葉大学病院で新型コロナ治療の最前線にある、感染症専門の谷口俊文医師に聞いた。

新型コロナの感染拡大が止まらない。夢の新薬「抗体カクテル」に期待が高まるが… 写真:つのだよしお/アフロ

「中和抗体カクテルは、新型コロナの治療のために開発された薬で、最も軽症の患者さんに使います。感染したけれど、まだ肺炎を発症していない、酸素吸入を必要としていない方です。そのなかで主に高齢の方、高度肥満、糖尿病、免疫抑制剤を使っている方、透析をしている方が対象になります。薬の添付文書には、慢性腎臓病、慢性呼吸器疾患、慢性肝臓病、高血圧症や心筋梗塞の既往がある方など心血管疾患の患者さんに使用を推奨とあります」

感染者「だれにでもに有効」ということではない

「中和抗体カクテル療法とは、カシリビマブとイムデビマブというふたつの中和抗体を合わせて使うことです。中和抗体が新型コロナウイルスのスパイクたんぱく質に結合して、ウイルスが細胞内に入るのを防ぎます。ウイルスのどこにくっついたら効果的にウイルスが細胞内に入るのを防げるかは研究でわかっているので、その抗体そのものを人工的に作ったのが、カシリビマブとイムデビマブです。2種類をミックスさせて使うことで、万が一変異でスパイクたんぱくの構造が変わっても、有効性が極端に落ちることはないだろうとされています。ふたつの抗体をひとつの生理食塩水のバッグに入れて、点滴で20~30分で投与します

谷口医師が勤務する千葉大学病院は、県内で最も早くから、新型コロナの患者を受け入れている。

「これまでに5例、使用しました。対象は抗がん剤治療や免疫を抑えるステロイド剤を使っている患者さんで、感染したら間違いなく重症化する方たちでした。体調が悪くなり、外来にいらっしゃって検査をしたところ、陽性と診断されました。すぐ入院して抗体カクテル治療をしました。投与するタイミングは、ほとんど症状がないか、発熱や軽度の咳といった軽症の段階。投与ののち、重症化しなければ『効果があった』と判断します」

中和抗体カクテル療法は、発症から「7日以内」に「点滴で」投与しなければいけない。そのため、治療は基本的に入院で行う。現在、新型コロナ感染者の新規受け入れが難しく、重症化するまでは自宅待機だ。つまり、この「夢の治療薬」を「発症7日以内、重症化する前に投与」治療をすることは不可能に近いということになる。

抗体カクテルは「突破口」にはならない

「現場が待ち望んでいた治療法ではありますが、現状では新型コロナ治療の突破口にはならないでしょう。外来では使えないため、現場では困惑が広がっています。東京都が投与のための宿泊施設を準備したことが発表されましたが、このような施策がもっと必要です。リスクのある人は短期で入院してもらい、投与してすぐ自宅に帰すような戦略が考えられないか、モデルを作ろうと取り組んでいます。

また抗体カクテルは、具体的な使用のあてなく病院で取り置くことができません。製薬会社から厚生労働省が一括して請け負い、配布する仕組みです。そのため、どういう患者に使用したいかを申請しなければいけません。多くの施設(病院)では申請から到着まで2、3日かかる。これだとますます『発症から7日以内の投与』が難しいでしょう」

発症したら「なるべく死なないようにする」しかない現実

新型コロナの治療法は確立されておらず、暗中模索だった。パンデミックから1年以上経った今、新型コロナの治療法は進歩したのか。その中で唯一の治療が「抗体カクテル療法」なのだろうか?

「アメリカでは感染者が3700万人を越えています。その治療に当たった見地からガイドラインを公開しており、当院でもそれに沿って治療方針を決めています。肺炎はあるけれど酸素投与の必要ない人は、ベクルリー(レムデシビル)という抗ウイルス薬を使います。バルスオキシメータで体内の酸素濃度を測り、93%以下になったら酸素を開始します。

リットルくらいから始めて、4リットルを超えたらマスク型の酸素吸入、酸素の投与が10リットルを超えたらより高濃度の酸素を投与できるリザーバーマスクやネーザルハイフローといった機器を使用します。酸素を使い始めるタイミングでステロイド剤、そしてより高濃度の酸素が必要になる場合にはリウマチの患者さんにも使用するアクテムラ(トシリズマブ)を投与して治療の手応えを感じています。しかし新型コロナの治療は、『なるべく死なないようにする』だけで特効薬はありません」

イベルメクチンは「効かない」

「一部で効果が期待されているイベルメクチンですが、残念ながら現状、有効性は確認されていません。イベルメクチンが特効薬として期待されるようになったのは、2020年4月に発表された論文が最初です。サージスフィア社のデータベースを元に、新型コロナの死亡率を減らすのではないかというものでした。しかしデータねつ造の疑惑があり論文は撤回されています。

その後、多くの論文が発表されましたが、規模が小さかったり、さまざまな薬剤を同時に使っていたりと、信憑性に足るものはありませんでした。そこへ2021年3月4日、軽症の患者に対して症状改善までの期間が短くならなかったというランダム化比較試験の結果が発表されました。ランダム化比較試験は、研究の対象を治験薬と偽薬の2つのグループに無作為に分けて、治験薬の有効性と安全性を検証する、科学的根拠の質が高い研究です。

また714日には、死亡率を90%以上下げたという論文がデータねつ造疑惑のため撤回されました。これらの結果を踏まえて、WHOや欧州医薬品庁は、イベルメクチンを臨床試験以外で使用しないように勧告しています。FDA(アメリカ食品医薬品局)は使用を承認していません」

ワクチン接種と基本の予防で身を守る

現状、特効薬はない。医療の崩壊が叫ばれるなか、個人でただただ「感染しない」ように対策を続けるしかないのだ。

「複数人の会食の感染リスクが高いことは間違いありません。加えて家庭内の感染も増えています。ワクチンの接種が進んでいない日本では、同居家族以外の人とのマスクなしの会話は『命がけ』と考えたほうがいい。感染症専門医から見て新型コロナは、かなり厳しい感染症だと思っています。千葉大学病院でも最大10床までしかICUを確保できません。新型コロナの治療には人工呼吸器やECMO(人工心肺装置)といった機器が必要で、通常のICUよりも人手がかかるのです。ベッドはあっても人手がないんです。

コロナ専用の病棟が36床と、ICUでバランスを見ながら救急要請を受けています。デルタ株は感染しやすく、重症化もしやすい。一方で、ワクチンを接種した高齢者の方は、重症化しなくなりました。今、ハイリスクなのは接種していない4050代の方、基礎疾患のある2030代、100キロ以上あるような肥満の方です。じっさい、この病院に搬送されるのは、こういう方ばかり。とにかく、順番がきたら1日も早くワクチンを接種してください。日常生活では、基本の予防を続けて。感染しないことがなによりなんですから」

谷口 俊文:千葉大学医学部附属病院感染制御部・感染症内科に所属。米国内科専門医、米国感染症専門医、総合内科専門医・指導医、感染症専門医・指導医。専門はHIV感染症、移植感染症や一般感染症。2001年千葉大学医学部卒。2013年千葉大学大学院医学研究院にて医学博士取得。「こびナビ」幹事。

  • 取材・文和久井香菜子写真つのだよしお/アフロ

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