ボクシング金・入江聖奈選手がハマる「カエル」その魅惑の世界 | FRIDAYデジタル

ボクシング金・入江聖奈選手がハマる「カエル」その魅惑の世界

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金色に輝くものもいるので、金メダリストの入江選手にはぴったり

「ボクシングは大学で引退。卒業後はカエル関係の会社に就職したい」 

日本史上初めて、女子ボクシングフェザー級で金メダルを獲得した入江聖奈選手。試合後のインタビューでは、準決勝は「強気のツノガエル作戦」、決勝では「詰め将棋をするトノサマガエル作戦」で戦ったと、カエル愛を爆発させた。インスタグラムにはカエルの画像が多くアップされ、カエルのリュックに、カエルのマスク、カエル柄のTシャツと、カエルに彩られる日々を送る入江選手。

さまざまな場面でカエル愛を語る入江聖奈選手。「入江選手のおかげでカエルに興味をもってくれる人が増えるのはうれしい」と迫野氏(写真:アフロ)

入江選手をここまで夢中にさせるカエルって、どんな存在なんだろう。

『日本のカエル48 偏愛図鑑 東大生・さこの君のフィールドノート』の著者であり、東京大学大学院に在籍している迫野貴大氏にカエルについて聞いてみた。

“偏愛”とあるように、この本には迫野氏のカエル愛があふれている。もちろん“図鑑”だから、生息地、特徴なども細かく紹介されている。出版当時、日本には48種類のカエルが確認されていて(現在は50種)、そのうち3種類を除く45種類は迫野氏が日本全国を巡って出会ったカエル。

驚くのは、この図鑑には写真が1点も使われていないことだ。写真のように見えるのはすべて迫野氏の手描き。

「カエルの写真をじっくり見ながら、その姿を写し取っていくと、カエルへの愛着が高まるんです」

中には3ヵ月かけて描き上げたものもあるという。これがカエル愛でなくてなんであろう。

写真ではなく、迫野氏の手描きのニホンアマガエル。「現在国内で一番分布が広く、街中でも見られます。葉の上では緑、土や木の上では茶色と、周りの環境に合わせて体の色を変えます」
奄美大島に生息するオットンガエル。「このイラストは、仕上げるのに3ヵ月かかりました」。図鑑に掲載されているすべてのカエルの絵を仕上げるのにかかった期間は2年!

カエルは擬人化しやすいから、グッズがたくさん

それにしても、どうしてこんなにカエルが好きなのか。

「大きくてつぶらな瞳。笑っているような、にこやかな口元。見ているだけで飽きません。しかも、個性豊かで、色も模様も、鳴き声も種類によって、みんな違う。日本の都市近郊でいちばんよく見かけるニホンアマガエルは2~5㎝だけど、入江選手が好きなヒキガエルは、4~16㎝と大きい。ノシノシ歩く姿が愛らしいカエルです」

入江選手のようにカエル好きには、カエルグッズを集める人も多いが、 

「それは、鳥獣戯画にも描かれているように、カエルが擬人化しやすいからだと思います。二本足で立ってものを掴むなど、人間と同じようなことをしているグッズがたくさんある。これは犬や猫ではできない、カエルならではの特徴。身近にいて親しみやすいし、人間みたいで可愛い。それでコレクションしたくなるんだと思います」 

なるほど。

バリエーション豊かなのは、カエルは海を越えられないので、島がたくさんある日本では、それぞれの土地で独自の進化をとげてきたため。48種類というのは、日本の広さに対してはとても多いのだとか。

「見た目でいちばん好きなのは、沖縄や奄美大島に生息するハロウエルアマガエル。喉元がオレンジ色でとてもきれいなんです。 

生態が面白いのは、石垣島や西表島に生息するアイフィンガーガエル。お母さんが卵を産むと、卵が乾燥しないようにお父さんが湿気を与えたり、卵を食べようとする虫を撃退したりします。卵がかえると、お母さんが未授精卵を産んで、それをエサとして食べさせるんです。ほとんどのカエルは卵を産んだら、産みっぱなしなんですけど、このカエルは両親で子育てをする、とても珍しいカエルなんです」 

迫野氏が見た目で一番好きなハロウエルアマガエル。「喉元がオレンジ色で、とってもきれい」。こちらは写真(撮影:迫野貴大)

迫野氏おすすめ カエル好きならここへ!

カエルの役に立ちたい

こんなカエル愛にあふれた迫野氏。専攻も当然カエルの研究?

「いえ、哺乳類の生殖内分泌の研究です」 

??? それはどんな研究?

「今、シカやイノシシがかなり数を増やしていて、里山の下草を食べつくしてしまうことがあるんです。下草がなくなると、山の土砂が川に流入してしまう。沢の石の下などに卵を産むカエルがいるんですけど、そういう隙間が土砂で埋まるとカエルが繁殖できなくなってしまう。 

生態系のバランスがくずれていっているので、環境負荷の少ない避妊薬をエサに混ぜて食べさせ、シカやイノシシなどの数を適正な数に抑えて、理想的なバランスに戻すための研究をしています。カエルを研究するより、カエルの役に立ちたいと思って」

なんともカエル愛あふれる研究なのだ。

「生態系のバランスがくずれると困るのはカエルだけではなくて、土砂が川に流入すれば魚も住みにくくなりますし、希少な植物がシカに食べつくされるおそれもある。そうすると、それをエサにしていた昆虫もいなくなってしまいます」

カエルの幸せだけを考えているわけではないようだ。 

「カエルは食物連鎖の中で中間的な位置にいて、生態系のバランスをとるのに、とても重要な役割をしているんです」 

カエルは肉食で、昆虫など動くものはなんでも食べる。そのカエルを鳥やヘビが食べる。カエルが少なくなると、害虫が異常発生したり、鳥やヘビが減ってしまうおそれもあるというのだ。

「オタマジャクシのときは魚やミズカマキリ、タガメなどのエサになる。水中でも陸上でも食物連鎖の重要な役割を果たしている。水中と陸地両方の生態系の多様性に貢献しているのがカエルなんです」

迫野氏が憂うのは、高齢化や後継者不足で田んぼを手放してしまったり、開発が進んで里山がなくなってしまうこと。

「田んぼに水を張らない年が続くと、カエルは生き残っていけない。昔はどこにでもいたカエルがだんだん珍しいカエルになってしまうのではと危惧しています」

シカやイノシシの個体数管理の研究は、獣害に悩まされることによって農業から離れてしまうことも防ぎ、カエルが暮らす水田を維持するうえでも有意義なことなのだ。 

「ヒキガエル推しの入江選手には、ぜひ繁殖期のヒキガエルを観察していただきたい。オスのミヤコヒキガエルには繁殖期になると金色に輝くものもいるので、金メダリストの入江選手にはぴったりだと思います」(撮影:迫野貴大)

カエルの鳴き声から無線ネットワークの制御手法を提案

カエルの研究が我々の生活に役立っていることもある。たとえば無線ネットワークの制御。

「これは筑波大学と大阪大学の合同研究から発表されたことなんです。カエルはみんなで一斉に鳴いているように聞こえますが、実はゲコッと鳴いたら、隣のカエルがゲコッと鳴くというように交互に鳴く。カエルが鳴くようにデータを送信すれば、情報を同時に送りあって受信できなくなるのを回避できるのではないかと研究して、無線ネットワークのパケット衝突を回避するシステムに応用できないかと考えられています」

カエルの卵は細長いホースのような卵塊、塊にならず数粒ずつバラバラに散らばったもの、メレンゲ状の泡に包まれたものなど、いろいろあるが、卵からの発見もある。

「メレンゲ状の泡は卵を紫外線や細菌から守っていると考えられているんですけど、モリアオガエルの泡を調べたら、保湿力や抗菌性、抗酸化作用があると考えられているタンパク質、紫外線を防ぐと考えられているタンパク質など、これまで知られていなかった22種類のタンパク質が発見されたんです」

可愛いだけじゃない。我々の生活にさまざまな形で役立ってくれているのがカエルなのだ。

今、同好の士として入江選手に思うことは、

「できればカエル関係の就職先を見つけていただければうれしいです。実現したら、本当にうれしい」 

カエル関係の就職先といえば、水族館の飼育係や研究者などのほかに、迫野氏の就職先にも考えられる里山などを管理する生態系保全事業もある。

ひょっとして、同じ職場になったりして。

「2021年6月に出版になったあと、新種2種が報告されました。これらを追加した改訂版も出したい!」

迫野貴大(さこの・たかひろ)1994年山口県生まれ。東京大学農学部卒業。現在は東京大学大学院 農学生命科学研究科にて、哺乳類の生殖内分泌機構について研究。生物学研究者たちがゲーム実況を行うYouTubeチャンネル『ゆるふわ生物学』にて「さこっち」としても活動中。国内外を旅してカエルを観察し、『日本のカエル48偏愛図鑑 東大生・さこの君のフィールドノート』(河出書房新社)を出版。NHK文化センターのオンライン講座『カエルのスゴイ生態』、『カエルのスゴイ能力』にて講師を務める。

  • 取材・文中川いづみ

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