限界集落で暮らす「ニート11人共同生活」の知られざる実態 | FRIDAYデジタル

限界集落で暮らす「ニート11人共同生活」の知られざる実態

和歌山発 「コロナ禍でも特に何の影響もありません!」 最寄りの駅からクルマで1時間半、携帯の電波もほとんど入らない山奥のシェアハウスで20~40代の男女が快適に過ごしていた!

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共生舎をバックに、放し飼いの鶏を抱えながら微笑む石井さん。左奥の離れが、石井さんの個室になる

「まだ着かないのかって思ってるでしょ」

そう語りかけてきたのは、和歌山県田辺市の山奥にあるシェアハウス「共生舎」で暮らす石井あらたさん(32)だ。

この日、筆者は石井さんとJR和歌山駅で待ち合わせ、一緒に共生舎に赴(おもむ)くことになった。目的地まではクルマで約2時間半もかかり、携帯の電波もまともに入らない。想像以上の山道を進みながら、憧れだけではとても住めないことをいきなり知ることとなった。

道中、石井さんから共生舎で生活を始めるようになった経緯を聞いた。

「僕は教師を目指していたんです。でも、研修にいったら、合わなかった。それから、引きこもり生活が始まりました。たまたま知り合いを通してこのシェアハウスの存在を知り、’14年に名古屋から和歌山に移り住むことになったんです」

もともと共生舎は、地元のNPO団体が過疎地の集落の古民家を借り、ニートや引きこもり生活を送っている人々に共同生活をさせるために始めたもの。共生舎がある五味集落は住民5人のいわゆる限界集落で、平均年齢は75歳以上。石井さんは共生舎の第1期の入居者である。現在は廃校に場所を移転し、20~40代の男女11人が共同生活を送っている。

「共生舎に住む費用は食費や光熱費込みで一人月額2万円で、それさえ稼げれば暮らしていけます。僕はアフィリエイトやブログ収入で、年収で30万円ぐらいですかね。食料などの買い物は一週間に1回、車で1時間かけてスーパーなどに行きます。30分ほどのところに診療所もありますよ。アマゾンもちゃんと届きます(笑)。今はネット社会ですし、コロナの影響で、むしろオンラインが当たり前になったので、どこに住んでも一緒ですよ」

集落に入ると、共生舎のシンボルである赤い屋根が見えてきた。取材前に石井さんに「みんなマスコミが嫌いなんで」と前置きされていたので、少し、躊躇(ちゅうちょ)した。玄関の先にある共同スペースのリビングでは、3人の男性たちが、テレビゲームに夢中になっていた。軽く挨拶を返してくれたが、意に介さない様子でゲームを続ける。このコロナ禍にもかかわらず、マスクを誰ひとりつけていなかったのだが、山奥暮らしなら当然だろう。

「散歩したり、川遊びしたり、自由気ままに暮らしています。ときには集落の人から分けてもらった鹿肉を捌(さば)いたりすることもあります。食事は誰かが作ったものを一緒に食べたりしますし、掃除はみんな自主的にやりますね。なにより映画を一緒に見て意見を言い合える。贅沢なことだと思いませんか?」

リビングには本やボードゲームが所狭しと置かれ、雀卓もある。台所や風呂場には清潔感があり、各々の個室があるので、快適な生活を送っているという。

「ルールは明確には定めていませんが、使った食器はすぐに洗う、集落の行事に参加する、半年に1回大掃除をする、月に数回夕食を作る、とかですかね」

そこへ、大きいお腹を抱えた女性の住人が現れた。

「共生舎初の子どもが産まれるんですよ」

石井さんが紹介してくれたのは、ももこさん(仮名)だ。ももこさんも都会での生活や家族関係に疲れてここに行き着いたという。共生舎で出会った男性と結ばれ、今年の冬に出産予定だそうだ。

「共生舎のスタイルが変わるかもしれませんが、住人たちは子どもが産まれるのを楽しみにしています。大人が11人もいるので、誰かしらが面倒を見られる。育児の環境は整っていますよ」

とはいえ経済的な不安はないのだろうか。ももこさんによると、夫となる住人は、近隣の施設に働きに出始めたそうだ。

「今、山奥ニートに憧れる人が増えてきて、全国11ヵ所にここと同じような施設ができています。入居を希望する人は、山奥で田舎生活を楽しみたいというより、都会の生活に疲れてしまったという人たちが多い。ちなみに山奥なので自給自足のイメージがありますが、みんな農作業が好きなわけではないので、畑ではほぼ何も作っていません(笑)」

山奥ニートを始めて8年目の石井さんに何か心境の変化はあったのだろうか。

「この環境にいると将来を考えることはできないですね。ただ、優しくなりました(笑)。いろんな視点で見られるようになった。共同生活に苦手意識がある人も多いかもしれませんが、群れって感じですよ。共同ではない、共生なんです。お互いを許し合って生きています」

彼らの暮らしを羨ましく思う都会人は意外と多いのではないだろうか――。

近くにある川。川底が見えるほど水が透明。ときおり、住人同士で川に遊びに行くこともあるそうだ
共同スペースのリビングでくつろぐ住人たち。会話が盛り上がっており、居心地の良さが伝わった
妊娠6ヵ月のももこさん。1時間かけて妊婦健診に行っている。この集落では何十年ぶりの子どもの誕生だ
山奥にある廃校を無料で譲り受けてシェアハウスに。同じ敷地内に、集落の住民も一緒に住んでいる
集落の住民から譲り受けた鹿を川で捌いているところ。庭でBBQをすることも。共生舎の住人は集落に溶け込み、交流が盛んである

『FRIDAY』2021年9月3日号より

  • 取材・文中西美穂

    フリージャーナリスト

  • PHOTO中西美穂 石井あらた氏提供(2・6枚目)

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