世界最悪の感染地域に…宮古島に住む森末慎二氏が語る率直な思い
「島には来ないでほしい」市長が緊急メッセージ
毎日毎日、新型コロナウイルス感染者の数が全国で過去最高を更新し続けている。多くの都府県で医療体制がひっ迫しているが、中でも深刻なのが宮古島だ。宮古毎日新聞によると、8月23日現在、直近の1週間で人口10万人あたりの新規感染者が約379人。宮古島市長の座喜味一幸氏は、18日、「世界最悪の感染地域になった」と危機感をあらわにした。
「あっという間に感染者が増えて驚きました」
こう言うのは、元体操競技日本代表の森末慎二氏。2011年に宮古島に家を建て、2018年からは“みゃ~く商店”という天丼屋を経営している。
1984年のロサンゼルスオリンピックで種目別鉄棒で金メダル、跳馬で銀メダル、体操団体で銅メダルを獲得したオリンピアンだ。その実績から今回の東京五輪では、体操競技のコメンテイターとして東京に来ていたが、このときの宮古島の感染者数は1日20人程度。最近では50人を超える日もある。
「こんなことにならなければいいと思ってました」(森末慎二氏 以下同)
森末氏が心配していたのは、観光客の数。昨年4月、沖縄に初めて緊急事態宣言が発令されたときは、空港に人影が見えないほど閑散としていたが、今年4月から7月の来島者は12万8700人。前年同期に比べて57%も増えている。
「飛行機はほぼ満席。ホテルも7~8割は埋まってるんじゃないかな。レンタカー業者も、貸し出す車がないほどだと言っていました」
宮古島では新型コロナウイルスに感染したら、中等症までの場合は宮古病院へ入院、重症になるとヘリコプターで本島の病院へ送られ、回復してくると民間病院、さらにホテル療養という流れになるそうだが、20日現在自宅療養中は147人、入院調整中の人は136人いるという。入院調整中の人は、16日時点では40人。わずか4日で3.4倍にもなっている。
宮古保健所によると、若い人の感染が止まらず、観光やダイビング、土木作業などで来島した人が、宿泊施設で感染することもあるという。
医療体制はひっ迫しているのだ。
観光客向けのお店だけど感染が怖くて休業
森末氏が“みゃ~く商店”を始めようと思ったのは、宮古島でクルマエビの養殖が盛んだから。
「でも、街中の居酒屋でクルマエビを見かけないんです。養殖しているクルマエビの9割は、東京や大阪、福岡に出荷されていて、残りがときどき市中に出てくる程度。近くにクルマエビがあるんだったら、安く仕入れて、観光客の人に安く食べてもらおうかなと思ったんです」
クルマエビが3本乗った天丼は1500円。5本乗った特盛は2000円だ。
え、こんな大きなクルマエビが3本も乗ってるのに!?
「と思うでしょう。でも、島の人にとっては高すぎる」
初めから観光客を対象にしたのだと言う。だったら、観光客が増えるのは、お店にとっていいことでは?
「とんでもない。最初に緊急事態宣言が出たときは、観光客も来なくなったので、休業したんです。宣言が解除されて、それまで昼だけの営業だったのを夜も営業しようということで、居酒屋みゃ~く商店としてリニューアルオープンしました。それが去年の10月。そのときには12月には忘年会、1月には新年会でたくさん来店してもらえるかなと思ったけど、また緊急事態宣言が発令されて予約はゼロ。それからも昼は営業してたんですけど、今は閉めています。
いくら観光客が増えても、従業員はまだワクチンを打っていないし、感染したらたいへん。観光客がどんなに増えても、怖くて開けられないです」
宮古島生活10年。海を見ているだけで飽きない
そもそも森末氏が宮古島に家を建てたのは、沖縄が好きだから。
「30年以上前から沖縄にダイビングに行ったりしてたんです。沖縄の海の色と気候が好きで、沖縄に行くと元気になる。いつか沖縄で暮らしたいと思ってました」
宮古島を選んだのは、
「市内には大きなスーパーマーケットもあるし、ファストフード店も、食事をするところも、飲み屋さんもある。といって都会ほど賑やかじゃない。ちょうどいい塩梅だったんです。
ゴルフが大好きなんですけど、ゴルフコースも3つある。何より宮古島にはハブがいない。本島のゴルフ場に行って、雨が降ってきたから木の下に入ろうとすると、キャディーさんが『危ない、危ない』と止めるんですよ。宮古島なら、草地でも安心して入っていける。
それに海がきれい。宮古島には川がないんです。川があると土砂などが流れ込んで海が汚れることもあるけど、宮古島は川がないから、海が汚れない。しかも、地下から水が湧き出てくるので、水もおいしいんです」
お店を開けていたころは、毎日お店へ。お店を始める前はゴルフに行ったり、みんなで集まってバーベキューをしたりしていたが、お店を閉めている今は、
「草刈りしているか、家を掃除しているか、毎日そんな感じです」
でも、退屈することはないという。なぜなら、海を見ているだけで飽きないから。
「海の色は毎日変わるし、夕方になれば海に沈む夕日が見える。夜は満天の星。天の川も見えますよ」
積乱雲の下でスコールが降り、その後ろに夕日……などというドラマチックな風景にも出会えるとか。
「海を見ているだけで、いろいろなことが起こる。それだけで楽しい」
PCR検査の義務化を、と市長は訴えるが
こんな宮古島LOVEの森末氏が今願うこと。
「1日も早くコロナが収束して、お客さんとワーワー騒ぎたい」
宮古毎日新聞によると、今年1月に宮古島市長に就任した座喜味一幸氏は、4月に玉城デニー知事に就任あいさつに行ったとき、来島者へPCR検査を義務化や規制強化するために、国に法改正を含めた対応を求めるよう、県に要望したという。それから5ヵ月近く経った今も、《お願い》するだけにとどまっている。
4月以降に沖縄にやってきた人を対象に、事前にPCR検査を受けたかどうかアンケートをとったところ、「受検した」と答えた人は全体の47.3%。検査を受けなかった人の35.5%が「必要を感じなかった」と答えている。
個人に任せておいていいのか。来島自粛を呼びかけるだけで大丈夫なのだろうか。“世界最悪の感染地域”になっても、できることは《お願い》しかないのか。
宮古島市観光商工課は感染防止対策として、緊急事態措置期間中は前浜海浜公園など観光施設の一部を閉鎖することを、20日、発表した。飲食業へは引き続き営業時間の短縮や、酒類、カラオケの提供禁止を求め、県と連携して、市内を巡回していくとしている。まだまだ飲食業には厳しい期間が続きそうだ。
本当にいつ収束するのだろう。我々も早く、マスクなしで宮古島に遊びに行きたい!
森末慎二 1957年、岡山県生まれ。高校時代から体操を始める。’84年、ロサンゼルスオリンピックで金銀銅のメダルを獲得。’86年、現役引退。その後タレントとして活動。’98年、原作を担当した体操をテーマにした漫画『ガンバFly high』が小学館漫画賞を受賞。2011年、宮古島に家を建て、’18年には“みゃ~く商店”をオープン。
- 取材・文:中川いづみ
ライター
東京都生まれ。フリーライターとして講談社、小学館、PHP研究所などの雑誌や書籍を手がける。携わった書籍は『近藤典子の片づく』寸法図鑑』(講談社)、『片付けが生んだ奇跡』(小学館)、『車いすのダンサー』(PHP研究所)など。