「こんな状況、30年で初めてだ…」医師が明かす東京の惨状 | FRIDAYデジタル

「こんな状況、30年で初めてだ…」医師が明かす東京の惨状

オリンピックに浮かれている間に信じられない事態に 五輪海外メディアは都内観光を満喫中、 医療現場の悲痛な叫びも小池都知事は「想定内」、 ラムダ株上陸を隠蔽、増え続ける新規感染者は「制御不能」

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「先生、救急車が帰ってしまいました。入院はさせてもらえないそうです」

8月上旬、自宅療養患者を往診する医師。いまや都内では、呼吸不全寸前でも受け入れ先の病院は見つからない
8月上旬、自宅療養患者を往診する医師。いまや都内では、呼吸不全寸前でも受け入れ先の病院は見つからない

8月10日、「池袋大谷クリニック」院長の大谷義夫氏は電話で患者の家族からそう告げられた。患者は40代の男性で、自宅療養中に、血中の酸素飽和度が87%にまで悪化した。酸素飽和度は健康な人であれば96~98%で、90%を切ると呼吸不全状態になる。大谷氏が語る。

「ご家族が救急車を呼んだものの、受け入れられる病院がないと搬送を断られてしまったのです。結局、当クリニックもその方には一次的処置を行う酸素濃縮器を手配することまでしかできませんでした。当クリニックでも、入院できない人が多く出ています。30年医師をやっていますが、こんな状態は初めてです」

新型コロナの流行が、大パンデミックの様相を呈してきた。東京都では連日4000~5000人の新規感染者が出ている。都内の自宅療養者は約2万2000人、入院調整中の人も約1万2000人に上る(いずれも8月16日時点)。

「1ヵ月前の7月半ばと比べると、自宅療養者の数は約8.5倍に増えています。7月下旬から始まった『第5波』では、都内で自宅療養中に亡くなった人は、8月16日までに6名と言われています。昨年12月から今年7月までの8ヵ月間では11名。自宅療養中の死者は異常なペースで増えています。しかも、この6名というのは東京都の集計で、8月4日の時点で死者8名という報道もあり、実際はもっと多いと考えられます」(全国紙記者)

8月12日には、都内のモニタリング会議で専門家から「かつてないほどの速度で感染拡大が進み、制御不能な状況で、災害レベルで感染が猛威を振るう非常事態だ」というコメントまで飛び出した。

いったいなぜこのような事態に陥ってしまったのか。浜松医療センター感染症管理特別顧問・矢野邦夫氏が話す。

「ここまで第5波が広がっている理由は、大きく分けて二つあると思います。一つは現在流行しているのが、感染力の高いデルタ株であること。感染者の喉に存在するウイルスの量は、従来株の1000倍というデータもある。もう一つは慣れの問題もあるでしょう。緊急事態宣言を何度も経験し、『またか』と考える人が多く、自粛が崩れてきている」

観光を楽しむ海外メディア

自粛が崩れているのは間違いない。8月6~15日のお盆期間の国内線の予約率は、前年比で約1.5倍になった。だが、「慣れ」以上に大きく影響を及ぼした要因がある。言わずと知れた「東京五輪」である。前出・大谷氏が語る。

「私が診察した患者さんのなかにも、帰省して感染してしまった人が多くいました。私が『なぜこんな時期に帰省しようと思ったんですか』と聞くと、『オリンピックをやっているぐらいだから大丈夫だと思った』と答える方が少なくなかった。五輪開催による国民への心理的な影響は無視できないと思います」

感染拡大防止という観点から見れば、五輪開催は完全に悪手だった。五輪期間中、選手や関係者などの入国者数は全部で10万人を超えたと言われる。政府は選手らを外部と隔離する「バブル方式」で感染は防げると主張したが、結局、観光や飲食店、コンビニなどに出かける選手が続出し、バブル方式は有名無実化した。

選手だけではない。五輪閉会式の翌日、8月9日。東京・渋谷のスクランブル交差点には複数の外国人グループの姿があった。彼らは首からIDカードをぶら下げ、そこには「フォトグラファー」などと記載されている。五輪取材にやってきた海外のメディア関係者たちだ。

「それぞれ3~6人のグループが4組、通訳らしき案内人に先導されて渋谷の街を歩いていました。スマホで互いに記念撮影をしたりと、完全に東京観光でしたね。マスクを外して歩いている人もいました」(通行人)

メディア関係者は来日中、プレーブック(規則集)に従うことが義務づけられている。来日後14日間の公共交通機関の使用禁止やマスクの常時着用、多人数での飲食の禁止などだ。しかし、それらがまったく守られていないことがハッキリわかる。来日したメディア関係者は約1万6000人と言われている。

8月8日、小池百合子都知事(69)は、五輪閉会式に水色の着物姿で出席。意気揚々と五輪旗の引き継ぎ式を行った。小池氏が五輪に浮かれている間、ウイルスは爆発的に拡散されていたのだ。

そんななか、より感染力が強いと言われる「ラムダ株」の侵入まで許してしまった。

「ラムダ株の感染者はペルーから来日した五輪関係者でした。30代の女性で、羽田空港にやってきたのは7月20日のこと。空港の検疫で新型コロナ陽性と診断され、23日には国内で初めてのラムダ株と確認されました。しかし、政府はこれを公表しなかった。ラムダ株の保有者が五輪関係者だと報じられたのは閉会式後の8月13日のことでした」(前出・記者)

反・五輪の世論が高まることを恐れ、「隠蔽」していた可能性が高いのである。

しかし、五輪の閉会式後の8月10日、小池都知事は東京五輪による感染状況について問われると「すべて想定の中に収まっている」と答えた。

こうして、東京を中心とした大パンデミックが引き起こされたのだ。元都庁幹部職員の澤章(さわあきら)氏が語る。

「6月の時点で、デルタ株の危険性について、何人もの専門家が警告を鳴らしていました。さらに7月になって、感染者数が右肩上がりに増え始めたときも、五輪を有観客にするか、無観客にするかといった話ばかりしていた。遅くとも、6~7月の時点で、小池都知事が医療機関や医師会と調整して、病床数を増やしたり、抗体カクテル療法を医療機関以外でも可能にするといった対策を講じておくべきだったのではないでしょうか。そうすれば、いまのような事態を招くことはなかったと思います。すべてが後手後手です」

今後、この流行にラムダ株が加わってくる。感染者の大部分がラムダ株と言われるペルーでは、8月10日までの新型コロナの死者数が約19万7000人で、人口10万人当たりの死者数は世界で最も多くなっている。山形大学医学部附属病院の検査・感染制御部部長の森兼啓太氏が話す。

「ラムダ株については、まだ未知の部分が大きいのです。流行地域が限定的で、WHOの分類も『注目すべき変異株』にとどまっています。ただ、現在大流行しているデルタ株も、当初は『注目すべき変異株』に分類されていました。軽視してはいけないと思います」

これまで以上の感染者、死者が出たとしても、小池氏はまだ「想定内」と言うのだろうか。

東京観光を楽しむ海外メディア関係者。渋谷駅前でハチ公像にもたれかかり、マスクを外して談笑していた
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同じく観光する海外メディアの関係者。スクランブル交差点のど真ん中で仲間に向かってピースサインしている
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会見する小池都知事。五輪に関しては「みんながテレビで観戦したのでむしろ人流は減った」と主張している
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「FRIDAY」2021年9月3日号より

  • 撮影鬼怒川 毅写真共同通信社 

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