平塚・闇サイト殺人事件 初対面の実行犯2人が強盗殺人に至るまで

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「闇サイト殺人」の恐ろしさが明らかになったのは、2007年8月に当時31歳の女性会社員が拉致、殺害された事件だ。名古屋市千種区で男3人に金品強奪目的で拉致された女性は、車中で殺害されたあと、岐阜県の山林に捨てられた。犯行に及んだ3人はそれぞれ面識がなく、携帯電話の「闇サイト」を通じて知り合ったという。見知らぬ者同士がネットを通じて出合い、犯行にいたるという不気味な背景が話題となった。

それから約10年経った2017年2月、もう一つの「闇サイト殺人事件」が神奈川県平塚市で起きていた。恐るべき犯行に至るまでの経緯を、実行犯の公判を傍聴したライターの高橋ユキ氏がレポートする。

平成29年2月、神奈川県平塚市に住む鳥海広子さん(80=当時)が殺害された事件で逮捕され、強盗殺人などの罪に問われていた塗装工・斉藤義伎被告(24)無職・河島楓被告(23)。2人の裁判員裁判が横浜地裁(青沼潔裁判長)で開かれ、斉藤被告には9月20日に、河島被告には10月22日に、ともに無期懲役の判決が言い渡された。

事件直前まで面識のない赤の他人だった斉藤被告と河島被告。2人を結びつけたのは、いわゆる「闇サイト」だった。いかにして2人が出会い、そして鳥海さん殺害に至ったのか。それぞれの公判で明らかになったのは、犯罪を依頼した“主犯”の存在だった。

平成28年10月ごろ、塗装工・斉藤被告はギャンブルなどで約500万円の借金を抱えていた。高校卒業後に消防士の仕事に就いたが、それも辞め、困窮していたという。河島被告も同様に、専門学校を中退後、キャバクラのボーイなどの仕事を転々とするが、成人してから消費者金融で金を借り、約70~80万円の借金があった。

そんなふたりが高収入の仕事を求め閲覧したのが「闇サイト」。斉藤被告は事件直前、ここで報酬300万円の仕事依頼の書き込みを見つけて投稿者にコンタクトを取る。この相手が主犯の杉山光明(47=当時)だ。斉藤被告は鳥海さんに対する強盗殺人事件を起こす10日前、この杉山とともに、杉山の知人である高齢男性宅に宅配業者を装って押し入り、暴行を加えてキャッシュカードなどを奪う事件を起こしている。そのため今回の裁判員裁判では強盗致傷でも起訴されていた。

だが斉藤被告によれば、その強盗致傷事件は成功しなかったため、杉山から別の強盗殺人を持ちかけられたのだという。ターゲットは、殺害された鳥海広子さん。杉山は人工透析のため通院していたが、鳥海さんも同じ病院に通っており、ベッドが隣同士で通院の時間帯も同じだったという。

「最初は『おばあさんのタタキ(強盗)をやってほしい』と言われて断りました。ですが、強盗致傷に失敗して報酬を思うように得られず、杉山から『もう一度やってみないか』と言われました。今度は『おばあさんを殺害して、バッグを持ってくるのに成功したら1000万円』と言われました」(斉藤被告)

最初の強盗致傷で斉藤被告が得た報酬は数十万。闇サイトに書き込まれていた金額(300万円)よりもかなり少なかった。次に誘われた鳥海さん強盗殺人に対しては、1000万円という巨額の報酬と「杉山から暴力団とのつながりを示唆されて信じていました」という恐怖心から、斉藤はこれを引き受けた。だが「当時は自分だけで実行は無理という認識だったので、やってくれる人を募集しようと闇サイト掲示板に書き込みました」という。

「当時は焦っていました。杉山からは、次やらなければ自分に危害を加えるってことを散々言われていた。当時は非常に恐怖を感じていて、このままでは自分が死んでしまうと思っていました」(斉藤被告)

連日の杉山からの追い込みに死の恐怖を抱いていた斉藤。だが人殺しなどやったこともなく、一人ではとても実行できない。そのため「本日来れる方」と条件をつけ報酬200~300万円で闇サイト掲示板に求人の書き込みをした。これに乗ってきたのが、当時奈良県に住んでいた河島被告だ。神奈川県に出てくるお金も持っていなかったことから、斉藤被告から2万円を振り込んでもらい、上京してきた。

「初めは僕自身も裏仕事というのを簡単な仕事と捉えていて、窃盗とか考えてたんですけど、斉藤くんから聞いたのは人を殺してバッグを奪って、と……正直ほんとにびっくりしました。断ることもできたと思いますが、見ず知らずの僕に交通費を送ってくれた斉藤くんに申し訳ない、それに帰る金もなく、やり切らないと帰れない……」(河島被告)

河島被告は片道の交通費を出してもらった負い目から強盗殺人の実行役を承諾。ふたりで夜中に鳥海さん宅に忍び込み、主に河島被告が鳥海さんの首を絞めて殺害した。

借金を抱え、闇サイトに書き込まれていた高額報酬に目がくらみ、強盗殺人という重い罪を犯したふたり。

斉藤被告のそれまでの人生はあまりにも“普通”だった。切れ長の目元に長身のジャニーズ系イケメンである斉藤被告は千葉県で生まれ育ち、高校時代は野球に打ち込む。卒業後も少年野球チームでコーチを務めていたが、仕事を始めてからお金のやりくりができず、借金が500万円へとかさんでいった。

対する河島被告はここまで、不幸な人生を歩んでいた。幼少期に両親が離婚。姉と施設で暮らし、小学3年生から母親のもとへ引き取られ、妹も加わり4人暮らしが始まった。母親は何度か交際相手を変えたが、どの男性も母親や河島被告に暴力を振るっていた。学校に通えず不登校になり、カウンセリングを受けていたこともある。そんな河島被告が事件に加担したのは借金返済のためではない。顔を変えるためだった。

「母親から『最低だ』と聞かされていた父親に顔が似てるのがコンプレックスでした。100万円あれば見た目が変えられると思った」(河島被告)

鳥海さん殺害後、通帳や現金20万円入りのバッグを奪ってきた2人。直後に斉藤がこのバッグを杉山に渡したが、杉山は1000万円はおろか、1円の報酬も支払わないまま、なんと音信不通になってしまう。殺害を実行したのに無報酬だった河島被告はその後も闇サイトで仕事を探し、詐欺グループの受け子や出し子などを引き受け、これで得た金でようやく整形手術を受けた。法廷の河島被告は二重だが斉藤被告と同じく切れ長な目で、首の後ろに十字架のタトゥーと、左目の下にピアスを入れている。これらも詐欺で得た金を使ったという。

さて音信不通になった杉山が犯行を思いたった動機はそもそもなんだったのか。だが、これは謎のままとなってしまった。杉山は、斉藤被告と河島被告が逮捕されるより前、昨年11月に49歳で病死していたのだ。今年2月、被疑者死亡により書類送検されたが、仮に生きていれば死刑は免れなかっただろう。

主犯・杉山の存在は、鳥海さんの通院先を捜査するなかで浮上した。鳥海さんとは同じ時間帯に隣のベッドでそれぞれ人工透析を受けており面識があったこと、また鳥海さんが過去に杉山に300万円渡したことをノートに記載しており、金銭での繋がりがあることがわかっのだという。その後捜査員らが杉山の携帯電話の使用履歴を精査したところ、斉藤への多数回の発信が確認でき、3人が捜査線に浮上した。生前鳥海さんが、なぜ杉山に大金を渡したのかについては、当事者2人が死亡していることから永遠に謎のままとなった。

闇サイトには、詐欺の受け子や出し子をはじめ、今回のように強盗殺人の実行犯を募集する書き込みもある。いずれも重大犯罪であり、逮捕されるリスクを孕む。それでも斉藤被告や河島被告のように、“手っ取り早く大金を得たい”という欲求が強ければ、リスクも見えなくなるようだ。

公判では、「斉藤被告の依頼に乗ったふりをして着手金の5万円を巻き上げた」という、ある男の調書が読み上げられた。「当時は携帯で闇サイトの掲示板を閲覧し、詐欺や窃盗をしていた」というのだから、闇サイトがいかに無法地帯かということがわかるだろう。また斉藤被告らが依頼主の杉山から報酬を得ることができなかったように、“言った通りに報酬が支払われない”仕事も中にはある。リターンは大きいがリスクはそれ以上に高く、いわば闇サイトでの仕事探しには不幸しか待っていないのだが、それでもやはり、大金を得るために日々、闇サイトの求人を見る者は後を絶たないのが現実だ。

なお、彼らが利用していた闇サイトはいまも存在しており、そこには「内容が明記されてない」にもかかわらず「高収入を得られる」仕事の求人がいくつも書き込まれている。闇サイトは現行法では取り締まることができず、この現状は当分、変わりそうにない。

写真:AFLO

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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