工藤会に射殺された漁協組合長の弟が明かしていた「暴力の実像」
”武闘派”として知られる暴力団組織は数多くあれど、北九州を本拠とする『工藤会』は群を抜いた存在だ。
構成員数は約270人(昨年末時点)。勢力は九州地方だけでなく、首都圏にまで及ぶとされた。自動小銃や手榴弾、ロケットランチャーを所持し、市民に対する襲撃事件も数多く起こしており、’12年からは改正暴対法に基づく「特定危険指定暴力団」に全国で唯一指定された。
そんな『工藤会』のトップである野村悟総裁(74)に死刑、ナンバー2・田上不美夫会長に無期懲役の判決が下された。両被告が罪を問われていたのは、以下の4つの事件だ。
①’98年2月、元漁協組合長射殺事件
北九州市小倉北区の路上で、元漁協組合長の男性が頭などを撃たれ死亡。
②’12年4月、元福岡県警警部銃撃事件
北九州市小倉南区の路上で、長く暴力団捜査を担当していた元福岡県警警部の男性が左足などを撃たれる。
③’13年1月、看護師刺傷事件
福岡市博多区の路上で、看護師の女性が頭などを刺される。看護師は野村総裁の局部増大手術と脱毛施術の担当者だった。
④’14年5月、歯科医師刺傷事件
北九州市小倉北区の駐車場で、歯科医師の男性が足や腹などを刺される。
裁判の焦点となっていたのは、トップからの指示があったかどうかだ。
「裁判は’19年10月に始まりましたが、両被告は一貫して容疑を否認していました。暴力団組織のトップに死刑判決が下ったのは前代未聞です」(全国紙司法担当記者)
『工藤会』はこの4事件の他にも数多くの凶悪事件に関与してきた。本誌は’12年1月、『工藤会』の恐怖についてよく知る人物にインタビューをしている。前述①の事件の被害者の実弟である、元北九州市漁協組合長の上野忠義さん(享年70)だ。以下は、上野さんの証言である。
「兄は小倉の繁華街で射殺されました。至近距離から何発か撃ち込まれたようです。兄の死後、私が組合長を継ぐと、恫喝の電話がしょっちゅうかかってくるようになりました。奴らの狙いは響灘(北九州市若松区沖の海域)の埋め立ての公共事業でした。『事業に参画させろ』と、とにかくしつこかった。『ウチにそんな権限はない』と言っても、『嘘をつくな』と聞く耳を持たない。電話してきた男は恐喝で逮捕されましたが、その後も、私や甥っ子の家に銃弾が撃ち込まれる事件がありました」
上野さんが取材中何度も繰り返したのが、「奴らは聞く耳を持たない」という言葉だ。そして、インタビューから約2年後の’13年12月20日早朝、上野さんも路上で何者かに射殺された。上野さんの事件は、未だに犯人が検挙されないまま未解決となっている。
本部を構える北九州市を始め、地域住民の『工藤会』への恐怖心は根強い。このインタビューからも、そのことが存分につたわってくるはずだ。
『FRIDAY』2021年9月3日号より
- PHOTO:三好健志(1枚目) 共同通信(3枚目)