アフガン・カブール空港 70人超を殺害した過激派組織の「正体」 | FRIDAYデジタル

アフガン・カブール空港 70人超を殺害した過激派組織の「正体」

反タリバン過激派組織「ISホラサン州」とは何者か

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<タリバンによるアフガニスタン全土制圧から2週間。他国へ逃げ出そうとする市民が殺到した空港で、恐れていた事件が起きた。今回の爆弾テロ実行犯はタリバンではない。現地情報が錯綜するなか、テロ組織を長年ウォッチする軍事ジャーナリスト黒井文太郎氏が緊急レポートする。>

タリバンに制圧された首都カブールでは、国外に脱出しようとする市民が空港に殺到していた。爆破テロの犠牲者は今後増える見込みだという 写真:AFP/アフロ

8月26日、アフガニスタンのカブール空港の入口付近と近傍のホテルで、爆弾テロが発生。米兵13人を含む70人以上が殺害された。

アフガニスタン情勢をめぐっては、イスラム強硬派「タリバン」が8月15日にカブールを制圧したことから、タリバンがいちやく注目されていたが、じつは、今回の犯行はタリバンではない

事件後、「ISホラサン州」(ISKPもしくはISIS-K)というイスラム過激派組織が犯行声明の動画を発表した。もともと事件に先立って米英当局などがISホラサン州による空港テロの脅威を指摘していたが、そのとおりになった展開だ。

「ISホラサン州」とは何者か?

名前のとおり、自ら「IS(イスラム国)」の「ホラサン州支部」を名乗っているグループで、IS最高指導者に忠誠を誓っている。イラクとシリアでISに勢いがあった頃、ISに共鳴した世界各地のイスラム過激派が、それぞれ自ら「ISの支部」を名乗ったが、そのアフガニスタン=パキスタン版だ。ホラサン州とは古い地域名で、現代のイラン、中央アジア、アフガニスタン、パキスタンの一部にまたがる地域を指す。

ISホラサン州はもともと、2014年にIS幹部と元タリバン幹部が交流する中でコア人脈が誕生し、そこにパキスタン北西部の有力組織「パキスタン・タリバン運動」(TTP)などイスラム過激派諸派から多くの要員が参加して、2015年にアフガニスタン東部でパキスタン国境に位置するナンガルハル州などを拠点に旗揚げした。初代司令官はTTPの元上級幹部で、現在もTTPと関係が深く、他のパキスタン系イスラム武装組織の元構成員も含めてパキスタン系の構成員が多い。

ただ、もちろんアフガニスタン人構成員も多く、少数だがウズベキスタン人などもいる。パキスタン人が多いのは、TTPなどがパキスタン軍の攻撃を受けた際、アフガニスタンに逃げ込んでいた戦闘員が多かったことも理由だ。

現在の司令官はシャハブ・ムハジールという人物で、もともとはアフガニスタンとパキスタンにかけて勢力を持つハッカニ・ネットワークの中堅司令官だったとみられるが、詳細は不明だ。

ISの支部ということで、IS本体と同様に、その主張はかなり過激である。一時はイスラム圏全体でのIS支持運動の盛り上がりもあり、2016年の最盛期には30004000人ともみられる兵力を集めた。IS本隊から数十億円の資金が投じられた形跡があり、またIS本隊から数十人の要員がISホラサン州に転じた動きも報じられているが、全体的にはそれでもIS本隊との関係は限定的で、やはりTTP系人脈との関係が大きい。

過激派「ISホラサン州」はタリバン最高指導者ではなく、ISに忠誠を誓っていることから、旧政権だけでなくタリバンとも対立した。米軍の追撃に加えてタリバンからは切り崩しが行われ、やがて戦闘員の多くがタリバンに転向したために勢力は減退。現在は1500~2000人程度と推定される。

ただし、勢力圏としては、もはやアフガニスタンにもパキスタンにもいわゆる「聖域」的な場所はなく、完全に、アフガニスタン各地の「地下」に潜伏している。アフガニスタン旧政権、タリバン、パキスタン当局などすべての地域権力と敵対しており、武装グループとしての戦力は小さい。

繰り返される「爆弾テロ」

しかし、アフガニスタン社会の地下に潜ったテロ組織としては、動きは活発だ。カブールやいくつかの地域で爆弾テロなどを続けており、たとえば2019年8月の結婚式自爆テロ、2020年11月のカブール大学襲撃、同12月のカブール空港ロケット弾攻撃、2021年5月のカブールの女子学校襲撃など、凶悪なテロ事件を何度も起こしてきた。2021年1月〜4月だけで77件のテロを行なっており、うち10件以上はシーア派への攻撃だ。

今回、タリバンのカブール制圧を受けて、ISホラサン州が組織として勢力を盛り返しつつあるのかどうかは不明だ。旧政権が瓦解したことで国内治安体制が崩壊し、アルカイダやTTPなどパキスタン人を含む多くの過激派が刑務所から解放されたことなどから、過激派の人脈が再び活発に動き出している可能性は確かに高い。

また、ISホラサン州は前述したようにタリバンと対立してはいるが、水面下ではタリバンの最強硬派であるハッカニ・ネットワークとは人脈がある。ハッカニ・ネットワークは現在のタリバン指導部の3人の副指導者の1人を領袖とする一大勢力だが、アルカイダとも、さらにはパキスタンの情報機関である「軍統合情報局」(ISI)とも深い関係がある。ISホラサン州はISIとは敵対関係にあるが、ISI管理下のパキスタン国内のイスラム組織諸派に人脈もある。

こうした世界では、組織同士が敵対関係にあっても、人脈は複雑に絡み合っていて、その深層は外部からはなかなかわからない。そうした水面下の人脈が、ISホラサン州に意外な力を与えるかもしれない。

過激派組織では今、テロの機運が高まっている

いずれにせよ、政変後の混乱でISホラサン州の組織としてテロ活動のモチベーションが上がっていることは想像に難くない。たとえばカブール空港を守る米軍や他の外国軍も、空港に集まっている旧政権関係者たちも、恰好のテロの標的となる。

タリバンの進撃のように幹線道路や町村を襲撃するなどの軍事作戦にはそれなりの兵力が必要だが、爆弾テロは少人数でもできる。現在のアフガニスタン国内なら、爆発物はいくらでも容易に手に入る。この混乱のなか、たとえタリバンが道路に検問所を設置しても、車両に爆弾を隠して運搬することもそう難しくはあるまい。

米国は今回の空港テロを受けて、ISホラサン州への反撃を宣言したが、彼らは地下に潜っており、見つけるのは容易ではない。しかも、地域の実権を握るのはいまやタリバンだ。米軍はタリバンとの対テロ協力を模索しているが、実際にどこまで協力を得られるかはわからない。

米軍はまもなく撤退する予定だが、外国人がアフガニスタンから完全撤退するわけではないし、旧政権関係者の多くも国に残る。シーア派の住民たちももちろん残る。

国際社会は、米軍撤退後のこうした状況を放置するのか。タリバンだけでなく、ISホラサン州のような過激派が勢いを増せば、アフガニスタンが再び国際テロの温床となりかねないことも、重く受け止めるべきだろう。

空港周辺は「まるで戦場のよう」だという。被害状況は掴めないが、SNS投稿などでその一端が伝わる。写真:ロイターTV/アフロ
  • 取材・文黒井文太郎写真AFP/アフロ

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