91年8月、西田ひかるの名曲をあのゴールデンコンビが作った背景 | FRIDAYデジタル

91年8月、西田ひかるの名曲をあのゴールデンコンビが作った背景

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毎年開かれる「誕生日会」が名物だった(写真・産経ビジュアル)
毎年開かれる「誕生日会」が名物だった(写真・産経ビジュアル)

ちょうど30年前のヒット曲をご紹介する連載です。今回は1991年の8月。気象庁のサイトには「平成3年夏の低温、長雨と日照不足」という記述があり、30年前=平成3年の夏は、今年=令和3年の夏同様、長雨に悩まされたジメジメした夏だったようです。

91年8月発売の大ヒットと言えば、25日発売の大事MANブラザーズバンド『それが大事』にとどめを指します。売上枚数、何と160.3万枚(オリコン)。しかし、当時の私は、その暑苦しい曲調を苦手に感じて、CDシングルを買っていません。

この月に買ったシングルは、関根勤・ルー大柴・ラッキィ池田(「イタチ野郎」名義)によるユニット=オラ・セラルの『ラテンの如く』(売上枚数:1.3万枚)というコミックソングと、加藤貴子が在籍した女性3人組ユニットLip’sによる松田聖子のカバー『青い珊瑚礁』(0.2万枚)。加えて、西田ひかる『ときめいて』(14.9万枚)。

あのゴールデンコンビが

今回は、この『ときめいて』を取り上げます。オリコン7位ですから、まぁまぁのヒット。西田ひかるが主演したTBSドラマ『デパート!夏物語』の主題歌。この曲で西田は『紅白歌合戦』に出場、紅組トップバッターとして、堂々と歌いきりました。ちなみに、対する白組のトップバッターは、この連載でも取り上げたバブルガム・ブラザーズ『WON’T BE LONG』でした(ただし、ハウンド・ドッグの代役出場)。

『ときめいて』のシングルを25歳の私が買ったのは、「作詞:松本隆×作曲:筒美京平」の作品だったからです。当時から、ちょっとだけ歌謡曲マニアだった私は、「松本×筒美の曲なら、絶対に買わねば」と思ったのです。

作詞:松本隆×作曲:筒美京平。日本歌謡史を代表するゴールデンコンビ。大ヒットを量産しましたが、中でも代表的な作品といえば、太田裕美『木綿のハンカチーフ』(75年)、近藤真彦『スニーカーぶる~す』(80年)、斉藤由貴『卒業』(85年)という5年刻みの名曲群でしょうか。

『ときめいて』の印象は「ど真ん中歌謡ポップス」。キュートさとセクシーさを併せ持ったキラッキラの西田ひかるが、天をも突き抜けるような歌声で歌う「これぞ歌謡ポップス!」という出来栄え。本来なら、これら「5年刻みの名曲群」に並ぶ可能性を持った作品だったと思います。

しかし、正直、そこまでのインパクトや売上には至りませんでした。なぜか。私は、時代環境の変化を、その主な要因に挙げたいと思うのです。

「アイドル冬の時代」に

80年代後半は、しばしば「アイドル冬の時代」と表現されます。しかしそれでも、中山美穂、本田美奈子、浅香唯、南野陽子、工藤静香がいたわけで、これ、つまりは80年代の前半が「アイドル夏の時代」と言えるほど、アイドルが超・全盛だったことの反動としての表現なのです。

80年代後半が「アイドル冬の時代」ならば、90年代はもう「アイドル氷河期」でしょう。アイドルをパロディ化した路線を進んだ森高千里は別格として、西田ひかるや、例えば高橋由美子あたりは、時代との兼ね合いで、とても損をしたと思います。80年代前半にデビューしていたら、どれほどの人気を獲得したことでしょう。

「アイドル氷河期」化の要因として、まずは、音楽シーンの変化がありました。フォーク、ニューミュージック、バンドブームを超えて、90年代は「Jポップ」の時代へ。つまり「自作自演音楽」が、いよいよメインストリームとなり、アイドル音楽をはじき飛ばしたということ。

また、別の要因として、(一見トンデモに見える論ですが)アダルトビデオ(AV)の普及があると言われます。

男性のセクシャルなニーズを真正面から受け止めていた女性アイドル市場でしたが、80年代後半からの加速したAVの普及とともに、セクシャル・ニーズが分散、90年代に入って、アイドルとAVの中間市場である「グラビアアイドル」市場も拡大した結果、(旧来の)アイドルの存在意義が空洞化したという考え方です。

最後の「ど真ん中歌謡」

逆に言えば、『ときめいて』は、そんな「アイドル氷河期」に向けて、松本隆と筒美京平のゴールデンコンビが放った、最後の「ど真ん中歌謡ポップス」だったのかもしれません。

『木綿のハンカチーフ』『スニーカーぶる~す』『卒業』……大衆を驚かせ、歌わせ、泣かせ続けた、松本隆と筒美京平というマエストロによるマスターピースたち。その豊潤な流れの終止符としての『ときめいて』――だからこの曲は、キュートでセクシーでキラッキラでありながら、どこか哀しく、そして切なく響くのです。

日本コロムビア『松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム』公式サイトにある「松本 隆 作詞楽曲リスト」によれば、松本隆×筒美京平の作品は、何と全390曲。しかし『ときめいて』以降の30年間では、たった24曲。

その24曲の中の1曲が、『ときめいて』から17年後の08年にリリースされた、中川翔子『綺麗ア・ラ・モード』という、実にエレガントで、「歌謡ポップス」という枠組みを超えた傑作なのですが、それはまた別の物語です。

  • スージー鈴木

    音楽評論家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12トゥエルビ『ザ・カセットテープ・ミュージック』出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』(彩流社)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『イントロの法則80's』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『恋するラジオ』(ブックマン社)など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。

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