混迷を極めるアフガニスタン 「地獄の内戦」勃発の危険度
国民的英雄マスード司令官の息子が率いる『北部同盟』がタリバンに徹底抗戦 中ロなどの大国が介入し、混乱に付け込んだイスラム国やアルカイダがすでに国内に侵入
アメリカ軍の完全撤退開始を機に始まった武装勢力タリバンによるアフガニスタン侵攻。8月15日には首都カブールを制圧し、勝利宣言を発表した。一方で25万人以上の難民が発生するなど、国内は大混乱に陥っている。
そんな中、反タリバン勢力が”英雄の息子”の元に集結している。その人物とは、かつて反対勢力の中心人物として活動し、『9.11』の2日前に暗殺されたマスード元国防相の息子であるアフマド・マスード氏(32)だ。彼を中心とした『北部同盟』には、政府軍などから約9000人が参加。同氏はサウジ系衛星テレビ局の取材に以下のように答えた。
「タリバンは長くは続かない。我々は国を防衛する準備ができており、流血の事態を警告する」
対するタリバン側も22日にSNSを通じて「イスラム戦士たちが制圧に向かっている」と発表。緊張はかつてないほど高まっている。国際情勢に詳しいジャーナリストの山田敏弘氏は、大規模な内戦発生の危機に警鐘を鳴らす。
「中国とロシアはすでに新政府を容認する姿勢を発表しており、内戦が発生すれば武器の提供や人的サポートを行うでしょう。一方で北部の反タリバン勢力をアメリカが支援する可能性があります。バイデン大統領は頑(かたく)なに米軍撤退を進めていますが、同時に政府関係者なども撤収する予定です。これはアフガン国内で続いてきた和平交渉の打ち切りを意味しています。
20年前の旧タリバン政権時代にも行われた方法ですが、今後は第三国を経由して秘密裡に資金や物資を反タリバン勢力に流すのではないでしょうか。そうなれば戦闘は大規模化します。これは最悪のビジョンですが、過去20年で犠牲になった12万人以上の死傷者よりも、多くの血が流れる可能性があります」
イスラム国や国際テロ組織アルカイダも動き出している。23日にカブール国際空港では、イスラム国と思われる勢力による狙撃事件が発生し、治安部隊の1名が死亡、3人が負傷した。アフガン情勢に詳しいジャーナリストの常岡浩介氏は、イスラム国の攻撃は今後も続くと予想する。
「イスラム国にはもともと『アフガニスタンはイスラム国の一州に過ぎない』という考えがあり、国として認めていません。一方、タリバンが政権を握って初めに行ったのが、カブール警察に収監されていたイスラム国指導者の処刑でした。両者の敵対関係には根深いものがあります。現時点でイスラム国は軍備が整っていないため攻撃は局地的ですが、予断を許さない状況です。
一方でアルカイダは米軍や他国の影響がなくなり、アフガニスタンが完全な不干渉地帯となる時を静かに狙っています。諜報が彼らの専門分野です。アフガン国内に入り込んでいるアルカイダのスパイたちが、同じイスラム教徒であることにつけ込んで新政府関係者を懐柔して寝返らせ、内部情報を抜き出していてもおかしくありません」
各勢力の思惑が入り乱れるアフガニスタン。国際政治アナリストの菅原出(いずる)氏は、混乱を乗り越え、タリバン政権が正式に樹立した後も、外交能力次第では、新たな戦争が発生すると語る。
「当面の問題は経済です。手っ取り早い解決策として、イスラム過激派を交渉の切り札に使う可能性がある。たとえばウイグル系過激派の取り締まりと引き換えに中国に支援を強要。わざと過激派を自由にさせ、『抑えてほしければ金を払え』と中国を恫喝する。周辺地域を不安定化させて、支援をせびるようになれば、テロ組織との癒着を引き起こします。アフガニスタンが再び『テロ組織の拠点』になるかもしれない。そうなると国際社会が武力鎮圧に動き、アフガニスタンに血が流れることになります」
真の平和が訪れる日は来るのだろうか。



『FRIDAY』2021年9月10日号より
写真:AFP/アフロ