絶好調の『地球の歩き方』海外旅行再開までの「勝負の戦略」 | FRIDAYデジタル

絶好調の『地球の歩き方』海外旅行再開までの「勝負の戦略」

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なぜ今、旅行ガイドブックでヒット本を出せるのか

新型コロナウイルスによる感染症が世界中で広がり、はや1年半以上。ワクチン接種が進み、以前より入国基準が緩和された国・地域が増えてはいるものの、日本から海外へ誰もが気軽に旅行できるめどはいまだ立っていない。

海外旅行客が減ったことで、旅行ガイドブックの売り上げも激減。1979年創刊の老舗ブランド『地球の歩き方』も例外ではなかった。一方で、2020年9月発刊の『地球の歩き方 東京』が空前の売り上げとなり、先に発売した『地球の歩き方 世界244の国と地域』が重版となるなど「旅の図鑑シリーズ」も好評だ。

さらに、旅好き女子に以前から人気の『地球の歩き方aruco』の東京編や、東京で楽しむフランス/韓国/台湾も旅行ガイドブックの売上ランキング上位に並ぶなど、コロナ影響下においても圧倒的な支持を集めている。

創刊42年目を迎える『地球の歩き方』シリーズは長年、旅人のバイブルとして君臨。海外のニッチな場所まで網羅する貴重な情報源で、筆者もお世話になった1人だ
創刊42年目を迎える『地球の歩き方』シリーズは長年、旅人のバイブルとして君臨。海外のニッチな場所まで網羅する貴重な情報源で、筆者もお世話になった1人だ
2021年7月に4タイトル同時発売された『地球の歩き方aruco』東京シリーズ
2021年7月に4タイトル同時発売された『地球の歩き方aruco』東京シリーズ

なぜ今、旅行ガイドブックでヒット本を出せるのか。『地球の歩き方』編集部へのインタビューを交えて紹介する。

新型コロナで売り上げ激減で方針転換。SNSで長年のファンから激励も 

『地球の歩き方』編集部によると、最初に改定作業を中断したのは中国関連タイトルで2020年1月27日のこと。新型コロナの感染拡大で、武漢が封鎖されたことによる影響だった。それでも当時、過去のMERSやSARSでの事例を参考に「半年経って夏になれば収まって日常に戻るはず」と考えていたところ、同年3月末に東京オリンピックが開催延期、4月上旬に緊急事態宣言が出され、売り上げは過去に例がないほど落ち込んだ。

2020年に発売された『地球の歩き方』の「東京」(9月)と「世界244の国と地域」(7月)
2020年に発売された『地球の歩き方』の「東京」(9月)と「世界244の国と地域」(7月)

そして、「この夏に日常がすぐ戻ることはないかもしれないから、別のシリーズにスタッフ全員で取り掛かろう」と方針転換。2006年に日本で初めて書籍化以来、全国各地のご当地版で圧倒的なシェアを占める「地球の歩き方 御朱印」シリーズ、そして、『世界244の国と地域』『地球の歩き方 東京』を発売した。ヒット作となったこの2冊、いずれも発刊のきっかけは「東京オリンピック」だった。

「『世界244の国と地域』はオリンピックの開会式やメダル授与式などでその国のことをすぐ調べて知ることができる1冊として、『東京』はオリンピックで世界中から注目される都市となって全国の書店で開催されるはずの東京フェアに参加したいのと、創刊40周年記念もあって制作しました。新型コロナ、オリンピック延期、東京の『GoTo』除外などの要因が重なったのに加え、『地球の歩き方』ファンからの過去にお世話になった感謝がSNSで拡散されたこともあり、空前の売上となりました」(地球の歩き方編集部 由良暁世さん 以下同) 

旅の図鑑シリーズと「aruco」東京シリーズ、発刊のキッカケ

「旅の図鑑」シリーズは、第1弾の『世界244の国と地域』が現在5刷でいまだヒット中なのをはじめ、『世界の指導者図鑑』『世界の魅力的な奇岩と巨石139選』『世界のグルメ図鑑』『世界のすごい城と宮殿333』など、現在10冊が発刊されている。2021年10月には『世界の祝祭』も発刊予定。どのテーマもオンライン書店の図鑑カテゴリの売上ランキングで、大手出版社が長年手がける定番図鑑シリーズを押さえて上位となるなど好評だ。

折り込みの付録「並べてみました世界の巨像ベスト30」では、高さ順に並んだあらゆるジャンルの像がずらり鎮座(『地球の歩き方 世界のすごい巨像』より)
折り込みの付録「並べてみました世界の巨像ベスト30」では、高さ順に並んだあらゆるジャンルの像がずらり鎮座(『地球の歩き方 世界のすごい巨像』より)

一方、『地球の歩き方aruco』シリーズは、創刊10周年で初の国内版『東京』、「東京で楽しむ海外シリーズ』として、フランス・韓国・台湾を、2021年7月27日に同時発売。長年海外取材を続けた経験豊富な『地球の歩き方』スタッフが、新たな視点で東京の魅力を掘り下げた内容となっており、『東京で楽しむ北欧』も2021年11月に発刊予定だ。

「『地球の歩き方aruco』の東京編の発刊が決まったのが、2020年9月。『地球の歩き方』に続く東京編をarucoでも読みたいとの声が多く寄せられ、翌年の来夏にはオリンピックで多くの人が東京を訪れるはず(と信じていた)、それであれば、東京で楽しめる海外シリーズもせっかくだから一緒に作ろうという話になりました。なにより、コロナ禍で海外旅行に行けない中、身近な東京で人気の海外の国・地域を感じるスポットや体験を紹介することで、旅気分を味わう提案ができるのでは、と考えました」

『地球の歩き方aruco 東京』より。東京にいながら世界旅行気分が味わえる情報が満載で、思わず歩き出したくなる
『地球の歩き方aruco 東京』より。東京にいながら世界旅行気分が味わえる情報が満載で、思わず歩き出したくなる

読めばわかる、旅の初心者もリピーターも納得の内容充実

『地球の歩き方 東京』をはじめ、「旅の図鑑」シリーズも「aruco 東京」シリーズも、どれも読んでみるとまずその情報量に圧倒される。紹介されている観光スポットや店舗の情報や写真も、とても多い。

特に、『aruco東京』では、海外版arucoで必ず入っていた巻頭の「プチぼうけん」特集が踏襲され、「すてきすぎる『神スタバ』へGO!」「世界一周1DAYトリップ」「無料で楽しめる極上夜景を探せ!」など、東京をいくら知っていて長らく住んでいたとしても、さらに先を行くディープな内容がおもしろい。

東京で楽しむ海外シリーズだと、『aruco東京を楽しむフランス』にお取り寄せを利用した本格フランス料理レシピ、『aruco東京を楽しむ韓国』では「次の韓国旅行はまずここから!」と人気韓流ドラマのロケ地巡りや観光スポットの情報なども載っている。そんなプラスアルファの情報こそ、旅好きにはまたうれしい。 

『地球の歩き方aruco 東京で楽しむフランス』より。東京でフランス菓子の食べ比べができる驚き!
『地球の歩き方aruco 東京で楽しむフランス』より。東京でフランス菓子の食べ比べができる驚き!

実際に「都民だけど知らないスポットがたくさん紹介されていて楽しい」「東京のイメージが変わった。東京で世界一周がしてみたい」「もはや(フランス・韓国・台湾の)ガイドブックを読んでいるみたい」などの感想が編集部に続々届いているほか、「他の国バージョンも読みたい」との要望も多いという。

さらに、続々とシリーズ拡大中の「地球の歩き方 御朱印」シリーズも読みごたえ十分。『日本全国ねこの御朱印&お守りめぐり 週末開運にゃんさんぽ』は、日本全国で「猫」にゆかりある寺社の情報をはじめ、猫の御朱印や迷い猫祈願、猫の聖地まで載っていて、本を眺めているだけでもかわいいし、猫好きにはたまらない。

2021年8月24日には『御船印でめぐる全国の魅力的な船旅』も発刊。北海道から沖縄まで全国50を超える船会社に御朱印の船バージョンである「御船印」があり、航路マップや寄港地の見どころなども網羅する。まさに国内旅行の新たな楽しみ方を知ることができる。

2006年から発刊する「地球の歩き方 御朱印」シリーズ。『日本全国ねこの御朱印&お守りめぐり 週末開運にゃんさんぽ』は、全国の寺社などにある「猫」スポットを一挙掲載
2006年から発刊する「地球の歩き方 御朱印」シリーズ。『日本全国ねこの御朱印&お守りめぐり 週末開運にゃんさんぽ』は、全国の寺社などにある「猫」スポットを一挙掲載

オンラインツアー、機内食などのコラボ企画も続々

旅行会社や空港とコラボレーションし、自宅で楽しめる旅行企画も行う。

大手旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS)と共同で「おうちで海外プチぼうけん」として台湾料理やフランス菓子講座のオンラインツアーを開催、また、空港とコラボレーションして機内食なども販売する。

特に、羽田空港とのコラボ機内食は、タイのマッサマンカレーや台湾の叉焼肉飯などアジアの人気料理の機内食と、『地球の歩き方aruco』編集部おすすめの「ちょい足しスパイス」のアドバイスやワンポイントコメントがリーフレットに載って封入され、羽田空港のオンラインストアで数量限定、好評販売中だ。なかなか東京まで足を運びづらい地方在住者も、本と機内食またはオンラインツアーで楽しめる。

羽田空港と「aruco」がコラボレーションして販売する機内食。アジアごはんと、デザート付きもうれしい
羽田空港と「aruco」がコラボレーションして販売する機内食。アジアごはんと、デザート付きもうれしい

「羽田空港が販売する機内食は、初回が今年3月の発売後に即完売し、現在までに累計3000セットを販売した人気セットです。なかなか旅に出づらい現状、本や機内食で自宅であっても少しでも旅気分を味わってほしいとの気持ちが合致し、コラボ企画が実現しました」

「海外旅行再開までが勝負」と主張する理由

近い将来、海外旅行に再び行ける時代は来るだろう。その時について『地球の歩き方』編集部は「もちろん準備している」と語る一方、「海外旅行が再開してから自由に旅行できるようになるまでの期間こそがとても重要」という。

「海外各国の状況、渡航制限などは、日ごろからチェックしており、海外ガイドブックの需要が再び上向きになれば、すぐに改訂版を作れる体制にしています。また、海外の国・地域の最新情報は、ウェブやSNSで随時配信しています」

『地球の歩き方』といえば、昔から“旅人のバイブル”として知られる。『地球の歩き方』編集部も、「この本の当初の使命は、読者をこの1冊で日本の空港から旅立たせ、再び日本の空港にきちんと生きて帰すことでした。インターネットがなかった当時から、それは変わりません」と言い、「今、それと同じことが起きようとしています」とも語る。

「最新情報は、旅をしながらネットでも得られればよく、でもそれは、時間があるからできることです。何かハプニングが起きた時、最後に頼れるのは、自らの瞬時の判断力。街中で立ち止まってネットで調べる間に、何もかも失うこともあり得ます。そうならないための考え方、思想を身に付けるためにすべきことも、今まさに伝えられたらと考えています」

リアルな海外旅行が難しい今できることは、身近で旅気分を満喫することや旅先の知識を増やすこと。これまでの一般的な旅行ガイドブックでは、主な観光スポットや治安、現地会話などの情報が一通り載っていた印象だが、現地に行かなければフル活用できず、アフターコロナでは状況が一変している可能性もある。

そんな旅行ガイドブックと以前から一線を画す『地球の歩き方』シリーズだからこそできた、今も変わらず支持を集め続けている理由の1つは、以前からの企画を踏襲しつつも新規開拓を合わせてチャレンジし続けていることだろう。海外旅行に行けなくても楽しむ方法が、新『地球の歩き方』シリーズにはたくさん詰まっている。

■記事中の情報、データは2021年8月31日現在のものです。

■『地球の歩き方』のHPはコチラ

■シカマアキさんのウェブサイトはコチラ 

  • 文・写真(特記以外)Aki Shikama / シカマアキ

    旅行ジャーナリスト&フォトグラファー。飛行機・空港を中心に旅行関連の取材、執筆、撮影などを行う。国内全都道府県、海外約40ヶ国・地域を歴訪。ニコンカレッジ講師。元全国紙記者。所有する『地球の歩き方』は約40冊。特に「イタリア」は行くたびに持参して破れるほど使い、再度買ったので思い出深い。飛行機によく乗る達人として『地球の歩き方aruco magazine』などに登場した経験も。

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