『オモウマい店』から紐解くバラエティーの隠れテーマ「裏切り」 | FRIDAYデジタル

『オモウマい店』から紐解くバラエティーの隠れテーマ「裏切り」

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次々と起こる突拍子もない「裏切り」… 

様々なバラエティー番組がある中で、ヒューマングルメンタリー『オモウマい店』(中京テレビ・日本テレビ系)がウケている。中京テレビ制作のこの番組は、「オモてなしすぎでオモしろいウマい店」を発掘するため、スタッフが全国を回って探した飲食店をVTRで紹介し、司会のヒロミ、バイキング小峠英二がゲストとともに見ていくという普通の構成だ。

しかし普通ではないのが、VTRで紹介される飲食店の店主たち。それぞれに強いこだわりや信念を持ち、そこからくる言動が、私たちの想像の斜め上どころか全くの想定外へ着地するから面白い。奇想天外なストーリー展開をわかりやすく説明するには、「裏切り」という言葉がふさわしいだろう。 

ヒューマングルメンタリー『オモウマい店』(中京テレビ・日本テレビ系)公式HPより
ヒューマングルメンタリー『オモウマい店』(中京テレビ・日本テレビ系)公式HPより

バラエティー番組で機能する「裏切り」の破壊力 

本来「裏切り」はよくない意味だ。類義語を調べると、「背信、謀反、寝返り、内通」といった言葉が出てくる。もちろん、私たちも日常生活で裏切られるのは勘弁だし、不快な想いや損は、できるだけしたくない。

しかし、ことバラエティー番組に関してはそうとは言い切れない。近年では、どの番組でも「出演者全員で仲良く楽しくやろう」という風潮がある。年齢や立場の違いといった壁を感じさせないファミリー感や一定の調子を守る進行は、安心して見ることができるが、場合によってはマンネリ化してしまうこともある。

そんな中で登場したのが、『オモウマい店』だ。この番組には、前述したようなセオリーはない。儲けよりもお客さんに喜んでもらうことを使命とする店主たちが、突拍子もない「裏切り」を次々に起こしてくれるからだ。番組スタッフたちは店主のペースに巻き込まれ、はじめこそ苦労している様子もうかがえるが、やがて両者の間には本当の家族のような信頼感が生まれ、思ってもいないサプライズが届けられる。

この笑いと感動の緩急が効いた裏切りは、私たちの感情を様々な方向にゆさぶり、あっと言う間に1時間が終わり、大きな満足感をくれるのだ。それをわかりやすく証明したのが、7月20日の放送回。一度取材したお店のその後を見るということで、スタッフが「味のイサム」を訪れた。

歓迎ムードはすぐに一転。放送後、忙しくなり人手が足りなくなったという理由で、番組ディレクターは急遽アルバイトをすることになった(リサーチそっちのけで5連勤)。すでに一度密着取材をしているので、皿洗いや配膳はお手の物。オーダー取り、調理補助、野菜の下処理と徐々に仕事のレベルを上げていき、「皿洗いや配膳だけじゃ面白くないからね。じゃあ……」と、最終的には、まかない作りを任された。

イチ番組スタッフの思わぬ出世(?)に笑いと驚きがやって来るが、それだけではない。番組ディレクターが店主の飼い犬の散歩をしたり、店主の家族が手作りケーキを番組ディレクターにプレゼントしたりと、心温まるやりとりが続いた。さらに、「お世話になっているから」と、番組ディレクターの実家から贈り物が届けられると、店主自らが店の名物を持って実家に行くと申し出た。

正直、この展開は誰もが想像できなかっただろうし、なぜこんなところに着地するのか理解できない。でも、自然と笑えてくるし、嬉しさもこみあげてくる。人によっては涙腺が緩む人もいるだろう。これが、『オモウマい店』特有の突拍子もない「裏切り」なのだ。

スタジオからは「(あまりの仲の良さに)これ、もう就職してるでしょ!」「家族じゃん!」「(笑ったすぐ後に感動が来るから)感情がめちゃくちゃになる」という感想だけでなく、「世界に羽ばたける番組だよ。これ見たら平和になると思う」という絶賛する発言も飛び出した。

いい「裏切り」の連続に涙した放送回も……

よくわからない展開で視聴者の感情をかき回したかと思ったら、8月17日の放送回では、一転して感動の涙を誘った。

この日は、料理を安く提供するために店主自らがウーバーイーツで稼ぐという「食楽 たざわこ」のその後を追った。ここは、ウーバーイーツで出稼ぎする店主に代わって、パートさんが店を切り盛りするという、ちょっと変わったお店。どの料理も本格的な割に料金は劇安な上に、「ウチも大変だけど、もっと大変な人もいるから」と、不定期で無料のお弁当を提供している。

店主たちが初登場の放送を見守る最中、お店にはエールとお礼の電話が入り、中には釣った魚を引き取ってほしいという申し出もあった。すると、店主の家族が「無料のお弁当に魚フライが加えられる!」と喜び、スタジオの笑いを誘った。ところが、次の「(店主の)がんばりを見てもらえてよかった!」という言葉に雰囲気は一変。笑い声は消え、ワイプにはスタジオメンバーの神妙な顔が映った。

放送後、店主のウーバーイーツのバッグ置き場が撮影スポットと化し、番組を見てやって来た客が記念撮影をしていくという現象が発生。さらに、配達で稼いだお金で「たざわこ」に食事をしに来るウーバーイーツのパートナーが急増。一般客の「食べに来てお金を落とすから、ウーバーに行かないでほしい」という願いも叶い、店主は「(お店の仕事が)忙しくなったから、ウーバーイーツに行けなくなっちゃった」と笑った。

涙なしには語れない神回と言っていいだろう。

「オモウマい店」以外にも当てはまる「裏切り」の法則

『オモウマい店』がウケている要因を「裏切り」としたとき、最近、話題になったバラエティー番組にも当てはめることができる。

例えば、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)では、昨年の「8歳なりきりコンテスト」や「前人未踏!?浜田の出前館CMに挑戦!」、ダウンタウン浜田雅功の「老い老い裁判」などが、「老いは面白い」と話題になった。

日本のお笑い界のトップを走る彼らには、どんなお題も笑いに昇華してくれる信頼感がある。しかし、上記の放送回では、年相応の中年男性である一面を見せて笑わせた。この笑いは間違いなく、私たちの予想を裏切ったものだが、期待以上の面白さを与えてくれた。もちろん、満足感は大きい。

また、昨年の『M-1グランプリ』もそうだろう。マヂカルラブリーの優勝は、彼らのスタイルがこれまでの漫才像を良くも悪くも裏切ったから、世間を揺るがすほどの「漫才か漫才じゃないか論争」を招いたのだろう。

「みんなで楽しくワイワイ」と進むバラエティーもいいが、前述したとおり、時折物足りなさを感じる。それを解消するのが「裏切り」だ。今後のバラエティー番組においては、これまでのセオリーを無視した「裏切り」が、混乱や感動といったスパイスとして重要な要素になるのかもしれない。

  • 安倍川モチ子

    WEBを中心にフリーライターとして活動。また、書籍や企業PR誌の制作にも携わっている。専門分野は持たずに、歴史・お笑い・健康・美容・旅行・グルメ・介護など、興味のそそられるものを幅広く手掛ける。
    カラーは違うけど、中京テレビ制作の『太田上田』も好きです。一度、番組制作陣側のお話も聞いてみたい!

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