「バリアは絶対ある」車いすラグビー池崎大輔が示した発想の転換 | FRIDAYデジタル

「バリアは絶対ある」車いすラグビー池崎大輔が示した発想の転換

「この世の中バリアフリーなんてありえない…」だからこそ、誰でもできる第一歩を踏み出すことが「バリア」を低くしていく

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2大会連続の銅メダルを獲得した車いすラグビーのエース池崎大輔(右)。金メダルだけを追ってきた池崎は準決勝に敗れた後、涙を流した

「握力って必要ありますか?」

銅メダルに輝いた車いすラグビー日本代表。車いす同士がぶつかり合うことを認めるフルコンタクトスポーツで、その迫力は競技の大きな魅力となっている。試合中に車いすが壊れるリスクが前提のため修理を行うメカニックがベンチ入りして戦うといえばその激しさが伝わるだろうか。

だが、その激しいプレーをする彼らは、選手により様々な種類と重さの障がいを抱えている。池崎大輔の場合はシャルコー・マリー・トゥース病という病気だ。末梢神経の疾患で手先、足先から筋力が衰えてくる。池崎は6歳の時にこの病を発症。もともとはあった握力が、徐々に失われ今はほとんどない状態だという。

一言で握力がないと言っても、それがどのような状態でどのような不便を伴うのだろうか。

「僕からすれば、握力って必要ありますか?という感じですね」

池崎の答えは、難しかった。

「指を使わなければいいんですよ。ペットボトルの蓋を開けるときに、指でつまんで回しますよね。でも握力なくても、指を使わなくても開くんです」

実際にやってみると、指を使わずにペットボトルの開けるのは簡単ではない。ペットボトルの開け閉めに限らず、握力がないと日常の細々とした動作に困難を伴う。それでも池崎の場合、カミソリを用いてヒゲも剃るし、自分でネクタイも好みの形に結ぶ。シャツのボタンは「ボタンヘルパー」という補助器具を使うかスナップタイプのシャツを着用するなどして自分で留める。ただ、全てを一人で行おうとすると時間がかかるので、スタッフの力を借りることもある。

「時間をかければなんでもできないことはないんです。でもその時間が無駄なのかどうかというところです。時間イコール命じゃないですか。なのでいかに素早く工夫して、ということを考えます」

当然ながら自分のことは自分でしたい。だが、日々の細々としたことと言っても、時間と労力がかかってしまえば”細々”ではなくなる。時間イコール命、という表現は重たいが的確なのかもしれない。また、池崎は人それぞれに困難はあるはずだ、という。

「僕は障がい者という言葉がきらいなんです。健常者だっていろんな困難があってできることできないことがあると思うんですよね。誰だって自分の身体と向き合ったときに、できないことは人の手を借りたり、お金を払って誰かにやってもらうこともある。でも人に頼ってしまったら簡単になることも、自分でどうやったらできるかというのは常に考えて生活しています。例えば歯磨きだって歯ブラシを上手く持てなければ電動歯ブラシを使えばいい話ですよね」

たしかに健常者でも自分に困難があればとる対応は大きくは変わらない。自分でできる方法を探すか、誰かの助けを借りるか。金銭や時間がどの程度かかるのかバランスを図りながら方法を探るだけではある。

とはいえ、握力がない世界について池崎を取材するまで考えたこともなければ何も知らないことばかりだった。

「知らないと言うことは、そういう人に触れる機会、話す機会がないということですよね。知っていれば、もし会う予定をしていて30分も遅れて来ないなんてことがあっても、あーこういうことに時間がかかっているんだなと想像できたりしますよね」

2016年4月、千葉県内で行われた交流イベント。こうした機会を通して、障がいの有無に関係なく、「困っている人を助ける」という感覚が広く浸透していくことを願っている(写真:アフロ)

困っている人を助ける。それが支え合い

知らないとそんな想像さえつかない。ただ、こんな実態を知らない人に伝える必要が必ずしもあるとは、池崎は考えていない。

「伝えなきゃいけないとも思うし、伝える必要もないかなーとも思うんですよ。大変な思いをしてる、と言ったら、同情してもらえるのかもしれません。それなら僕はイヤなんです。ただそうやって僕も頑張っている、みんなも頑張ってねと言いたい。努力すればできないことができるようになることもある、自分で工夫して考えて、できるようになるまで頑張る、その強さが必要、というのは学校訪問などでは伝えています」

親切であることと同情は違う。頭でわかっていてもなかなか難しいことではある。

池崎はコロナ禍で気づいたことがあるという。

「今、お店に入ったときにアルコール消毒スプレーが置かれていますけど、足で踏んで出すものがほとんどじゃないですか。僕はこんちきしょーって思って、手で押してアルコールを出してますけど車椅子の人のことは考えられていないなと思います。確かに押すタイプは衛生面で問題があるのかもしれないけれど、足で踏んで出すタイプって車いすだけでなく、目の見えない人とかもどうしているんだろうと思います。ちょっと考えてほしいなあ、と」

貴重な提言だ。一方でコロナ禍だからこそ、人の優しさを感じたともいう。

「コロナ禍でオリパラが1年延期になって、なんか人が優しくなった気がします。痛みを分かち合えると人は優しくなれるという感じでしょうか。障がい者にも健常者にも平等にコロナはやってきた。みんなが協力しあって収束させなくてはいけないからか、すごく優しい人が増えたと思うんですよね。大丈夫ですか、お手伝いしましょうかって声をかけられることも多い。僕のまわりだけなのか、活動エリアのおかげなのかわからないですけど僕はそう感じています」

コロナ禍だからではなく、普段から声をかけあえる世の中であればもっと良い。

「相手が障がい者だから、健常者だからではなく、困っている人がいたら手を貸す。それこそが支え合いだと僕は思います。この世の中バリアフリーなんてありえないと僕は思ってるんですよね。バリアって絶対あるんです。でもそのバリアをみんなで支えあうことで乗り越えていくということはしないといけない。だから、コミュニケーションって大事だなと思います。僕から落し物を拾うこともありますしね」

困っている人に手を貸す。きっと案ずるより易しと思って一歩を踏みだしてみたい。

  • 取材・文了戒美子

    1975年、埼玉県生まれ。日本女子大学文学部史学科卒。01年よりサッカーの取材を開始し、03年ワールドユース(現・U-20W杯)UAE大会取材をきっかけにライターに転身。サッカーW杯4大会、夏季オリンピック3大会を現地取材。11年3月11日からドイツ・デュッセルドルフ在住

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