過激テロ指導者もいる「組閣」でわかったタリバン政府の今後 | FRIDAYデジタル

過激テロ指導者もいる「組閣」でわかったタリバン政府の今後

アフガニスタンで何が起きているのか。黒井文太郎緊急レポート

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9月7日、タリバンが暫定政権の顔ぶれをようやく発表した。8月15日に首都カブールを制圧してから、すでに3週間以上が経過している。

タリバンによる「暫定政権」閣僚が発表に。その陣容から見えるタリバン支配の方向性は…軍事ジャーナリストが読み解いた 写真:AFP/アフロ
タリバンによる「暫定政権」閣僚が発表に。その陣容から見えるタリバン支配の方向性は…軍事ジャーナリストが読み解いた 写真:AFP/アフロ

これまでアフガニスタン情勢に関しては、タリバン新政権が穏健路線をとるのか、あるいは過去のような国内での厳しい弾圧をともなう強圧的な路線をとるのかが、最大の注目点だった。タリバンの対外的な情報発信を担ってきたのは、もともとカタールを拠点に対米交渉を担当してきた政治部門の指導者たちであり、この3週間も、対外的にはずっと穏健路線をアピールしてきた。

しかし、①彼らの言葉は本心なのか否か、あるいは②彼らの言葉はタリバン指導部の総意なのか否か、③彼らの方針にタリバンの末端勢力は従うのか否か、が不明だった。

〝過去のタリバン″ではなく、〝現在のタリバン″の内情については情報がほとんどなかったから、世界中のメディアも、アフガニスタンの今後について、あやふやな「憶測」を報じるしかなかった。

しかし今回のタリバンの「暫定政権の人事発表」によって、〝現在のタリバン″について、いくつか「推測」が可能になった。

タリバン組閣の「意味」を読み解く

▽内部で綱引きがある

前述したように、新体制の発表まで3週間あまりもかかった。これは、タリバン指導部内で、さまざまな陣営の間で話し合いが長引いたためと推測できる。

タリバンはもともとパシュトゥーン人を中心にした有力な部族指導者・戦闘指揮官の集合体だが、強い指導力・影響力を持つリーダーがいれば、話は基本的には上意下達で早い。しかし、おそらく新政権の統治方針と主導権をめぐって、話し合いがかなり紛糾した可能性がきわめて高い。

▽最高指導者の影が薄い

タリバンのトップは最高指導者というポストで、現在、3代目となるハイバトゥラー・アクンザダという人物が就いている。

この人物はもともと宗教指導者で、タリバン指導部でイスラム法廷を率いてきた。前任者の死亡を受け、当時のタリバン内の派閥対立の中でのバランスからその地位に就任した(前任者が後任に指名していた)が、宗教的な権威はあっても、戦闘力を持つ部族の社会での実力者ではない。

現在のタリバン内でのこの人物の影響力がどれほどかはまだ不明な点が多いが、今回の新政権には直接は入らなかった。今回の新体制発表に際しては、政府の上部の最高権威とされ、「信徒たちの長」というポジションで「イスラム法に基づくべき」との声明を発表しているが、政治的な指導者というより宗教上の指導者という立場の表れと思われる。

▽パシュトゥーン人が権力をほぼ独占

タリバン政治部門はこれまで融和方針を匂わせてきたが、実際には新体制がさまざまな勢力が参加する包括的な体制となることはなかった。政治交渉相手だった旧政権有力者や非タリバン系有力軍閥などは現時点での新体制からは排除され、タリバンが権力を独占した。

今回発表された暫定政府指導者は全部で33人。トップの首相代行が1人、副首相代行が2人、各省庁の大臣が19人、その他の副大臣や重要部局長官などの政府要人が11人だ。全員がタリバン幹部で、そのうち大臣22人をみると、ウズベクとタジク人の各1人以外は全員、タリバンの主流であるパシュトゥーン人となった。名目的・象徴的な意味も配慮したポスト配置というよりは、まさに権限を分配した要素が大きいといえる。

ちなみに、一部の欧米メディアでは、タリバンの穏健化路線を見極める指標として、女性閣僚の可能性も注目されていたが、女性の登用は一切なかった。

▽新政府トップは神輿的重鎮

新政府トップの首相代行には、ムハマド・ハッサン・アフンドが選ばれた。彼はタリバン創設期からの最古参幹部で、前回のタリバン政権で外相や第1副首相を務めており、国連の制裁対象人物でもある。

彼は前のタリバン政権崩壊後、20年にわたりタリバン指導部の最高意思決定機関である合議制の「ラフバリ・シューラ」(指導評議会)の議長として、組織の調整役を担ってきた。パシュトゥーン人の名門部族の系譜で、イスラム教に関する著作がある宗教指導者だが、タリバン内ではアクンザダ最高指導者と近いと見られている。

ただ、目立つ存在ではなく、とくに近年は注目されることもあまりなかった。現在のタリバン内での政治的な指導力・影響力は不明だが、やはり調整役的存在の可能性が高い。

タリバン最古参幹部の重鎮ではあるが、今回は他の有力者たちの駆け引きが対立に至らないように、バランスの上でトップに担ぎ出された神輿的な役割と言えそうだ。

▽対外交渉の責任者は首相代行に就けず

これまでのタリバン指導部の公式な発表では、組織のトップは最高指導者で、その下に副指導者が3人いた。この副指導者のひとりがアブドル・ガニ・バラダル政治担当副指導者で、一部報道では「タリバンのナンバー2」と伝えられているが、正確には3人いるナンバー2のうちの1人である。

彼はもともとタリバン創設者の盟友の最古参幹部で、これまではカタールでタリバン政治部門代表として対外交渉を統括しており、カブール制圧後も政治交渉を取り仕切っていた。対外交渉統括者として存在感が際立っており、一部では新政権の首相代行に就任するのではないかとも見られていたのだが、1ランク下の第1副首相代行となった。

彼は古参幹部ゆえにタリバン指導部でも重鎮で、しかも部族名門の系譜ではあるが、自前の戦闘部隊を持っておらず、その意味では影響力は限定的だ。おそらく指導評議会で、彼の首相代行就任に反対の強い声が出たものと推測される。これまでのタリバンの穏健アピールを主導してきたのがこのバラダルだったが、今後も穏健路線をとり続けるか否かは、バラダルの事実上の格下げからすると、予想はきわめて難しい。

実権は最過激指導者の恐怖

▽実権ポストを押さえたのは最凶テロ集団の指導者

バラダルのライバルと目されていたのが、他の2人の副指導者で、この2人はともに実力者だ。なかでもシラジュディン・ハッカニはタリバン内でも最も戦力のある傘下部隊「ハッカニ・ネットワーク」のトップで、一部には彼が首相代行になるのではないかとの観測もあったほどだ。

しかし、彼のトップ就任にはおそらく反対意見も多く、やはりそれは見送られた。ただ、その代わりに彼は今回、内相のポストを得た。すでに北東部のパンジシール渓谷などの一部地域を除いてアフガニスタンのほぼ全土はタリバンが制圧しており、今後はタリバン内部での主導権争いになる。その場合、警察活動を統括する内相の権限はきわめて強くなることが予想され、ハッカニはタリバン政権内で確固たる地位を得たといえる。

ハッカニ・ネットワークはもともとタリバン内でも独自勢力で、パキスタン国境エリアを本拠とし、パキスタン軍情報機関、アルカイダ、犯罪組織などとも関係が深い。タリバン幹部にはアフガニスタン南部出身者も多いが、ハッカニ派は東部派閥の中心的勢力でもある。反米・反NATOの最強硬派で、これまでも凶悪なテロ事件をいくつも実行してきた。ハッカニはその指導者として、米政府がテロリスト認定し、FBIが公式に賞金付き指名手配している。

そのような人物なので、彼が内務省を押さえることで、タリバン全体を非穏健路線に引っ張っていく可能性は高い。実際、9月8日にはさっそく内務省命令で「届け出のないデモ禁止」が通達された。

今回のカブール制圧後も、ハッカニ・ネットワークはシラジュディン・ハッカニの叔父にあたるハリル・ハッカニ(やはり米国がテロリスト認定)が率いる精鋭部隊をカブール要所の警備にいち早く送り込んでおり、すでに実力で主導権を握りつつある。なお、今回の新政府では、このハリル・ハッカニも難民相代行として、さらにナジブラ・ハッカニが通信相代行として入閣している。

▽若き国防相は、国内主導権争いでは不利か

前出のハッカニ新内相代行の対抗馬が、もう1人の副指導者で今回、国防相代行に選出されたムハマド・ヤクーブだ。彼はまだ30~31歳と若いが、タリバン創設者の息子で指導部内に支持者が多いようだ。彼は昨年、タリバンの軍事委員長に任命されており、そのまま国防相となった。

ヤクーブは公式にタリバンの軍を統括する立場となったわけだが、軍はもはや前述した一部の反タリバン勢力と戦うくらいのもので、タリバン政権内での主導権争いではおそらく今後は、国防相より内相の実権のほうが強くなるのではないか。その意味ではやはり、ハッカニと彼の配下集団のほうが、今は勢いがあると言えるだろう。

▽ダークホース的存在の2組織の人事

その他、国家権力を担う組織としては、規模は小さいものの独自の権限を持つ治安・情報機関の「国家保安局」(NDS)という組織がある。こちらの長官代行には今回、アブドル・ハク・ワシークが選ばれた。

彼は前回のタリバン政権で情報局副官を務め、アルカイダと共闘。9・11後に米軍に捕縛されてグアンタナモ基地で収監されていたが、2014年にハッカニ・ネットワークが拘束した米兵との交換で釈放された人物である。

また、NDS第1副長官にはタジミール・ジャワドが選ばれた。彼もハッカニ・ネットワークで数々のテロに関与してきた人物である。

「勧善懲悪省」の役割

さらに、今回、タリバンは前回の政権時に権勢をふるった省庁をひとつ復活させた。勧善懲悪省である。

こちらはいわゆる宗教警察で、前回政権時には女性の弾圧などで甚だしい人権侵害を実行してきた。今回、勧善懲悪相にはムハマド・ハーレドが選出されている。

この国家保安局と勧善懲悪省はそれぞれ強力な権限があり、そのトップの人事は今後のタリバン政権内での権力闘争でも、一定の影響力を持ちそうだ。

以上は今回の新政府のメンバー発表を受けての「推測」である。ただし、タリバンはあくまで今回の構成は暫定的なものであり、今後変更があり得るとしている。今後のさらなる人事により、将来のタリバンの方向性はさらに明確になっていくだろう。

  • 取材・文黒井文太郎写真AFP/アフロ

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