「5年以上自宅待機」みずほ元行員が損害賠償で銀行を提訴
「なんの不正もしていないのに、なぜこんな目に遭ったのか……」 何度も社内で表彰されていた会社員生活が、部長に送った1通のメールで一変 配置換えの挙げ句に退職を強要されて……
「私は何か不正や法律を犯したわけではありません。にもかかわらず、明確な説明がないまま、5年以上にも及ぶ違法な自宅待機命令が下されていました」
そう語るのは、今年5月までメガバンク「みずほ銀行」の行員だったAさん(52)である。
’07年、地方銀行に勤務していたAさんはみずほ銀行の関西エリア限定採用に応募して転職した。転職後のAさんは営業職として何度も社内表彰を受けた優秀な行員だった。それが、’14年12月、京都支店で課長代理を務めていた際、1通のメールを送信したことで暗転する。
Aさんによれば、営業時間中に来店客から見える場所で、旧日本興業銀行出身の営業部長・X氏は足を組みながら新聞を大きく広げて読むことが日課だった。顧客からもクレームが入ったため、Aさんは直属の上司に内容を確認してもらったうえで、支店長と副支店長をCCに入れ、顧客にそうした態度を見せないようにお願いするメールをX氏に送った。
「その後、何が起きたかというと、関西地区を担当する常務が支店に現れて、支店長らを呼んだのです。さらに東京からも人事部員が3~4人も来て、『臨店』が始まり、上司や同僚が聴き取りを受けました。みんな会議室から出てくると、私の顔を見て自席に戻っていく。でも、私は呼ばれない。後日、廊下でX氏とすれ違ったときに『覚えておけよ』と小声で言われたことを今もよく覚えています。そして、3ヵ月後に私は東京に呼ばれました」
’15年3月、東京・大手町にある本部で、Aさんは人事部の参事役から、X氏への態度が失礼だと指摘されたという。
「7月の人事異動で営業職から外されて、大阪の事務職に配置換えになりました。直後に東京の人事部に呼ばれて、『今回は大目に見るが、次やったら分かっているな』と注意も受けました。このとき、人事部員が帰りのエレベーターに向かう途中、『X部長の行動は誰もがおかしいと思っている』『相手が悪いな。しかし、みずほにいる以上、ね』と漏らしたんです」
Aさんは’16年3月に再び東京の人事部に呼び出されて、こう言われたという。
「会社を辞めてください。今後は就職活動をしてください」
これを含め、1年2ヵ月の間にAさんは計11回も東京や大阪に呼び出され、人事部の幹部2人と個室で面談した。その合計は14時間超に及ぶ。
「このままだと東京で同じ作業を繰り返し行う事務職員にさせますよ」
人事部からは執拗に退職を強要する発言があったとAさんは証言する。
一方で、’16年4月7日付でAさんには人事部から口頭で自宅待機命令が下され、朝から夕方まで就職活動以外は図書館を除いて外出を禁止されたという。その期間は5年を超えた。しかも、’17年4月1日付で、東京に異動となっていた。Aさんがこれを知ったのは同年5月10日の人事部との面談だった。
「私は関西地区限定の採用なのに、『東京に異動になりました。今からあなたの荷物を自宅に全部持って帰ってください』と。(宅配便の)伝票を書かされ、私物を箱に詰められて、この数日後には入館証のカードも返却せよと連絡もありました」
その後、Aさんは社内メールで内部通報を試みたが、状況は改善されることなく、逆に懲戒処分を立て続けに受け、今年5月27日に懲戒解雇された。
9月9日、決意したAさんはみずほ銀行に対して解雇無効や損害賠償請求などを求める民事訴訟を東京地裁に提起する。
「最初は私の話を誰も信用してくれなかった。みずほのような大企業でそんなことがあるはずないと。私もX氏にメールを送ったことでこんなことになるとは思ってもいませんでした。まず訴訟をして、公にするというのが最優先。理不尽な仕打ちを受けたのはもしかしたら私だけじゃないかもしれない。真相解明、謝罪、再発防止などを求めていきます」
Aさんの代理人を務める笹山尚人弁護士はこう指摘する。
「短期間に退職以外の選択肢がない面談を集中的に行っており、これは退職強要として十分に裁判の判断に耐えうると考えます。また、職場復帰の道筋を示さず、何年も自宅に居続けることを強いたことは不当な人身拘束にあたるでしょう」
真っ黒だったAさんの髪はこの5年間で真っ白になった。一方、X氏は現在、みずほ銀行の常務執行役員を務めている。
同行の広報室にA氏からの民事訴訟に関して質問状を送ったが、「訴状を確認したうえで対応方針については検討いたします」と回答するのみだった。退職強要については、「プライバシーを保護する必要がある」として回答を控えた。
Aさんの話はまるで『半沢直樹』の世界だ。いや、現実のほうが救いがない。



『FRIDAY』2021年9月24日号より
取材協力:田中圭太郎(フリージャーナリスト)PHOTO:加藤慶(1枚目) 共同通信社(2枚目)