日本代表の座をかけた「氷上のカーリング娘」の熱い表情
開幕まで5ヵ月に迫った北京冬季五輪。その代表の座をかけた戦いが、早くも始まろうとしている。9月10日~12日、北海道稚内(わっかない)市で女子カーリングの日本代表決定戦が行われるのだ。
対戦するのは、’18年の平昌(ピョンチャン)五輪で銅メダルに輝き、「もぐもぐタイム」で一世を風靡(ふうび)した『ロコ・ソラーレ』(北海道北見市)。そして、’14年ソチ五輪日本代表の『北海道銀行フォルティウス』(北海道札幌市)だ。5戦のうち先に3勝したチームが日本代表になるという、シンプルかつ熱い戦いなのである。’98年長野五輪の男子カーリング代表・敦賀信人氏が語る。
「ロコ・ソラーレは平昌五輪を筆頭に、数々の国際大会を戦ってきたチームで、経験値は国内随一でしょう。平昌五輪から、リザーブ(控え)が本橋麻里(35)から石崎琴美(42)に代わったものの、それ以外の主要メンバー4名はそのままです。チームとしての成熟度は非常に高いと思います」
ロコ・ソラーレの最注目選手が、「スキップ(全8投のうち、7、8投目を投げる選手のこと)」の藤澤五月(さつき)(30)だ。敦賀氏が続ける。
「藤澤はオフェンスが好きな選手です。そのため、ロコ・ソラーレはオフェンシブな作戦が目立ちます。1エンドに3点以上得点を取ることを『ビッグエンド』と言い、相手に大きなプレッシャーをかけられます。序盤にビッグエンドを取って試合の主導権を握り、その後は巧みに逃げ切るというのが、ロコ・ソラーレの勝ちパターンです」
注目選手は藤澤だけではない。平昌五輪でも活躍した、吉田知那美(ちなみ)(30)と夕梨花(ゆりか)(28)の「吉田姉妹」もいる。スポーツライターの竹田聡一郎氏が話す。
「ロコ・ソラーレの強さの理由のひとつは、リード(1、2投目を投げる選手)の吉田夕梨花がとにかくミスをしないこと。そのため、相手に3~4点取られるような大崩れが少ないのです。野球にたとえると、先発投手がしっかりしているようなイメージです。
それに対して、姉であり、サード(5、6投目を投げる選手)の吉田知那美は爆発力の人。4年前の平昌五輪トライアルでもそうでしたが、五輪や代表権がかかった試合など、とにかく大舞台に強いのが特長です」
ではロコ・ソラーレが代表で決まりかというと、決してそんなことはない。対する北海道銀行も強力なメンバーが揃っている。同チームを牽引するのが、サードの小野寺佳歩(29)だ。前出・敦賀氏が解説する。
「小野寺の武器は相手のストーンをはじき出す『テイクアウト』。ストーンのスピードは、おそらく国内女子でナンバーワンでしょう。一投で試合の局面を変えられるようなショットを投げさせたら、小野寺の右に出る者はいないと思います」
ロコ・ソラーレは3年前から顔ぶれがほとんど変わっていないが、これはカーリング界では珍しいこと。新たな化学反応を求めて、メンバーを入れ替えるほうが一般的だ。北海道銀行も試行錯誤を経て、いまのチームを作り上げたのだという。前出・竹田氏が話す。
「北海道銀行は、平昌五輪の翌シーズンに、スキップだった小笠原歩(42)が一線を退いています。彼女は女子カーリング界のレジェンドで、チーム発足時からの看板選手。北海道銀行にとっても転機でした。
そのあとにスキップになったのが吉村紗也香(29)です。吉村がスキップになって2年ほどはなかなか勝てずにいたんですが、それでも折れずに戦い続けた。その経験が、いまのチームの強さにつながっていると思います」
下馬評ではロコ・ソラーレが若干優勢とみられているが、どちらに転んでもおかしくはない。だが、勝者にはまだ次の難関が待っている。前出・敦賀氏が語る。
「日本代表の座を勝ち取っても、そのまま五輪に出場できるわけではありません。日本は5月の世界選手権で五輪出場枠を獲得できなかったため、12月の最終予選を勝ち抜かなくてはならないのですが、この最終予選がかつてないほどハイレベルなんです。
平昌五輪で銀メダルの韓国、4位のイギリス、さらに5月の世界選手権で日本を下したドイツなど、強豪国がひしめきあっています。最終予選には最大で7ヵ国が出場予定で、五輪に行くためには、上位3ヵ国に入らないといけないのです」
厳しい試合になるのは間違いない。しかし、この日本代表決定戦という激戦を勝ち抜いたチームなら、必ずや五輪の切符を手中に収めるだろう。
「カーリング娘」たちの戦いが始まる。
『FRIDAY』2021年9月24日号より
- 写真:時事通信社、アフロ