移築は間に合うのか…川端康成が愛した豪華別荘「取り壊し」の危機
軽井沢の高級別荘地 土地の売却が決定し、建物の移築を巡って町議会が審議中
多くの名作が誕生した聖地が失われようとしている。
長野県軽井沢町の一等地である万平(まんぺい)ホテルの裏手にある別荘地「幸福の谷」には、ノーベル賞作家の川端康成が愛した邸宅がある。ここは、小説『みづうみ』などの名作を執筆した場所で、エッセイ『落花流水』にはテラスから見た風景も登場する。約380坪という広大な土地に建てられ、地上2階、地下1階建ての木造家屋。室内には石積みの暖炉がある。
この由緒正しき別荘が、今、取り壊しの危機に瀕している。きっかけは、今年2月に管理をしていた川端康成の親族が亡くなったことだ。その後、今年8月に土地の所有者である不動産会社が、別荘を取り壊して、新たな邸宅を建設することが決定。工事に先立って行った近隣住民への挨拶で事態が発覚した。
「この別荘は、築80年以上の木造家屋です。雨漏りなどもありますし、人が住むのは難しい。ただ、『幸福の谷』といえば軽井沢の一等地ですし、放ってはおけない。文化的な価値はわかっていますが、新築の別荘を建てて売り出すしかないんでしょう」(不動産会社関係者)
一方で、地域住民からは取り壊し反対の声が根強い。軽井沢の景観や遺産の保全にかかわる6団体が、8月6日に保存の請願を出し、8月26日から始まった町議会で、その予算について議論された。
活動を主導した軽井沢文化遺産保存会・副会長の広川小夜子氏は語る。
「確かに今のままでは、住居として使用するのは無理があります。そこで移築して博物館のように公開するのはどうかと考えています。丁寧に解体し、耐震補強や内装の補修を施しつつ、再び組み建て直すよう議会に提案しました。アクセスが良く、観光客が訪れても近隣住民の迷惑にならない場所に移し、文化遺産として活用したいと考えています」
だが、不動産会社は移築案に理解を示す一方で、取り壊し期日の延期には応じない姿勢だという。9月1日から不動産会社は、少しずつ取り壊しを始めている。町議会は諦めモードで、広川さんらが資金繰りに奔走中だ。
果たして移築は間に合うのか。日本を代表する文豪の形見を巡る騒動の顛末やいかに。
写真:軽井沢高原文庫(1枚目)、軽井沢文化遺産保存会