妹・金与正が語っていた「新型ミサイル発射」の本当の目的 | FRIDAYデジタル

妹・金与正が語っていた「新型ミサイル発射」の本当の目的

「挑発ではない!」「党大会決定の活動だ」政治的アピールとは無関係か〜黒井文太郎レポート

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<北朝鮮が15日、「短距離弾道ミサイル」の発射実験を行った。9月11~12日に行った「長距離巡航ミサイル」の発射実験に続くこの動きに、報道が錯綜している。軍事ジャーナリスト・黒井文太郎が、金正恩、金与正兄妹の「真意」を読み解いた。>

北朝鮮のミサイル発射について、金兄妹の思惑はどこにあるのか…おそらく「彼女のいう通り」なのだろう  写真:代表撮影/ロイター/アフロ

北朝鮮2つのミサイルの特徴は

巡航ミサイルはジェット・エンジンで推進するミサイルで、速度は遅いが概して命中精度が優れている。低速なので発見できれば撃ち落とすのは比較的容易だが、通常、きわめて低い高度を進むので、目前に現れるまでレーダーに探知されにくい。

他方、弾道ミサイルはロケット推進で高速で打ち上げられ、その勢いの慣性で飛んで標的を攻撃する。高い高度まで上がるので、遠くからでもレーダーで捕捉・追尾されやすいが、速度が速いので迎撃は困難だ。

日本全土が「射程内」になった

11〜12日に北朝鮮が発射した巡航ミサイルは射程1500㎞で、日本全土を狙うことができる。北朝鮮では今年1月の朝鮮労働党大会で、金正恩委員長(現・総書記)がそれまでの党の政治的成果と今後の方針を報告したのだが、軍事分野の言及の中に「中・長距離巡航ミサイルをはじめとする先端核戦術兵器も次々と開発」とあった。つまり彼らは巡航ミサイルを核ミサイルとして開発しているわけで、それが完成すれば、日本は従来の核弾道ミサイルに加えて、さらに核巡航ミサイルにも備えなければならなくなる。

ただし、これを核ミサイルにするには、数百kgレベルまで核爆弾を小型化しなければならず、おそらく北朝鮮はまだそれを実現していない。しかし、核爆弾でない通常爆弾でも、命中精度の高い巡航ミサイルなら、日本の各重要拠点をピンポイントで狙うことができる。1発あたりの威力は大きくないが、数多く使うことで成果が期待できる。

朝鮮半島有事でも必ずしも核戦争になるとは限らず、核を使わない限定的な戦いに留まる可能性は充分にあるが、そうした場合でも長距離巡航ミサイルは、きわめて有効な実戦的兵器になる。

「低い軌道」だから、イージス艦では撃ち落とせない

また、今回、北朝鮮が発射した弾道ミサイルは、すでに存在が知られているKN-23というものだ。通常の弾道ミサイルと違い、野球でいえば「ライナー性の打球」のような低い角度で発射され、下降段階で小型操舵翼を利用してわずかにホップするような変則的な軌道をとり、滑空して飛翔距離を伸ばす。北朝鮮は「低高度滑空跳躍型飛行方式の新型戦術誘導弾」と呼んでいる。

今回の最大高度は50kmだったが、これは、高度70㎞以上でないと迎撃できない自衛隊の現在のイージス艦では撃ち落とせない。これまでKN-23は600㎞まで飛ばした実績があり、北朝鮮も対韓国用の兵器だとしてきたが、今回、飛翔距離が750㎞と伸びた。北朝鮮の南東端から発射すれば、舞鶴、姫路、高知、熊本あたりまで届く。実際の有事ではそんな最前線からは撃たないだろうが、多少奥のエリアから発射しても、福岡や広島、あるいは岩国や佐世保の米軍基地などは射程に入りそうだ。

今回射程が延びたのは、弾頭重量を減らした可能性があり、実際に核爆弾を搭載した状態で日本の一部に届くまで飛べるか否かは不明だが、脅威評価としてはその可能性もあるとの前提で考えなければならなくなった。つまり「イージス艦で迎撃できない核ミサイルが日本の一部を射程に収める可能性がある」という新たな脅威の出現である。

列車を使って「発射地を分散」

また、北朝鮮は今回、このKN-23を従来の車両式ではなく、初めて列車から発射した。北朝鮮側の声明では、これは「全国各地で分散的な火力任務の遂行で同時多発的に威嚇勢力に甚大な打撃を加えられる効率的な対応打撃手段」になるという。北朝鮮は全国に鉄道網があり、それを利用して発射地点を分散することを企図しているのだ。

KN-23は従来の車両式でも、実際には発射前に発見して破壊することは米軍といえどもきわめて困難なので、鉄道式の登場で彼らの戦力がいっきに向上するというほどのことではないが、発射方式のバリエーションが増えたことで、米韓側からすれば監視対象が増えたことにはなる。

金正恩による「挑発」報道に疑問

いずれにせよ、このように北朝鮮は着々と軍事力を強化している。とくに今回の2種類のミサイルは、いずれも日本をも狙うものだ。

今回のミサイル発射に関する「報道」で、ひとつ気になることがある。「なぜ今なのか?」という問いに対し、「アフガニスタン問題に忙殺される米国に対し、自分たちにも関心を持ってほしいから」「韓国が潜水艦発射型ミサイル(SLBM)の発射実験を行ったことへの対抗」「日米韓高官協議への牽制」といった政治的動機が強調されていることだ。北朝鮮核ミサイル報道でしばしば見られる「振り向いてほしいための挑発」論なのだが、それは本当なのか。

こうした見方は実は韓国の政府筋や専門家、メディアでは主流で、日本のメディアもその影響を受けているのだが、あくまで憶測であり、実際には根拠が乏しい。

米韓を「刺激する」ことの無意味

北朝鮮側の意図を探る手法は主に2つある。1つは彼らの声明・主張を確認することだ。

彼らは自分たちの主張を、ほぼ常に自ら声明で発表している。今回の声明で仮にそうした動機が語られていればわかるのだが、実際にはそんなことはない。たとえばKN-23発射での声明では、「(1月に行われた)党大会が示した軍隊近代化路線と方針に従って」「新しい国防戦略樹立の一環として」「党の軍事戦略戦術的構想と企図に合わせて」としか語られていない。

巡航ミサイル発射の際の声明でも「党大会が示した国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画の重点目標の達成」としか語られていない。北朝鮮自身が米韓への挑発やアピールに相当する政治的な動機には一切言及していないのだ。

それでは彼らが語っていない隠された意図があるのかということになるが、それは現実にそうした効果がみられるか否かを検証する必要がある。北朝鮮のこれらの軍事行動から、仮に米韓あるいは国際社会に注目されることで、何か彼らにメリットが生じるのかということだ。

たとえばそれで米国が「北朝鮮を宥めるために北朝鮮に有利な交渉をしよう」「経済制裁を緩和しよう」と動くかといえば、そんなことにはならない。むしろ逆に厳しい対応を呼びこむだけだ。そのような、実際にはメリットが期待できないことを北朝鮮が意図するとは、ほぼ考えられないのではないか。

妹·金与正が語る「真実」に注目

実はこの点に関して、金正恩総書記の実妹の金与正・党副部長が明確に語っている。9月15日に彼女は、韓国のSLBM発射実験を非難する談話を発表しているのだが、そこにこんな文言があるのだ。

「われわれは今、南朝鮮が憶測している通りに誰かを狙い、ある時期を選択して〝挑発″するのではなく、わが党大会の決定貫徹のための国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画の初年の重点課題の遂行のための正常的で自衛的な活動を行っているのである」

おそらく、彼女の言うとおりなのだろう。

  • 取材・文黒井文太郎

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