総裁選で話題の「敵基地攻撃能力」総理候補も知らない衝撃実態 | FRIDAYデジタル

総裁選で話題の「敵基地攻撃能力」総理候補も知らない衝撃実態

その有効性をリアル想定で分類してみる〜黒井文太郎レポート

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自民総裁選でも話題になった「敵基地攻撃能力」。議論以前に、正しく理解されていないことが露呈してしまった…。軍事ジャーナリスト黒井文太郎氏がわかりやすく解説する 写真:代表撮影/ロイター/アフロ

政治家も「よくわかっていない」ことがわかった!

9月10日、高市早苗前総務相がテレビ番組で、

「敵基地を一刻も早く無力化した方が勝ちだ。使えるツールは電磁波や衛星ということになる」「強い電磁波などいろいろな方法でまず相手の基地を無力化する。一歩遅れたら日本は悲惨なことになる」

などと語り、注目された。高市氏は19日の候補者テレビ討論でも「敵基地の無力化」の重要性を指摘し、今度はそのために精密誘導ミサイルの必要性を主張している。

岸田文雄前政調会長も、13日の記者会見で、敵基地攻撃能力保有を「有力な選択肢」と評価した。

他方、河野太郎行政改革相も13日の記者会見で言及。北朝鮮ミサイルを想定した質問に対し

「敵基地攻撃は随分前の議論だ」

と指摘。17日の記者会見では対中国軍を想定した質問の流れに

「敵基地攻撃能力は昭和の概念。抑止力は日米同盟で高めていく。短絡的な議論は避けるべきだ」

と言及。導入に慎重な姿勢を示した。

「敵基地攻撃」とは、具体的に何なのか

自民党総裁選での各候補の安全保障政策に関し、なにやら「敵基地攻撃能力」の是非が論点になってきている。

これは、北朝鮮や中国のミサイルの脅威から日本を守るため、従来のミサイル防衛に加えて、敵の基地を攻撃する兵器を新たに導入・配備しようという議論だ。

日本の次のリーダーを選ぶ重要な自民党総裁選で、各候補の安全保障政策の違いが論点に上がるのは悪くない。テクニカルな分野に踏み入る分野だが、候補者たちにも正面から取り組む姿勢が見えて、それ自体は評価できる。

ただ、こうした質疑の場で、尋ねるメディアも、答える候補者側も、それぞれ想定している敵基地攻撃の状況の認識が統一されていない印象があり、見ていてしばしばチグハグなやり取りになっている。

それでは、せっかくの「議論」も迷走してしまう。敵基地攻撃能力とは具体的にはどういう状況での、どういう目的で、どういうことをやる能力を想定しているのか。リアル想定で分類してみたい。

日本だけが戦うことはない

初めに提示しておきたいのが、日本が単独で北朝鮮や中国と戦うという状況は起こらないということだ。日本が攻撃されたら、必ず日米同盟によって自衛隊と米軍で戦うことになる。日米安保条約が機能しないことは、現実には起こり得ない。なので、すべて「日米で対処」を前提とする。

北朝鮮の脅威と中国の脅威は区別せよ

それと、この種の議論でよく混同されるのだが、日本への軍事的脅威は、北朝鮮軍からのものと中国軍からのものがある。これは内容的に全く別のもので、区別する必要がある。しかし、そこがメディア報道でも混同されているケースを散見する。

たとえば北朝鮮軍の脅威だが、北朝鮮は陸海空軍で日本を攻撃する能力はない。北朝鮮のこれらの戦力は脆弱で、米軍の力を借りずとも自衛隊の力だけで撃退できる。

すると、北朝鮮軍の脅威は2種類しかないことがわかる。破壊工作とミサイルだ。破壊工作には特殊部隊や潜入工作員によるテロ、あるいはサイバー・テロなどが考えられる。これはあり得る話だが、前者は沿岸警備や公安活動、後者はサイバー防衛で対処能力を上げることになる。もちろん必要なことだが、ここでは本格的な軍事攻撃の分野で考えるので、やはり何といっても重要なのはミサイルの脅威ということになる。

北朝鮮ミサイルは発射前に破壊できない

北朝鮮は日本を攻撃できるミサイルをすでに何種類も持っており、さらに種類を増やしつつある。なので、自衛隊はそれを迎撃するミサイル防衛として、イージス艦とPAC-3を導入している。飛んできたら撃ち落とす兵器だ。もっとも、それに加えて、敵のミサイルを、敵が発射する前に破壊してしまえれば心強い。では、北朝鮮のミサイルを、発射前にどうやれば破壊できるのか。

じつは、それがまず不可能だ。北朝鮮のミサイルは車両や列車に搭載し、擬装された地下拠点やトンネルに隠されている。発射の際には、地上に出して十数分、あるいは長くても数十分もあれば発射できる。

この隠し場所が前もってわかっていれば、米韓軍機が上空から偵察し、発見次第に攻撃できるかもしれないし、確度の高い情報ならあらかじめ出口を爆撃して塞ぐこともできるかもしれない。しかし、北朝鮮は国土に無数の地下施設を作っており、事前に場所を把握することはまず不可能だ。したがって、ミサイルを発射前に破壊することは期待できない。ミサイル発射地点は発射時のロケット噴射熱で探知されるだろうが、その時ではもう遅いのだ。

北朝鮮上空から偵察していてもほぼ不可能なほどなので、日本からの攻撃で破壊するのはさらに不可能だ。日本から敵の拠点を攻撃するとなると、まずはミサイル攻撃が考えられるが、仮に自衛隊がそれだけの射程のある巡航ミサイルを導入したとしても、発射して北朝鮮に届くまでに優に1時間以上もの時間がかかる。

北朝鮮のミサイルは地上の固定基地から撃たれるのではなくて、移動発射機から撃たれるので、敵基地攻撃能力では破壊できないのだ。仮に自衛隊が速度の速い弾道ミサイルや極超音速滑空兵器を導入したとしても、それらは移動する標的に正確に命中させることはできない。

このように、たとえば「敵基地攻撃は随分前の議論」(河野氏)というのは、こと北朝鮮のミサイルを破壊することを想定すれば、たしかに正しい。

電磁波兵器はそれほど強力な兵器ではない

一方、高市氏が言及した「強い電磁波」による攻撃だが、これは現実にはなかなか難しい。強い電磁波による攻撃といっても、自衛隊はもちろん核爆弾を使うわけではなく、電磁パルス弾(EMP弾)という兵器が想定されている。だが、その電磁パルス弾で敵基地が無力化できるかというと、おそらく無理だろう。

核爆弾とは違い、電磁パルス弾はせいぜい爆発地点のごく周辺で、レーダーや通信装置などの精密電子機器にダメージを与える目的の兵器である。敵基地のレーダーや通信機材近くで爆発させられればいくらかの効果は期待できるが、それなら通常のミサイルで攻撃して破壊したほうが確実だ。

電磁波領域はたしかにサイバー領域や宇宙領域と並ぶ新たな戦いの領域であり、高市氏がそうした新たな戦いの領域に言及したのは慧眼だが、電磁パルス弾自体の破壊力はそれほど大きなものではないのだ。

なお、高市氏は19日のフジテレビ番組では、電磁波について「(ミサイルが)かなり近づいて来てから電磁波も防衛に使える」と将来的に注目すべき想定例を示しており、それは評価できる。

敵基地攻撃能力は、対北朝鮮では抑止効果は期待できない

では、敵基地攻撃能力はまったく無意味かというと、そうではない。

北朝鮮の移動式ミサイル発射機や、おそらく地下施設に隠されているミサイル保管庫なども破壊はできないが、すでに判明している北朝鮮側の固定軍事拠点を攻撃すれば、ミサイル関連施設ではなくても、北朝鮮軍の戦力に打撃を与えることができる。これは、日本による報復の意思表示になる。

もっとも、北朝鮮が日本にミサイルを撃つ時点というのは、すでに朝鮮半島で戦闘が始まっている。米韓軍が猛烈な爆撃を北朝鮮各地の軍事拠点に加えている状況なので、仮に日本からミサイル攻撃したとしても、戦局への影響はきわめて小さい。それでもその打撃に参加すれば、いくらか足しにはなる。それをどう評価するかは、見方による。

ただし、日本からのミサイル攻撃が、北朝鮮への抑止力になるかというと、それは期待できない。米韓軍の猛攻撃を受けている最中の北朝鮮軍が、いくばくかの日本のミサイル攻撃を警戒して対日攻撃をやめる、などということは考えにくいからだ。

ウルトラ独裁国家に「抑止力」は効かない

そもそも北朝鮮に対する抑止力は、核戦争を想定しようが、それ以前の非核戦争の段階を想定しようが、日本の戦力をあてにしなくてもすでに存在する。米韓軍は、核戦力も通常戦力も北朝鮮より圧倒的に優勢だからだ。

しかし問題は、北朝鮮が極端な個人独裁体制なので、常に合理的判断がとられるとは限らないことである。独裁者のメンツのために無謀な行動する可能性も排除できないのだ。

さらに、「有事に金正恩が戦死したら軍はどうするか」とか、「仮に体制が崩壊した場合でも核ミサイルは管理されるのか」なども、誰にもわからない。そうした不安定さが、あの体制にはある。

そんな国に核ミサイルがすでにある以上、ミサイル防衛で備えるのは必須措置だが、敵基地攻撃能力はどんなに強力であっても効果に限界がある。抑止力が効かない状況があり得るのだ。

敵基地攻撃能力は、対中国軍の抑止力としては有効

他方、中国軍との戦いは事情が違う。北朝鮮ほどの極端な国家体制ではないので、自らが亡びる覚悟の無謀な軍事行動を強行したり、体制崩壊で核ミサイル管理が野放しになったりすることは、きわめて考えにくい。中国軍への備えであれば、やはり米・台・日で充分な抑止力を備えることが基本になる。

ところが、こと東アジアの状況に限れば、中国軍の戦力増強が著しく、抑止力に不安が出てくる可能性がある。もちろん中国の核戦力は圧倒的な米軍の核戦力で抑止されるが、通常戦力の分野で、さらに抑止力強化が必要な局面になりつつあるのだ。

その場合、自衛隊は位置的にも、それなりの役割を果たすことが可能だ。たとえば対北朝鮮軍への攻撃では、日本は位置的にも装備的にも米韓軍に遠く及ばないが、対中国の戦いなら米軍も空母を中心とする艦隊以外は日本の国土を攻撃拠点とするわけで、自衛隊も必要な装備を配備すれば、米軍と共同で効果的な打撃力を構築することができる。

とくに、敵の艦隊や中国沿岸地域の飛行場などを打撃できる長射程の対艦巡航ミサイルや対地弾道ミサイル、極超音速滑空兵器などを配備すれば、米軍がいずれ日本に配備すると思われる中距離ミサイルとともに、強い抑止力になる。

中国はすでに日本を射程に収める弾道ミサイルと巡航ミサイルを計2000発以上保有しており、それに備えることは、日本の自衛の範囲内だ。

中国軍の非核戦力の脅威に対し、日米共同で充分な抑止力を確保することは、尖閣諸島あるいは台湾への中国の野望を挫くためにもきわめて有効だ。

もちろん日本の国家予算には限りがあり、必要な防衛力整備の質と量についてはさまざまな見方がある。日本が採用すべき安全保障戦略にもさまざまな見方があり、「抑止力は日米同盟で高めていく」ことは重要だが、少なくとも防衛戦略上は、中国軍の脅威への対策として「敵基地攻撃能力は昭和の概念」とはいえない

安全保障について、きちんと学ぶべき

以上、今、注目されている「敵基地攻撃能力」の具体的な意味について、想定ごとに分類してみた。

繰り返すが、こうした想定ごとに区別した議論を、メディアにも候補者にも望みたい。質問も答えも、たとえば北朝鮮の話なのか中国の話なのかの区別がついてない議論が多く、何の話をしているのか、今一つわかりづらいことが多々ある。

北朝鮮が新型のミサイルを次々と開発し、中国が台湾侵攻を仄めかしている現在、日本を守るには、次期リーダーが自らの安全保障政策をしっかり語れる人物でないと困るのだ。

黒井文太郎:1963年生まれ。軍事ジャーナリスト。モスクワ、ニューヨーク、カイロを拠点に紛争地を多数取材。軍事、インテリジェンス関連の著書多数。最新刊『超地政学で読み解く! 激動の世界情勢 タブーの地図帳』(宝島社)>

  • 取材・文黒井文太郎

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