「後悔するぞ」工藤会トップの発言で報復は起こるか…ひとつの見方 | FRIDAYデジタル

「後悔するぞ」工藤会トップの発言で報復は起こるか…ひとつの見方

警察当局は裁判官を24時間体制で警護

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2012年10月、北九州市内の倉庫で対戦車ロケット砲などが発見された事件で、指定暴力団・工藤会系組事務所を家宅捜索する福岡県警の捜査員ら
2012年10月、北九州市内の倉庫で対戦車ロケット砲などが発見された事件で、指定暴力団・工藤会系組事務所を家宅捜索する福岡県警の捜査員ら

元漁協組合長射殺事件など一般市民を襲撃した4つの事件で殺人罪などに問われた、北九州市に拠点を構える暴力団「工藤会」トップ・総裁の野村悟被告に福岡地裁は2021年8月、死刑判決を言い渡した。ナンバー2の会長、田上不美夫被告は無期懲役。暴力団トップに初の死刑判決だったことが大きなニュースとして取り上げられた。

死刑判決の言い渡し直後、野村被告は裁判長に向かって「あんた生涯、このこと後悔するよ」と言い放った。威嚇とも受け取られかねない野村被告の法廷でのこの発言は注目を集めた。異例の発言は工藤会の組員たちに裁判官へ報復せよとのメッセージではないかとの憶測も呼んだ。

事件に関与と推認

野村被告が殺人罪などに問われた4つの事件は、1998年2月の元漁協組合長の男性射殺事件(北九州市)、2012年4月の福岡県警元警部銃撃事件(同市)、2013年1月の看護師の女性刺傷事件(福岡市)、2014年5月の歯科医師の男性刺傷事件(北九州市)。

判決で福岡地裁は、工藤会内での野村被告について、「最上位の扱いを受け、特別な存在」と位置付けた。そのうえで、「工藤会内での重要事項についての意思決定に関与していたと推認できる。(野村被告らの)意向を無視し、(組員らが)実行することは組織のありようから考え難い」と指摘。

なかでも元漁協組合長射殺事件では、「被害者一族の利権に(野村被告が)重大な関心を抱き、交際を拒絶されるなかで起こった。関与がなかったとは考えられず、共謀が認められる」と認定した。動機については、「組織的、計画的で人命軽視の姿勢は著しい。甚大な社会的影響が生じた。暴力団の組織力を利用して首謀者として関与した。極刑の選択はやむを得ない」と述べられた。

報復の意図か

4つの事件で野村被告は、実行犯の組員に指示したとの共謀が「推認」されるといった判決理由について強い不満を示し、死刑の主文の言い渡し直後、次のような発言につながった。

「なんだこの裁判は。全然公正やない。全部、推認、推認。あんた生涯、このこと後悔するよ

恫喝とも受け取られかねない言葉だ。

長年にわたり現場で暴力団犯罪の捜査を指揮してきた警察当局の幹部はこう怒りを込める。

「工藤会の組員たちに対して、自分にこのような判決を出した裁判官が後悔するような嫌がらせをしろという趣旨と受け止められかねない発言だ。決して許されないことだ。裁判官が襲撃されるようなことになったら、麻薬組織がはびこる南米のとある国のようになってしまう」

全国の暴力団犯罪の捜査など組織犯罪対策を担当している警察庁の幹部も、「野村の発言の意図を解釈した工藤会の組員らによる裁判官襲撃はあってはならないことだ」と同様の意見を述べる。

一方で、「野村の発言を受けて、工藤会が新たな事件を起こすことはないだろう」とも指摘する。

事件を起こせば…

「もし裁判官への嫌がらせ程度でも何かしらの事件が起きたら、工藤会という組織は、『親分の発言の意味を忖度して、実行する組織だ』ということを逆に証明することになり、今回の判決を逆に裏付けてしまう。このために、襲撃などがあったら死刑判決は正しいということになる」(同前)

要するに、法廷での野村被告の発言によって事件を起こせば、またもや裁判所から「野村被告の発言を指示と受け止めて実行したと『推認』される。よって野村被告と実行犯との間の共謀が認められる」といった判決が出される可能性が高いということだ。

とはいえ、警察当局は不測の事態に備え、担当した裁判官たちの24時間の身辺警護の対象としている。野村被告に死刑を宣告した裁判長は現在、東京高裁に異動しているため、警視庁が警備にあたっている。

北九州市の中心の小倉は長年にわたって工藤会の暴力の支配に怯えてきた。北九州市は「暴力の街」「修羅の街」と称されるまでになってしまった。野村に死刑判決が下されたとはいえ、まだ1審段階だ。野村被告らは判決を不服として控訴しているため、小倉の街に平穏が訪れるのは、もうしばらく時間が必要となりそうだ。

  • 取材・文尾島正洋

    ノンフィクションライター。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当し、フリーに。著書に『総会屋とバブル』(文春新書)

  • 写真時事通信

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