フランスが米英豪の新同盟AUKUS発足に激怒した背景 | FRIDAYデジタル

フランスが米英豪の新同盟AUKUS発足に激怒した背景

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

9月22日(米国時間)、アメリカのバイデン大統領とフランスのマクロン大統領が急遽、電話会談を行った。これはバイデン大統領がもちかけ、マクロン大統領が応じたものだ。

潜水艦の開発をめぐってフランスが激怒。バイデン大統領が謝ると言う事態があった。背景には対中国包囲網に関する「あらたな動き」が…軍事ジャーナリスト黒井文太郎が解説する 写真:ロイター/アフロ
潜水艦の開発をめぐってフランスが激怒。バイデン大統領が謝ると言う事態があった。背景には対中国包囲網に関する「あらたな動き」が…軍事ジャーナリスト黒井文太郎が解説する 写真:ロイター/アフロ

激怒するフランスに、バイデン大統領が「謝罪」

この会談でバイデン大統領は事実上の「謝罪」をした。

問題の発端は、9月15日に米英豪が他の同盟国にまったく事前連絡もせずに、新たな安全保障の枠組みである「AUKUS」(読み方はオーカス)の発足を発表したこと。

さらにオーストラリアが、フランス企業と進めていた潜水艦開発・建造の契約を一方的に破棄し、米英の協力で新たな潜水艦開発を目指すと決定したことだった。これにフランスは激怒し、駐米・駐豪大使をフランスに引き揚げさせるという、異例の抗議を行った。

22日の電話会談でバイデン大統領は、フランスに対する態度に過ちがあったことを認め、インド太平洋地域におけるフランスの戦略的重要性を再確認するとともに、今後は戦略的な関心事はオープンに協議することを約束した。

これを受けて、マクロン大統領は駐米大使のワシントン帰還を決定。10月には対面で首脳会談することも決まった。要するに、バイデン大統領が「謝った」ことで、なんとかマクロン大統領が機嫌を直したかたちだ。

いずれにせよ、これで駐米大使召還まで悪化していたフランスの米国への怒りは多少は鎮まり、両国は和解の方向に動き出した。両国はNATOの同盟国であり、一時的に喧嘩はしても、結局は同じ陣営の国なのだ。

ただ、潜水艦契約に関しては、フランスにも責任はあった。オーストラリアは2016年に12隻の通常動力型潜水艦の開発・建造協力でフランス企業と契約したが、フランス側の技術不足で計画がどんどん遅延されたことに加え、契約当初は約4兆円だった総額が約7兆円に跳ね上がるなど、先行きが不透明になっていたのだ。

そんななか、オーストラリアと中国の政治的な対立が激化。中国が海上戦力をどんどん強化していることへの対応として、オーストラリアはこの際、通常動力型をやめて新規に8隻の原潜を取得する決断をした。そこでイギリス経由で米国に打診し、秘密裏に交渉を進めて今回の発表となったのである。

国家を挙げてのビッグビジネスを一方的に反故にされたフランスだが、激しい怒りを見せたのは、単にカネの話だけではない。国際的な安全保障の枠組みから、自分たちが排除されたことが大きいと思われる。

今回のAUKUSは新技術開発や経済分野も包括するが、メインは軍事同盟である。もともと英米はNATOで軍事同盟関係にあり、米豪も「ANZUS」(米豪ニュージーランド安全保障条約)で結ばれているが、今回、3か国のさらなる連携が宣言されたわけである。

それが他の同盟国への事前の連絡が一切ないままに突如、発表された。NATO参加国などの同盟国は軽視されたということになる。

対中国の西側結束は決裂しない

フランスはもともと独自の政治的影響力を志向しており、米国主導の国際紛争介入でも積極的に参加し、貢献を重ねてきた。アフガニスタン戦でもイラク戦でも自国軍を派遣し、西側の主要国として大きな役割を果たしている。それなのにバイデン政権は、一方的にアフガニスタンから拙劣な撤退を強行し、今度はインド太平洋地域での対中国の軍事的枠組みで、何の相談もなく一方的に自分たちを排除した同盟を作られたのだ。

覇権国家として振舞う中国に対抗するために、インド太平洋地域で多国間が連携することは西側全体の問題として急浮上しており、フランスも軍を派遣して積極的に合同演習や「航行の自由作戦」などに参加してきた。そのフランス側からすれば、今回の抜けがけのようなAUKUS発表は容認し難いのだ。

とはいえ、べつにそれでフランスは中国と手を組むわけではない。中国が世界の大きな問題なのは変わらず、フランスにとってもこの問題では米英豪側に立つことは明らかで、西側の結束を崩壊させるような決裂になることはない。

単に中国の問題だけではなく、中露イランなど専制主義国の連携が進むなか、その脅威に対抗するために民主主義陣営の結束は重要だ。米仏はともにそれは理解しているはずで、今回の素早い関係修復もそれほど意外なことではない。

オーストラリアが「1軍昇格」

たしかにAUKUS発足と潜水艦問題でのバイデン大統領の拙速な行動は西側の結束を乱すマイナス効果をもたらしたが、それはあくまで根回し不足といった手法の問題であって、AUKUSの有効性はきわめて大きいことは事実だ。

実際、AUKUS創設をいちばん嫌がっているのは、中国だろう。米英豪の軍事的な同盟こそ、まさに自分たちの前に立ちはだかる強大な壁になるからだ。

中国への対策の多国間協力の枠組みとしては、QUAD(日米豪印戦略対話)やFOIP(自由で開かれたインド太平洋)などもあるが、いずれも経済分野の安全保障が主で、軍事同盟ではない。その点、AUKUSは事実上の3か国軍事同盟に近いものだ。

そして中国軍の戦略にとって、それはフランス軍のプレゼンスよりも直接的な脅威になる。フランスは軍事強国だが、中国は遠い。日常的にインド太平洋に割ける戦力は限定的だ。

それに比べて、オーストラリアは戦力ではフランスに劣るが、中国軍の海洋進出の真正面にある。オーストラリアが自らの戦力を強化し、さらに米軍の出撃拠点としての役割を拡大すれば、中国にとってはきわめて目障りとなる。とくに、オーストラリア海軍が攻撃型原潜を西太平洋やインド洋で運用すれば、中国軍の空母部隊や潜水艦の展開範囲は制限を受けるだろう。

じつはAUKUSは、これまで「2軍扱い」だったオーストラリアが、中国軍封じという時代の要請のなかで「1軍に昇格」したという大きな意味を持つ。

アングロサクソンの同盟「5アイズ」血の絆

AUKUSはAU(オーストラリア)+UK(イギリス)+US(米国)ということだが、それ以前にすでにUKUSA(読み方はユークーサ)という協定が存在していた。現在では通称の「ファイブ・アイズ」(5か国のみ閲覧可の機密情報という意味)のほうが知られているが、正式名称はUKUSA協定で、名称の由来はUK+USAである。

これは第2次世界大戦中の英米軍の対ドイツ通信傍受共同作戦が、終戦後に対ソ作戦に変化して結ばれた機密情報共有と共同情報作戦の協定で、冷戦期にカナダ、オーストラリア、ニュージーランドが加わっている。いずれもアングロサクソン系が中心の英語圏国家で、その結束は固い。単なる情報協力の関係だけではなく、この5か国は政治的にも実質的な同盟国で、互いの親近感と信頼感はNATOなどと比べても圧倒的に強固である。いわば〝血の絆″だ。

そのメンバーは、国際社会での米国主導の介入はほぼ無条件で支える。軍事介入にも自国軍を送り、ほぼ常に最後まで米国に同調する。UKUSA(ファイブ・アイズ)は単なる機密情報共有クラブではなく、軍事同盟を超えてむしろ政治同盟に近い性格を持っているのである(※ただし、非核政策をとるニュージーランドは部分的に協力に制限がある)。

ただし、5か国は平等ではない。やはり戦力が圧倒的な米国がトップで、次が米国との「特別な関係」を公言しているイギリス。それ以外の3か国は能力的に明らかに格下だった。

日本の対応は表向き「微妙」だが

しかし、中国の真正面に位置するオーストラリアの戦略的重要性が飛躍的に高まった。そこで、オーストラリアの戦力を強化し、同盟の主役のひとりに格上げすることは理に適っている。

なお、日本政府は今回、インド太平洋地域への関与の強化ということではいちおうAUKUSに歓迎の意を表明しているが(加藤官房長官や茂木外相の会見)、基本的には他国同士の対立に関与することは極力回避するので、積極的には態度を表明しない微妙な対応を見せている。とはいえ、中国軍の脅威はリアルなもので、インド太平洋全域で抑え込まなければならない。強力なAUKUSが機能すれば、日本の安全保障にとっても大きなプラスになるだろう。

黒井文太郎:1963年生まれ。軍事ジャーナリスト。モスクワ、ニューヨーク、カイロを拠点に紛争地を多数取材。軍事、インテリジェンス関連の著書多数。最新刊『超地政学で読み解く! 激動の世界情勢 タブーの地図帳』(宝島社)>

  • 取材・文黒井文太郎

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事