殺人被害者は一人でも…「工藤会」総裁の死刑判断は妥当か否か | FRIDAYデジタル

殺人被害者は一人でも…「工藤会」総裁の死刑判断は妥当か否か

2審で覆ることはあるのか

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2010年4月、北九州市小倉北区にある工藤会関係先を家宅捜索する福岡県警捜査員らと工藤会総裁の野村悟被告(中央左)

一般市民を襲撃した4つの事件で殺人罪などに問われた北九州市の暴力団「工藤会」総裁の野村悟被告(74)に2021年8月、死刑判決が言い渡され大きなニュースとして報道された。暴力団トップに死刑判決が出されたのは初…ということのほか、殺人の被害者が1人での死刑判断は妥当かという点も論点として取り上げられた。

死刑の基準は

刑事裁判で死刑の判決を出すにあたっては、いわゆる「永山基準」をもとに適用が検討される。犯行の動機、残虐性、計画性、殺害された被害者が2人以上など複数の場合、社会的影響などが検討される。野村被告の事件の場合は元漁協組合長射殺事件の殺人罪が1件のほか、元福岡県警警部銃撃事件など殺人未遂罪3件で起訴された。

今回の判決について刑事裁判に詳しい弁護士が解説する。

「殺人罪の被害者を1・0人として、殺人未遂罪の被害者については0・5人×3件と考えると、合計で2・5人を殺害したとも考えられ、十分に死刑となり得る。殺人未遂罪であっても危険な行為を伴うため、殺人罪に準じて判断される。野村被告の場合は十分に死刑判断の土俵に乗っていたと考えられる」

近年の判決の傾向は、殺人事件の被害者が1人でも、検察側が死刑を求刑したうち32%で死刑判決が出ているという。被害者が2人の場合で59%が死刑、3人では79%。3人殺害の強盗殺人事件では死刑判決は100%になるという。

殺人や強盗など凶悪事件の捜査を現場で続けてきた警察当局の幹部は、「殺人事件の被害者が1人であっても死刑判決はこれまでにもあり、少なくない」と同様の感想を述べて、こう続ける。

「例えば金銭目的の強盗殺人事件や身代金目的で子供を誘拐して殺害してしまった事件などがあげられる。このほか強姦目的で女性を殺害してしまった場合など、殺害された被害者が1人で死刑となっている事件はある。何かしらの利欲目的の場合は刑が重くなる。これは当然のこと」

こうした観点から今回の判決を振り返ると、元漁協組合長射殺事件や男性歯科医刺傷事件については、港湾工事の利権をめぐって発生したためシノギ(資金源)を目的としていたという判断になる。

上級審の判断はどうなる

暴力団についての事件はこれまで実行犯が逮捕されても、トップの指示の有無については黙秘を貫くため、組織の上層部への警察の突き上げ捜査はストップしてしまうことが多かった。しかし、2007年5月に神戸市内で発生した山口組山健組系多三郎一家の後藤一男総長殺害事件では、同じ山健組系健国会の井上国春組長が実行犯に殺害を指示していたことが認定されて懲役20年の判決が確定した。

この事件では、2012年2月の1審の神戸地裁では検察側の懲役25年の求刑に対して無罪判決となったが、2審の大阪高裁は2014年1月、「組員が組長の命令に基づかず殺害したというのは不自然で、通常あり得ない」との判決理由を示し逆転の有罪判決となった。

このほかにも山口組では、6代目山口組の司忍組長が若頭補佐だった1998年6月、大阪市内でボディーガードに拳銃を持たせていたとして逮捕された事件でも、同様の判断となった。2001年3月、大阪地裁は司組長に無罪を言い渡したが、大阪高裁は2004年2月、司組長に懲役6年の逆転の実刑判決とした。

大阪高裁は1審判決について「事実誤認がある」と指摘。改めて、「司被告の周辺には警護に当たる一団の組員がいた。弘道会では、組員が組織のために拳銃を所持、発砲した場合はその後、抜擢される実態がある」などと認定。組長とボディーガードの間に暗黙の了解があったという間接証拠を評価し有罪の判断となった。

裁判所は捜査側の状況証拠の綿密な積み上げを評価する傾向にある。このため、前出の弁護士はこうした事件の判決を踏まえ、「ヤクザは上意下達で、親分と意思の疎通があると最高裁がお墨付きを与えている。判例として確立している」と解説する。

野村被告については、「福岡高裁の裁判官が厳格に判断するとしても、判例として定着しているので2審も死刑が維持されるだろう。減刑や事実誤認という判決を出すということは、まずないのではないか」とも指摘している。

法曹界では野村被告の控訴は棄却され、2審でも死刑判決は維持されるとの意見が支配的だ。そうなれば捜査側、暴力団側の双方への影響はさらに大きくなりそうだ。

  • 取材・文尾島正洋

    ノンフィクションライター。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当し、フリーに。著書に『総会屋とバブル』(文春新書)

  • 写真共同通信社

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