園子温監督「ニコラス・ケイジととにかく気が合った」新作の舞台裏 | FRIDAYデジタル

園子温監督「ニコラス・ケイジととにかく気が合った」新作の舞台裏

最新作でニコラス・ケイジとの最強タッグが実現! ハリウッドデビュー作にこめた想いと、制作秘話を語る

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『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』10月8日(金)より、TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー!  ©︎2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』10月8日(金)より、TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー!  ©︎2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

園子温監督×ニコラス・ケイジ。この激アツな組み合わせを、誰が予見したことだろう? 『愛のむきだし』(09)や『冷たい熱帯魚』(11)『ヒミズ』(12)『地獄でなぜ悪い』(13)等々、ショッキング&センセーショナルな映画を次々と世に放つ鬼才が、近年トガッた作品に多数出演するアカデミー賞俳優をどう“料理”するのか――。その答えは、超マッドでカオスなジャンルレスムービーだった。

園監督のハリウッドデビュー作となる『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』(10月8日公開)は、東洋も西洋も、古今東西の映画もミックスされたキレッキレな1本。だが園監督によれば、元々は硬派なマカロニウエスタンを制作する予定だったという。「とにかく気が合う」というニコラス・ケイジとの熱いエピソードと共に、制作の舞台裏を聞いた。

<あらすじ>
銀行強盗ヒーロー(ニコラス・ケイジ)はある日、サムライタウンの銀行を襲撃するも捕まってしまう。フンドシ一丁で牢屋に入れられていたヒーローは、権力者ガバナー(ビル・モーズリー)のお気に入り、バーニス(ソフィア・ブテラ)を連れ戻すことを条件に、自由の身に。だが、爆弾が仕掛けられたボディスーツを装着させられ、5日以内にミッションをクリアせねば爆殺される新たな窮地に陥ってしまう……。

園子温監督
園子温監督

――2017年に企画が始動したと伺いました。どのような経緯で、オファーが届いたのでしょう?

プロデューサーのコウ・モリさん(『太秦ライムライト』(14)『映画 太陽の子』(21)ほか)のところにレザ・シクソ・サフィから脚本が届き、モリさんが僕を推してくれたんです。脚本をいただいたときはちょうどAmazonプライム・ビデオのドラマ『東京ヴァンパイアホテル』(17)のプロモーション中で、一気に読み、すぐOKしました。

僕はずっとハリウッドで映画が撮りたくて、15年以上前から年に1回くらいハリウッドに行ってはプレゼンをしていたんです。自分から企画書を持っていくときもあれば、他の人のオーディションに参加することもありました。いくつかは制作が進んだものもありましたが、色々なことがあって実現しないまま、15年も経ってしまった。

今回届いた脚本自体はハリウッド映画の王道といいますか、ヒーローが偉い人の娘を奪還して帰ってくるというシンプルなストーリーでしたが、そのぶんアレンジしやすいと感じました。実際出来上がったものは、60%くらい作り替えちゃっていますし(笑)。

――ご自身のカラーを注入する余白、自由度を感じたのですね。

そうそう。それもあって、絶対にやるべきだと感じたんです。僕自身、小学1年生の頃からアメリカ映画で育っていて、みんながドリフターズや歌番組を観ているときにジョン・ウェインやジョン・フォードの作品などをテレビの洋画劇場で湯水のように浴びていました。小学校の卒業文集で「尊敬する人」の欄に「イングリッド・バーグマン」と書いて、教師にめちゃくちゃ怒られたくらい(笑)。

そういう人生を歩んできたので、自分にとっては「映画を撮る=ハリウッド映画を撮る」という感覚で、憧れではなく自然の成り行きだと思っていました。

©︎2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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――ニコラス・ケイジについては、どんな印象をお持ちでしたか?

最初に観たのは『バーディ』(84)です。あとは『赤ちゃん泥棒』(87)などで知って、当時の僕は、ニコラス・ケイジは“ハリウッドの空気”だと思っていたんですよ。存在しない人だと思っていたら、実際に生きていた(笑)。『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』の主演に決まったときは、驚きましたね。

ニコラスが主演に決まったとなれば、企画も流れないしお金も集まる。みんなが安心できるし、僕自身も「これがハリウッドでの1作目になるんだ」と確信しました。ニコラス本人も積極的な男で、日本を訪れた際に自ら「一度会いたい」と声をかけてくれた。そこで会って話したら「園監督の映画は何本も観ているけれど、その中でも特に好きな作品がある。『アンチポルノ』(17)だ」と。

――日活の「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」の参加作品ですね。

はい。まぁなかなかにマニアックな選択ですよね(笑)。すごく嬉しかったし、撮影に入る前から信頼感がありました。

当初は、メキシコを舞台にしたマカロニウエスタン調のものを想定していたんです。たとえばセルジオ・レオーネの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』(68)のようなもので、ニコラスにはチャールズ・ブロンソンをイメージした主人公をやってもらおうと考えていました。それを本人に伝えたら「自分もチャールズ・ブロンソンをやりたいと思っていた」と目を輝かせてくれました。

実はニコラスは、チャールズ・ブロンソンが被っていた帽子のレプリカを特注して持っているくらいのファンなんです。傷まで再現している1点物で、まぁとにかくウマが合ってふたりで盛り上がり、新宿ゴールデン街に行ったりカラオケでドアーズを歌ったりして(笑)。現場でも、エンニオ・モリコーネの音楽をかけましたよ。

©︎2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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――作品の内容が変更になったのは、どういう理由からなのでしょう? 日本ロケの理由も合わせて教えてください。

僕が2019年の2月に急性心筋梗塞で倒れてしまったからですね。2日前に赤ちゃんが生まれたばかりのタイミングだったのですが、僕が1分間霊界に行ってしまった。それをニコラスが心配して、「本当にメキシコに行って大丈夫か。移動もあるし、日本で撮ったほうがいいんじゃないか」と提案してくれました。

ただその親切は僕にとっては打撃で、15年もハリウッド映画を作りたくてプロモーションしてきたのに、デビュー作が日本で撮影なのはあり得ない。スタッフもキャストも全員向こうの人で固めて、日本人は僕一人の状況でやると決めていたんです。だからその瞬間は、オセロの白が全部黒になったくらいショックでした。

ただ、心がものすごく抵抗している中でよくよく考えてみると、これはハリウッド映画だからメキシコを舞台にしたら割と当たり前なんじゃないかと思えてきたんです。それより日本で時代劇のセットの中でニコラスが刀を持って暴れたほうが面白いんじゃないかと思い立ち、気分を180度変えました。当初はマカロニウエスタンの正統派だったけれど、日本を舞台にするならカオスなものにしてしまえと思い、笑いの要素も取り入れることにして台本を6割がた書き換えました。

元々はカーアクションがメインの映画でしたが、ここはチャンバラだろうと思い、坂口拓(TAK∴)にオファーしました。役がなかったから僕のほうで書き加えましたね。カーアクションは、ニコラスがママチャリに乗るシーンに凝縮しました(笑)。

©︎2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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――そのような経緯で骨格が出来上がっていったのですね。ゴーストランドやサムライタウンなど、巨大なセットの数々も非常に見ごたえがありました。

CGは一切使いたくなかったので、セットは全部作ると決めました。結果的に自分の首を絞めたけど(笑)、そこはこだわったところです。銀行のシーンを撮るための予算が足りなくなっちゃって、「その辺の銀行で撮る?」という案も出たけど、これまで全部人工的に作ったものでやってきたから、それはあり得ない。みんなで知恵を絞りながら真っ白のセットに毒々しい色を入れて、無国籍な感じにしました。

――たとえば赤色が象徴的に登場するなど、色彩感覚も面白かったです。

やっぱり吉原には赤のイメージがありますからね。まだメキシコで撮るつもりだったとき、「ハリウッドのデビュー作になるから、準備だけは万全を期す」と全カット絵コンテと、重要なシーンのビジュアルイメージを描いたんです。日本ロケに変わってからは全部描き直すことはできなかったけれど、各パートに分けて描きました。

(ビジュアルイメージを見せながら)ゴーストランドには放射能の影響で生まれた巨大な植物があって……というのは、当初から変わっていないですね。メキシコで撮るときも桜のイメージをちりばめていたり、日本的な要素は多少ありました。

©︎2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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――本作は群衆シーンも多かったかと思いますが、こうした大掛かりな撮影で大変だった部分を教えてください。

とにかくハードに尽きる感じでしたね(笑)。ゴーストランドは彦根の山奥にある工場の跡地にセットを立てて撮影したのですが、まぁ寒くて……。エキストラの表情も自然とわびしくなり、良い表情が取れました(笑)。

――そうだったのですね(笑)。ゴーストランドのセットでいうと、中心に位置する巨大な時計や、ただれたマネキンが強く印象に残りました。

実はあの時計は、広島に原爆が落ちる1分前で止まっているんです。それもあって、住人たちは「時計を動かしてはいけない」と言う。また、劇中に登場する紙芝居では、あの場所が原爆ドームそっくりになっていたり。日本で撮るならば広島(原爆投下)や福島(東日本大震災)のことは入れなければならないと思ったので、所々にそうしたキーワードを入れています。

ニコラスとソフィア(・ブテラ)にその話をしたら「じゃあ勉強に行く」とふたりとも自主的に広島平和記念資料館まで足を運んでくれました。「素晴らしい。心を震わされた。日本で撮るにあたって、こういった要素を入れるのは本当に良いことだ」と言ってくれて、すごく嬉しかったですね。

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――素敵なエピソードですね。園監督とキャスト陣の絆を感じます。

ソフィアに関しては、実はギャスパー・ノエ監督(『アレックス』(02)、『エンター・ザ・ボイド』(09)など)に助けられたんですよ。彼女とノエ監督は『CLIMAX クライマックス』(18)で組んでいますが、オファーが届いた際にノエ監督が「園監督の映画なら、絶対に出たほうがいい」と強く推してくれたそうなんです。その話を聞いて「ギャスパー・ノエっていい奴だな」と思いました(笑)。

――そんなエピソードが……!

ノエ監督が僕の作品を結構観てくれていたんですよね。ちなみに『アンチポルノ』が好きみたい。ソフィアも『アンチポルノ』が好きって言ってたな。

――ニコラス・ケイジもお気に入りとのことで、非常に海外人気が高いんですね。

ちょっと不思議ですよね(笑)。中国に僕の映画のファンが多いと聞いたから、人気の作品を聞いたらそれも『アンチポルノ』でした。国内との温度差といいますか、どこか海外の人に受ける要素があるんでしょうね。その辺りも今後、追求していきたいと思っています。

――様々な経験を経て、本作でハリウッド映画デビューを果たしました。いま現在のお気持ちを教えてください。

ハリウッドは、日本でのキャリアを重視しないんです。それもあってなかなかデビューできなかったけど、これからはこの『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』が一つの名刺になる。きっと企画も通りやすくなるだろうし、すごく達成感がありますね。早く2作目を撮ることができるよう、動いていきたいです。


『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』
10月8日(金)より、TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー!

キャスト:ニコラス・ケイジ ソフィア・ブテラ ビル・モーズリー ニック・カサヴェテス
TAK∴ 中屋柚香 YOUNG DAIS 古藤ロレナ 縄田カノン
監督:園子温
脚本:アロン・ヘンドリー レザ・シクソ・サファイ
音楽:ジョセフ・トラパニーズ
配給:ビターズ・エンド
提供:POTGJPパートナーズ(ビターズ・エンド、日本ケーブルテレビジョン、常盤不動産、松田眞
理公認会計士事務所、クオラス)
原題:Prisoners of the Ghostland
アメリカ/2021/カラー/105分/PG-12
公式サイト:bitters.co.jp/POTG

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  • 取材・文SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション勤務を経て映画ライターへ。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント等幅広く手がける。

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