総裁選の陰で進行した「貧困パンデミック」…現場の悲鳴が聞こえる | FRIDAYデジタル

総裁選の陰で進行した「貧困パンデミック」…現場の悲鳴が聞こえる

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五輪、総裁選と続くお祭り騒ぎの陰で、貧困が深刻化している。家のない人が体を休めるためのベンチは、もうない。排除の街・東京で今、起きていることは 撮影:TEN
五輪、総裁選と続くお祭り騒ぎの陰で、貧困が深刻化している。家のない人が体を休めるためのベンチは、もうない。排除の街・東京で今、起きていることは 撮影:TEN

「自民党の総裁選。どなたがなっても、まったく期待していません」

きっぱりと言い切るのは、困窮者支援を続けている「つくろい東京ファンド」代表の稲葉剛さんだ。

「安倍政権以降、この9年間の自民党政権で格差や貧困が広がり、多くの人が貧困のなか生きてきました。このコロナ禍で、困窮はさらに広がっています。総裁選が始まって、急に格差・貧困対策の必要性を説き始めた候補者もいますが、今度、どの候補が総裁になっても、これまでの安倍・菅政権を支えてきた人ですから、期待はできません」

2012年に安倍内閣が発足したとき、最初に「やったこと」は、生活保護費の引き下げだった。

「生活保護を利用して慎ましく暮らしている人たちをターゲットに、2012年、一部の自民党議員が猛烈なバッシングを展開し、自民党が政権復帰してからは生活保護基準の引き下げや生活保護を利用しづらくする方向での法改定を強行しました。その結果、今にいたっても、ぎりぎりの生活をしている、路上に暮らしている人に『生活保護だけは受けたくない』を言わせてしまう空気ができてしまいました」

相談会などで生活保護の受給を勧めても「絶対いやだ」「抵抗がある」と答える人は多い。コロナ禍に仕事を失い、ネットカフェや路上に出た「ホームレスの状態にある人」も、例外ではない。

「目立たない場所に移動」した路上の人たち

そんななか今年、ついに東京五輪が開催された。

「街中から路上生活者を追い出す動きは以前からありましたが、2013年の東京五輪開催決定以降は排除が強まっていきました。路上生活者が夜の時間帯に体を休めていた公園のベンチは『排除アート』と呼ばれる細工がされて、体を横にすることができなくなりました。公園のまわりにフェンスをめぐらせて、夜間は施錠して締め出す、眠れないように照明を明るくするといった動きも強まりました。それはこの数年かけて広がったんです」

昨年11月、渋谷区幡ヶ谷のバス停で、路上生活をしていた女性が無惨に殺される事件があった。彼女が深夜の居場所にしていたバス停のベンチも、寝られないように肘掛けをつけたタイプの硬くて小さなものだった。

「夜回りをしていると、これまで寝場所、居場所になっていたところがどんどんなくなっていきました。公園の管理事務所に『五輪期間中はどいてくれ』と言われた例もあります。この間、目立たない場所に移動して、耐えて生きてきた、という人もいます」

五輪の食糧廃棄の隣で「今日食べるものがない」

「無事開催された」東京五輪では、大量の食品廃棄も問題になった。スタッフ用の弁当13万食が手つかずで廃棄され、選手村では連日、料理が大量に捨てられ、最終日には未開封の調味料類まで、廃棄したという。その一方で、困窮者のための食料配布には、毎回数百人が並ぶ。

「コロナ禍は、特にサービス業に従事する女性や、若い人の仕事がなくなり、大きな打撃を受けました。今日、食べるものがない、子どもに食べさせるものがない、という声も増えました」

新型コロナの感染が広がったこの1年半、稲葉さんは、この状況を「貧困パンデミック」と呼ぶ。

「コロナ禍の長期化により、貧困は拡大する一方です。困窮の報道は一時期に比べて減っていますが、都内各地でホームレス支援団体が実施している食料支援に集まる人の数は、つい先日、9月下旬に過去10年間で最多になりました。今日、食べるものがない、寝る場所がないという人が増えているのです。生活困窮者支援の現場はますます深刻化しています」

「貧困パンデミック」に支援の現場は限界

コロナ禍の困窮が広がり、「普通の人」があっというまに暮らしを立てられなくなっていくケースが激増しているのだ。

「菅政権の1年間をみて『この人たちはほんとうに、人々の命、暮らしを守ることに関心がないんだ』と思いました。これだけの危機、コロナ災害を目の当たりにして、有効な手を打たなかった。今やるべきことは、思い切った現金給付や住宅支援など、生活を下支えする対策です」

新型コロナの窓口になっている保健所の疲弊によって、保健所の機能も低下している。生活保護の窓口では、違法な対応が後を絶たない。が、

「窓口の職員も、非正規雇用の人が多い。公務員削減の影響で、過重な労働をさせられているケースも見られます」

困窮の底が抜けたといえる現状のなか、与党は総裁選に夢中で、国会も開催されていない。

「自助共助といわれましたが、民間の支援現場はもう限界です。次の選挙では、人々の命と暮らしを守ることを最優先にする人を選びたい。弱者を切り捨てない政治を望みます」

稲葉さんら民間の支援者は今日も、生活に困った人のために走り回っている。

稲葉剛さん:1969年生まれ。1994年から、生活困窮者への支援活動に取り組む。「つくろい東京ファンド」代表理事、立教大学大学院客員教授。「誰も路頭に迷わせない」というコロナ禍の支援活動の記録『貧困パンデミック』(明石書店)には、政策への具体的な提言も記されている。

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