見事回復!「うつ病に勝った」天才棋士・先崎学九段インタビュー | FRIDAYデジタル

見事回復!「うつ病に勝った」天才棋士・先崎学九段インタビュー

1年の闘病のすえ

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
「うつ病には公園での散歩がいい」と話す先崎氏。今年7月には自身の体験をつづった『うつ病九段』(文藝春秋)を出版した
「うつ病には公園での散歩がいい」と話す先崎氏。今年7月には自身の体験をつづった『うつ病九段』(文藝春秋)を出版した

うつ病のツラさは、筆舌に尽くしがたい。普通の人が考える最低の精神状態を、さらに10倍悪くしたような気分がずっと続くんです。思い浮かぶのは死ぬことばかり。高い所から飛びおりるとか、駅のホームから電車に飛び込むとか……。ただうつ病は心ではなく脳の病気です。強いストレスが原因で、脳内の配線がおかしくなっただけ。確かにツラいですが、時間をかければ必ず治ります。

こう語るのは棋士の先崎学(せんざきまなぶ)氏(48)だ。”羽生善治世代”の棋士の中でも最も早い11歳で奨励会に入会した天才で、17歳で四段に昇段しプロデビュー。’14年には九段となった。そんな将棋界の大物が、突然うつ病になったのは昨年6月のことだ。

それまでの私は、超多忙な日々を過ごしていました。将棋連盟の日常業務に加え、監修していた漫画『3月のライオン』の映画化が決定したんです。一人でスケジュール調整し、依頼されたイベントや取材をすべてこなし、うつ病になるまでの3~4ヵ月間で休めたのは月に1日程度。強いプレッシャーを感じ、睡眠時間は一日平均で3時間という状況でした。

おかしいなと感じたのは、私の誕生日の翌日6月23日です。前日は家族でインド料理を食べビールを2~3杯飲んだんですが、翌朝は疲れがとれず昼すぎまで自宅のソファーで寝ていました。午後3時頃にようやく仕事に出て夜帰宅しましたが、頭が異常に重い。常に1㎏の重しを乗せられたような感覚です。

それからは、転げ落ちるように症状が悪化していきました。強烈な不安に襲われ夜も眠れない。浅い眠りについても朝はだるくて、ひどい時には目覚めてから30分以上も起き上がれないんです。

脳内活性化に散歩が有効

7月中旬には対局がありました。だるさと戦いながらなんとか駅に着くと、電車に乗るのが急に恐くなった。なにせ毎日、何十回も電車に飛び込むことを想像していたので、ホームに立つと線路に吸い込まれてしまいそうで……。しばらく人目につかない所で体育座りでボーッとして、電車の到着アナウンスがあった直後にエスカレーターでホームに上がることにしました。線路に飛び込まないためです。おかげでちょうど来た電車に乗れましたが、帰りはとても駅に行く気になれずタクシーに乗りました。

先崎氏の症状は悪くなるばかり。精神科の医師である兄に相談するとうつ病と診断され、すぐに入院するよう勧められた。

慶応病院に入院したのは7月下旬です。当初は何もやる気が起きませんでした。テレビを見る気にすらならず、ただ横になり食事をして薬を飲むだけ。

変化が起きたのは入院して2週間ほど経った時でした。突然「エロ動画を見たい」と思ったんです。タブレットの音量を消して、こっそり鑑賞しました。生理的反応はありませんでしたが、自分の中に興味が湧いたことが嬉しかったです。

それからは兄の助言もあり、少しずつ興味の範囲を広げるように努めました。長い文章は読めないので、新聞の一面の見出しを理解するようにする。漫画もストーリーを追えないので、「コボちゃん」など4コマ漫画を読む。

よく慶応病院の周りの公園も散歩しました。これも兄のアドバイスですが、日光を浴び緑の多い所を歩けば脳内が活性化するそうです。「右、左」と口にしながら30分ほど歩く。気分が落ち込んでいる時は「クソッ、クソッ」と、脳内の闇を払うように歩いたのを覚えています。

病院には大勢の人が見舞いに来てくれましたが、大きな声は頭に響き疲れましたね。ただ話の内容で疲れることはなかった。よくうつ病の人には励ましなどプレッシャーをかける言葉を使ってはいけないといいますが、私は「がんばって」と言われても何も感じませんでした。最も嬉しかったのは「みんな待っています」という一言。うつ病の人は常に孤独感にさいなまれているので、この言葉はたまらなく嬉しかった……。

症状が少しずつ回復したため1ヵ月ほどで退院しましたが、その後も一進一退です。以前は朝飯前だった7手詰の詰め将棋が、思考力が働かず解けなかった時は悔しくて泣いたこともあります。うつ病は、ゆっくりとしか良くならないんです。兄はよく、こう言っていました。

「人間は誰でもうつ病になるけど、それを治す自然治癒力も誰でも持っている。半年から1年安静にしていれば必ず治るんだ。だから自殺だけはいけない」

闘病中の支えとなったのが、兄のこの言葉と将棋への思いです。6歳で将棋を覚え、17歳でプロになってから30年。「病気のために引退するのはイヤだ。絶対に復帰してやる」という気持ちは常に持っていました。「負けてたまるか」という強い意思があれば、うつ病に必ず勝てます。私も1年の闘病のすえ、今年6月には対局の場に復帰できたんですから。

現在は完全に回復。昨年10月に作った自らが主催する教室で将棋を指す
現在は完全に回復。昨年10月に作った自らが主催する教室で将棋を指す

PHOTO:小松寛之

Photo Gallery2

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事