国民的バンド像を「裏切り続けた」米米CLUBの魅力 | FRIDAYデジタル

国民的バンド像を「裏切り続けた」米米CLUBの魅力

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何度も見返した

連載「ちょうど30年前のヒット曲」です。今回は強烈な写真がゲット出来ました。ちょうど30年前=1991年の翌年、92年の大みそかに開催された日本レコード大賞で、米米CLUBが大賞を受賞した瞬間。

日本レコード大賞に選ばれたのは『君がいるだけで』。売上枚数、何と289.5万枚(オリコン)!  92年の大みそかは、米米CLUBが「国民的バンド」になった日と言えるでしょう。

しかし、米米CLUBがいかにも米米らしかったのは、彼らがこの後に主演したNHK『紅白歌合戦』でした。私はこの紅白における彼らのパフォーマンスが、もう本当に好き過ぎて、当時録画したVHSテープをHDDにダビングして、何度も何度も見ています。

1992年、第34回レコード大賞を受賞した米米CLUB(写真:産経新聞社)
1992年、第34回レコード大賞を受賞した米米CLUB(写真:産経新聞社)

歌ったのは『君がいるだけで〜紅白バージョン〜』。この年の特大ヒットを美しく朗々と歌いきった後、彼らは、『なんちゅうこと言うの』という、そうとうコミカルでえげつない曲を突然歌い出す。

腰を抜かすほど驚いたのは、文字で表現するのは難しいのですが、カールスモーキー石井とジェームス小野田の会話が曲の中にあり、その会話に、放送禁止言葉を打ち消すときに使う「ピー音」がかぶさるという演出があったことです(やっぱり分かりにくいか……)。

『君がいるだけで』の感動で終わればいいものを、あえてふざけた演出を付け足して、オーディエンスを裏切る。それも紅白という場で――。そんな痛快な彼らの様子を浴びたいがために、約30年後の私は、92年紅白の米米を、酒を飲みながら何度も見るのです。

裏切る――期待や予想を軽やかに、鮮やかに裏切る。それが米米CLUBの魅力の本質だったと、つくづく思います。

計算し尽くされたポップス

さて本題。今回の「ちょうど30年前のヒット曲」は、30年前=91年の9月に発売された米米CLUB『ひとすじになれない』。『君がいるだけで』ほどの超・特大ヒットではないものの、こちらも65.8万枚だから、なかなかの大ヒットです。

今あらためて聴くと、本当によく出来た曲。裏切ろう・裏切ろうとする彼らの姿勢で煙幕が張られていたのですが、実に音楽的で、かつ大衆的。計算し尽くされたポップス。米米CLUBというバンドの音楽的本領を感じさせます。

彼らのヒット曲を聴いて、特に「あぁよく出来ているなぁ」と思わせるのが、エンディングに近いところ。音楽用語で「コーダ」(Coda)というのですが、言い換えれば「大サビ」。最後の最後に新しいメロディが出て来て、それが、例えばカラオケの場でとても映えるのです。

『ひとすじになれない』:♪軽く”愛しているよ”なんて言えないから~
『君がいるだけで』:♪True Heart 伝えられない~
『浪漫飛行』:♪忘れないで あのときめき~

特に、私の思う彼らの最高傑作『浪漫飛行』は、この「♪忘れないで あのときめき~」に続いて、最後の最後の最後で「♪時は流れて誰もが行き過ぎても~」という「ダメ押しサビ」が炸裂し、何度聴いても感動が溢れて決壊するのです。

解散は「だからそういうこと」

――「もともと米米CLUBの面白さは徹頭徹尾お客さんを裏切っていくところにあったのに、それができてないことは自分たちでも十分わかってた。米米CLUBの解散っていうのは、だからそういうことですよね」

『音楽ナタリー』(2017年8月8日)のインタビューで、「当時どんどん売れてバンドが大きくなっていく状況」に対する石井の発言です。「徹頭徹尾お客さんを裏切」れない状況に対して、かなり倒錯した行動もしたようで……。

――「その流れに抗おうとしたこともあったんですけどね。『君がいるだけで』がヒットしたあとのツアーで、俺ステージにカラオケの機材持ち込んであの曲1人で歌ってたもん(笑)。でもそういうのやっぱり通じないんですよ」

「そりゃ通じないだろう(笑)」と思いつつ、でも「国民的バンド」像を強く求められた石井の葛藤が偲ばれます。

米米CLUBの解散は97年。彼らの解散前の姿を見た最後の記憶は、その前年=96年の紅白。歌ったのは傑作『浪漫飛行』だったのですが、印象的だったのは歌の前。石井と小野田と古舘伊知郎の会話シーン。

ここで石井は「(来年)3月で米米CLUB解散しましてね、4月からはまた『麦麦CLUB』っていうんでまた(やりたい)……」と、実に石井らしいボケをかまします。

しかし、そのボケを拾わずに古舘伊知郎が「正月になると『餅餅CLUB』とか……」と話をかぶせて、いわゆる「ボケつぶし」をして、石井の狙いを台無しにしてしまうのです(さすがの紅白ですから台本があったかもしれませんが、それでも「ボケつぶし」に見えたことに変わりはません)。

「裏切る」という米米CLUBの本質において、古舘伊知郎が石井を上回った瞬間――。このシーンはある意味、米米CLUBの終焉にふさわしかったと言えるかもです。

その紅白から10年経った06年、米米CLUB再結成。そして先月26日、川崎でコンサートが行われるはずだったのですが……。

――「米米CLUB」の石井竜也(62)が25日、自宅で転倒したため、26日に神奈川県で開催予定だったライブを延期すると発表した(日刊スポーツ 2021年9月25日)

三つ子の魂百まで。でも、そんな身体張ってまで、裏切らなくてもいいのに――。1日も早い完全復活をお祈りします。

  • 取材・文スージー鈴木

    音楽評論家。1966年大阪府東大阪市生まれ。bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』(彩流社)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『イントロの法則80's』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『恋するラジオ』(ブックマン社)など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。

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