マイナンバーカードが急速に普及!「スマートシティ」加賀市の秘密 | FRIDAYデジタル

マイナンバーカードが急速に普及!「スマートシティ」加賀市の秘密

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保険証として使える医療機関は1割弱

佐々木蔵之介や黒柳徹子といった人気者を起用し、バンバンCMを打っているマイナンバーカード。毎年千億円単位の予算をその普及につぎ込んできたものの、スタート以来5年も経つのに未だ普及率は3割だ。

そんなある日、筆者の友人のA君を小さな悲劇が襲った。

A君は東京住みの独身者。本籍は札幌市にある。年金がらみの申請で戸籍謄本が必要となった彼は「カードがあればコンビニで公的証明書が取れるもんね。持っててよかったマイナンバーカード♪」とセブン-イレブンに向かい、端末にカードをセットした。

ところが表示されたのは「このシステムはご利用できません」的な文言。そんなバカなと調べてみると、札幌市役所でコンビニ申請が可能な証明書は公式サイトに明記された8種類のうち、たった3種ということがわかった。

20年度予算ではポイント付与に2458億円。21年度予算では普及に1001億円。22年度は1233億円…。普及しないほうが儲かる人たちがいるように感じるのは深読みし過ぎ? 写真は、世界ロボットサミットに登場したアンドロイド「totto」(写真:アフロ)
20年度予算ではポイント付与に2458億円。21年度予算では普及に1001億円。22年度は1233億円…。普及しないほうが儲かる人たちがいるように感じるのは深読みし過ぎ? 写真は、世界ロボットサミットに登場したアンドロイド「totto」(写真:アフロ)

カード普及率全国1位の加賀市に、自治体間格差のナゾを聞いてみる

札幌市役所に問い合わせたA君は申請書を郵送で送ってくれと言われ、ホームページから用紙をダウンロード。プリントアウトして書き込んで捺印して返信用封筒に切手を貼って郵便局に行って手続きに必要な450円×2通分の定額小為替証書を買って手数料200円をとられ、なんだかんだで半日を棒に振った。「できると謳っているのにどういうこと!? いろんなキャンペーンを打ってすごく金かけてるんだから、基本システムぐらい構築しろよ!」と怒り心頭である。

調べてみると、コンビニサービスを導入している市区町村は740。日本全国の市町村数は1718だから、半数にも届かない。3種どころかひとつもとれない市町村がこんなにあるとは!

「でもカード申請率76.5%で全国1位の石川県加賀市では、170もの行政手続きをスマホ経由で可能にしてますよ。自治体によってこんなに差があるのはどうして?」とA君。

なぜできたのかを追っていけば、なぜできないのかが見えてくるはず。ということで加賀市役所政策戦略部スマートシティ課に話を聞いた。

山代温泉、山中温泉で有名な加賀市。マイナンバーカードの普及を促進させたのは、観光が大きな財源となる同市を襲ったコロナ禍だった
山代温泉、山中温泉で有名な加賀市。マイナンバーカードの普及を促進させたのは、観光が大きな財源となる同市を襲ったコロナ禍だった

1年で普及率は14%から65%に!

加賀市がデジタル化を目指した背景には平成26年、同市が「消滅可能性都市」に選定されてしまった経緯がある。強い危機感をもった宮元陸市長は、スマートシティ構想に市の未来を託した。

「行政がかけられる経費や手間は、そろそろ限界に来ています。いずれ国が目指す方向になった時にどれだけ早く対応できているか、そこに先行者利益を見出せるのではと思い、スマートシティ化、デジタル化に力を入れています。 

電子申請に関しては民間企業が開発したシステムを掛け合わせ、“加賀市電子申請システム”として導入。約170の行政手続きが申請可能となっています(※諸事情により、9月29日より一部手続きについては受付を停止中)。簡単なものですと、市民向けのイベントや講座の申し込みといったものも電子申請化しています」(加賀市役所スマートシティ課 以下同)

そんな加賀市も、カードの普及率は長らく14%程度に留まっていた。そこに意外な追い風となったのが、新型コロナのパンデミックだった。

「加賀市は観光業を主体としておりますので、経済対策の一環として、マイナンバーカードを申請した市民に5千円分の“かが応援商品券”を配布しました。主にはコロナ対策ということで、市民の方もそれであればと申請してくれたという認識です。 

商品券配布の財源としては、国の“新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金”を活用。また、マイナンバーカードの申請受付体制を増強いたしました。これらの工夫により、短期間でマイナンバーカードの普及率を上げることができたと考えています」

思えば昨年、10万円一律給付や持続化給付金など、庶民の目は各種給付金に向けられていた。そこに5千円分のマイナポイントと合わせて1万円が手に入るとなれば、申請しようかという気にもなるだろう。まさに機を見て逃さず。窓口の人数も増やして対応し、たった1年で普及率は14%から65%に上がったのだ。

その一方で、加賀市は高齢者を対象としたスマホ教室やスマホよろず相談所を開設。まずはデジタル機器の使い方に慣れてもらうところから始めている。

「市ではスマートシティ推進の取り組みの一環として、マイナンバーカードを活用した電子申請などのデジタルサービスの普及を進める一方で、加賀市民全世代間で情報格差が生じない、特に高齢者が取り残されないように、スマホの基本的な使い方や質問にも対応しています。スマホ教室に参加いただいた方からは、おおむね好評な意見をいただいております」

スマホを使える人にはどんどん電子申請を活用してもらい、使えない人には手厚く指導をする。長い目で見れば業務も軽減していく。まさにWin-Winの関係だ。

地元の活性化を狙って商品券を出した自治体も多かったが、その効果は一過性のもの。だが、加賀市はマイナンバーカードの普及のために活用した
地元の活性化を狙って商品券を出した自治体も多かったが、その効果は一過性のもの。だが、加賀市はマイナンバーカードの普及のために活用した

普及成功のポイントは、ひとえに市民に寄り添う行政にあり

そんな加賀市も、マイナンバーカード公式サイトに明記された8種の証書すべてがコンビニ申請できるわけではない。現時点で、“住民票記載事項証明”と“各種税証明”の2種は対応不可となっている。これはなぜなのか。

「そこは必要性ですよね。費用対効果というものがありますので、市民の方々がどれを必要とするのかを見極めなければいけません。 

サービスを上げても使わないものであれば、住民としては“なぜこんなもののためにお金をかけているのか”となります。無駄なものをとらせてしまうのは避けたいので、現時点ではこの2種はやめておこうという判断になったと聞いております」

やはり加賀市は市民目線で動いている! マイナンバーカードひとつをとっても、市民やそれを必要としている人(例えば本籍地とは別の地域に住み、戸籍謄本を必要としたA君のような)にどれだけ寄り添ってくれるのかが要。市民が主役の行政サービスに徹し、先行きを見越してデジタル化が進めば、誰もが納得して申請するだろう。

「今後さらに普及させていく中では、おそらくマイナンバーカードの安全性に疑問をもつ人が圧倒的かと思いますので、そこをどう理解していただくのかが課題です。これは加賀市単独では難しいところですので、その不安感を取り除くことは政府に求めたいなと思います」

CMでは「健康保険証にもなるんだよ」などと言っているが、開始を3月から10月に延期してもなお、カードリーダーを導入した医療機関は全体の1割弱にすぎない。

設備を整えるための費用負担も問題だ。CMやマイナポイントの期間延長にお金をかけるより、自治体のデジタル化や医療機関の設備費用に潤沢に資金を回し、テコ入れするほうが先だろう。「泥棒を捕らえて縄を綯う」ではないが「本当に安心だしこんなに便利」となれば、黒柳徹子に言われなくても「そろそろマイナンバーカード」という空気が生まれるよね、A君。

  • 取材・文井出千昌

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