戦地を生きた元日本人傭兵が明かす「死と隣り合わせの世界」 | FRIDAYデジタル

戦地を生きた元日本人傭兵が明かす「死と隣り合わせの世界」

高部正樹(56) いま世界が注目するアフガニスタン、ミャンマーなどで命のやりとりをして約20年

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パキスタン-アフガニスタン国境にある基地でサウジアラビアから来た義勇兵たちと。最前線でソ連軍と交戦
パキスタン-アフガニスタン国境にある基地でサウジアラビアから来た義勇兵たちと。最前線でソ連軍と交戦

「仲間は毎日のように死んでいきました。引きずる人と、一晩だけは悲しみにひたって切り換える人がいましたが、私は後者でした。戦地では『死』を意識した人から先に死んでいくんです」

そう訥々(とつとつ)と語るのは、傭兵として世界各国の紛争に身を投じた高部正樹氏(56)だ。彼を戦地へと駆り立てたのは、ある”挫折”がきっかけだった。

「戦記物を読むのが好きで、小学生のころから『他の人のために命をかけて戦う軍人こそ男の仕事だ』と考えていました。それで高校卒業後、18歳で航空自衛隊に入りました。しかし、22歳のときに飛行訓練の最中に腰に大ケガを負ってしまい、事務職の総務班に配置転換になったんです。『最前線で人のために戦いたい』という気持ちを捨てきれず、海外で傭兵になろうと決心しました」

退官後、自動車工場などで働いて渡航資金を貯めつつ、英語を猛勉強してチャンスを待った。そうしたなか、ある人物との出会いが転機となった。

「出版社で働く知り合いから、アフガニスタンで義勇兵に参加していた日本人を紹介してもらったんです。その方は反政府ゲリラの連絡先と、幹部への紹介状を提供してくれました」

’88年秋、パキスタンに単身降り立った高部氏は反政府ゲリラ部隊と接触し、その場で採用。それから3日かけてアフガニスタンへと向かった。

「私が元自衛隊という情報は伝わっていて、訓練もなくすぐに最前線へ駆り出されました。山のふもとにある敵軍の哨所(しょうしょ)や装甲車を山頂から銃撃するのが初の任務でしたね。ソ連は当時、東側諸国の親玉だったので、他の戦地で『アフガンでソ連と戦った』と言うと、『あんな大国と一戦交えたのか』と、一目置かれました」

高部氏は’90年にミャンマーへと渡り、反政府組織『カレン民族解放軍』に参加。’94年にはボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で外国人傭兵部隊に入って銃を握った。戦地では常に死と隣り合わせだった。

「ミャンマーでは基地の塹壕(ざんごう)で寝ているときに敵が夜襲を仕掛けてきて、応戦しましたが、隣にいた仲間は眉間(みけん)を撃ち抜かれて即死しました。ボスニアでは、建物内から外の敵と撃ち合っていたら、迫撃砲が窓に直撃。近くにいたドイツ人兵は上半身が吹き飛びました。反対側の窓で応戦していた私は資材の下敷きになったものの無傷でした。戦場では”右と左”どちらを選ぶかで生死が分かれました」

戦地では仲間に命を狙われることもあったという。

「アフガンでは祈祷中に前を横切ってはいけない、宗教を聞かれたら、無宗教と答えてはいけない。という独特のルールやタブーがありました。それを知らないと仲間から反感を買い、アクシデントを装って戦場で撃たれることもあるのです。味方に対しても気が抜けないような戦地が地球上には何ヵ所もあるのです」

高部氏は’07年に傭兵を引退。いまも日本人が知らない”本当の戦場の悲惨さ”を伝え続けている――。

背中を負傷した高部氏。「ロクな薬がなく赤チンを背中じゅうに塗られました」
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『カレン民族解放軍』では特殊工作部隊に所属。「敵の前線を突破して敵の施設を破壊する過酷な任務でした」
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現地の村人ら。後方支援では村人が民兵やポーターとなり協力することもあるという
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ボスニアにて。最前線に向かう途中、国連防護軍に足止めされた際に英軍の装甲車両を背に撮影された記念写真
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現在は軍事ジャーナリストとして活動。著書『日本人傭兵の危険でおかしい戦場暮らし』(竹書房)が発売中
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FRIDAY2021102229日号より

  • 撮影吉田尚弘取材塩崎記子

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