過去最多の死傷者発生…北海道でヒグマ被害が増える「本当の理由」 | FRIDAYデジタル

過去最多の死傷者発生…北海道でヒグマ被害が増える「本当の理由」

札幌市内で4人が襲われる事件が発生。東部地域では過去最大クラスのオスの個体が暴れるなど被害は拡大中。その背景とは……

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北海道東部地域で家畜を襲う「OSO18」と見られる巨大グマ。警戒心が強く、防犯カメラに映った映像はとても少ない
北海道東部地域で家畜を襲う「OSO18」と見られる巨大グマ。警戒心が強く、防犯カメラに映った映像はとても少ない

北海道が今、ヒグマ被害に脅かされている。

ハイキングやきのこ狩りで入山する機会が増える10月。この時期はヒグマにとっても冬眠前の溜め込み期間にあたり、被害が増加するタイミングでもある。実際に北海道では10月31日までを「秋のヒグマ注意特別期間」と定め警戒を促している。

しかし、人や家畜への被害は、今年が過去最悪と言っても過言ではない。目を引くのは東部にある厚岸(あっけし)町と標茶(しべちゃ)町での牛への被害だ。この地域では体重300キロ越えの巨大なオスの個体による被害が増加している。初めて発見された標茶町下オソツベツの地名と、18センチにも及ぶ足跡にちなんで「OSO18」というコードネームで呼ばれる同個体。標茶町役場の農林課民生係がその被害実態を明かす。

「被害頭数は、標茶町だけで15頭に上ります。『OSO18』による被害は令和元年7月に初めて確認され、3年間で48頭が犠牲になりました。牛をヒグマが襲うことはかなり珍しく、今までは何らかの原因でケガをしてしまった牛を食べるというケースがごく稀に起こっていたくらいでした」

「OSO18」の特徴は巨大さだけではない。牛を襲ったあと、全く食べないか、食べても背中の肉の一部だけというケースが多く、餌というよりも弄ぶために襲撃している可能性が高いと考えられている。警戒心も強く、夜以外は人前になかなか姿を現さない。また一度襲撃した場所には姿を現さないため、移動経路すらつかめていないのが現状だ。今年8月に被害に遭った厚岸町営牧場長の櫻井唯博さんが語る。

「200キロ近い牛の背骨が折られていました。どんなパワーなんだと思いましたよ。牛を襲うクマなんて、ここ50年聞いたこともありません。対策として、ハンターに巡回してもらう一方で、電気柵や箱罠の設置を進めています。また町営牧場で管理を任されていた約200頭をそれぞれの農家に返して、700頭くらいは放牧をやめて、牛舎で飼育しています。

お金の負担もバカになりません。町営牧場では7頭が被害に遭いました。損失は総額250〜300万円になります。さらに電気柵などの設備投資費用は最低でも2000万円を超えます。それでも全てをカバーできない。放牧できない700頭は、餌となる牧草を買わないといけないので、1000万円くらいかかります。農家さんも町営牧場に預けられない分、費用や手間がかかるし、そうなれば手が回らず、牛の人口受精の時期もずらさないといけない。生育にも影響するかもしれませんので、被害総額は青天井です」

札幌市東区の市街地を走るオスのヒグマ。逃亡中は保育園の真正面を通ることもあったという
札幌市東区の市街地を走るオスのヒグマ。逃亡中は保育園の真正面を通ることもあったという

一方で人への被害も深刻だ。今年だけで過去最多となる11名の死傷者を記録。6月18日には札幌市東区の閑静な住宅街に突如、体長約1.6メートル、体重約150キロのオスグマが出現し、市民4人を襲撃するという事件が発生。105人の警察官、39台の車両、3機のヘリが出動し、9時間の逃走の果てに駆除された。

北海道を襲うヒグマの脅威。しかしなぜ、被害が増加しているのか。都市開発により生育環境が奪われていることなどが指摘されている中、30年以上にわたりヒグマを研究している酪農学園大学・環境共生学の佐藤喜和教授は、別の可能性を示唆する。

「ヒグマ被害が増加している背景には、2つの大きな要因があると考えます。一つ目はクマの生息数の増加です。1990年に北海道は『春グマ駆除制度』をやめました。この制度は1966年ごろから始まったもので、春先の一定期間に限り狩猟を解禁するもので、クマ一頭の値段が高かったこともあり積極的に行われてきました。しかし1980年代に入り、一部地域でクマが絶滅する危険性が出てきたために廃止。それ以降、個体数は増加の一途を辿っています。

二つ目の理由は動物たちと人間の生活領域の棲み分けが曖昧になっていることです。札幌のような都市部の問題ですが、緑豊かな街づくりを進める一方で、森林から街の中まで続く緑地の連続性が、どんどん太くなっている。町の中まで森の奥と同じように木々が生い茂り、動物が身を隠すことができるようになっているんです。そこに餌となるウサギやキツネ、鹿が出て来て、やがてクマが来るようになった。街づくりの方法をもう一度考えなければいけません」

はたして被害を押しとどめる対策はあるのか。

「札幌市東区のような市街地でのクマ被害は、30年間で初めての出来事です。対策としては、時間はかかりますが電気柵を設置するなど土地の管理を今一度きちんと行うことです。また高齢化が進む猟師たちの技術伝承や後継者育成も必須です。個人でも唐辛子エキスのスプレーを持つなど、常にクマがいる可能性を考えて備える。でも持っていれば安全という対策グッズはないので、遭遇しないように細心の注意を払うというのが一番です」

これ以上の被害拡大が起こらないよう、一刻も早い解決が待たれる。

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