不倫を乗り越え結婚…60代夫婦が無理心中した「悲惨な理由」 | FRIDAYデジタル

不倫を乗り越え結婚…60代夫婦が無理心中した「悲惨な理由」

ノンフィクション作家・石井光太が日本社会の深層に迫る!

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30年来のつき合いだった夫婦は悲しい結末を選んだ(写真はイメージです。画像:吉澤菜穂/アフロ)

入籍してから半年後、吉岡浩人(仮名、以下人物名は同。事件当時64歳)は予想もしなかった事実を知ることになる。妻の小枝(同62)からかつてした借金の返済を迫られていると言われたのだ。

弁護士に相談したところ、月々6000円の分割にして4年かけて返済することにした。浩人には、生活保護の過剰支払い分の返済として、それとは別に毎月8000円を払っていたので、合計すると1万4000円ほどの支払いになった。

【前編】30年来の不倫&結婚の末に…夫婦が行き着いた「悲しい結末」

浩人は小枝にわたす生活費を週1万4000円と決めて生活費を切り詰めることにした。だが、彼女はそれを2、3日でつかいはたし、「お金ちょうだい」と言ってくる。話が通じないので、仕方なく1000円、2000円と払っているうちに出費だけが膨らんでいく。

そのせいで、月の生活費は生活保護費の支給日の10日前には底をついている状態だった。毎月、最後の10日間は水とわずかな米やパンだけで過ごす。そうした生活をするうちに、浩人はどんどん精神的に追いつめられていった。

浩人は言う。

「今思えば、もっと彼女に厳しくしていればよかったと反省しています。でも、あの時は言っても言い負かされちゃうというか……。いくら言っても聞いてくれないし、彼女に『生活保護から早く抜け出したいね』とか『もっといい仕事あるといいね』と言われると、自分が悪いのかもしれないと思いました。実際に僕も弱かったり、甘かったりする部分があって、彼女に対して強い口調でやめろとは言えなかったんです」

厳しい三つの選択肢

おそらく浩人の中には、厳しく叱りつけて小枝に嫌われるのを恐れる気持ちがあったのだろう。小枝に逃げられれば、再び孤独な生活に引き戻されることになるのだ。

15年6月1日、浩人の家計に打撃を与える出来事が起こる。国が生活保護の住宅扶助を削減したのだ。

役所の職員に相談に行ったところ、職員から月に5000円減額の6万4000円になるとつたえられた。これは今住んでいるアパートの家賃より安い額だった。浩人がそれを話すと、職員はこう言った。

「足りない分については、大家さんに値下げをお願いするか、ご自身で自己負担するか、家賃の安いアパートに引っ越すか三つに一つになります」

浩人は愕然とした。月の3分の1はほとんど水だけでやり過ごしている状況なのに、これ以上どうしろというのか。浩人は冷静に考えることができず、「家で妻と相談します」と言って帰宅した。

その日、浩人は生活保護費が削減されたことを小枝に話した。小枝は答えた。

「えー。じゃあ、引っ越し先探してよね!」

不動産へ行って安い物件が見つかったとしても、今より悪い条件になるのは明らかだ。そうすれば、また小枝から不平不満を言われることになる。浩人は頭を抱えた。

その日から6日間、浩人は鬱々と悩みつづける。何より恐ろしいのは、小枝に出て行かれ、孤独な生活を強いられることだ。そんなふうに孤独死を待つくらいなら、二人でいるうちに死んだ方がずっとましだ。

6月7日の夕方、二人はキッチンの前のこたつで早い夕食を取った。今はまだ生活保護費が支給されたばかりだが、もう少しすればまた底をついて水で腹を膨らませる生活になる。気持ちはどんどん沈んでいった。

小枝はそんな浩人の心配をよそに、食事を終えると睡眠薬を飲み、コタツで眠りはじめた。浩人は彼女を敷きっぱなしの布団に運んでから、晩酌をしている中で、だんだんと「もう死にたい」と思うようになった。

しかし、今自分が自殺したとして、小枝は一人では生きていけないだろう。彼女だけでは、数日で生活保護費をつかいはたし、ホームレスになるか、飢え死にするかだ。そんなつらい目に遭わせるくらいなら、一緒に逝かせてあげた方がいいのではないか。

両手をブルブルと痙攣させ……

アルコールも入って余計に鬱状態になっていたのだろう。その気持ちは膨れ上がり、もう心中するしかないという考えに傾いていった。逆に言えば、それだけ孤独が恐ろしくてならかったのだ。

浩人は立ち上がり、睡眠薬で眠っている小枝のもとへ歩み寄って言った。しばらく彼女の寝顔を見つめてから、コタツの電気コードを手に取り、彼女の首に巻きつけて、思い切り絞め上げた。小枝はうめき声をだし、両手をブルブルと痙攣させ、2、3分して息絶えた。

彼は絶命したのを確認してつぶやいた。

「俺もすぐいくから」

そして台所で包丁を手に取ると、浴室に入り、浴槽にお湯を入れた。そしてTシャツとハーフパンツ、それにトランクスを脱いでから浴槽に入り、左手首を二度にわたってVの字に切った。後の調べによると、傷は深さ5mm、長さ5cmだった。さらに左首と腹部を5cmずつ切ったところで、浩人は意識を失った。

これでもう一人になるのを恐れなくていい。天国で小枝と二人で安心して過ごせる。そんな気持ちだったという。

だが、2時間ほどが経った21時過ぎ、浩人は浴槽の中で意識を取りもどした。自殺未遂に終わっていたのだ。出血のせいで、意識がもうろうとし、再び自殺をする力は残されていなかった。

彼は2040分に警察へ連絡し、駆けつけた警察によって身柄を取り押さえられることになった。

この無理心中事件の経緯を知り、浩人を「浅はかだ」と一蹴するのはたやすい。

しかし、この事件は無理心中を考える上で重要な要素が含まれている。それは、二人が貧困に陥る前から問題を抱え、共依存の状態に陥っていたことだ。

普通に考えれば、生活保護費が多少削減されたとしても、きちんと話し合い、切りつめるところは切りつめ、あるいは第三者に支援を求めれば、心中には至らなかったはずだ。

だが、無理心中する者は、そうしたことをする力がない。浩人にしてみれば、家族から見放され、約20年間もどん底の生活をした末に、ようやくつかんだ幸せだった。それゆえ、小枝に生活態度を改めさせることができなかったし、小枝もまた精神疾患によってそれができる気力を持ち合わせていなかった。

そう考えると、無理心中は貧困など一つの事象だけが原因で起こるものではないことがわかる。もともと持っていた問題がつみ重なって生きる力がなくなり、そこに貧困という問題が追い打ちをかけるように起きてはじめて無理心中となるのだ。

コロナ禍で増加する心中について考える時、その当事者の背景に目を向けることが重要だといえる。

  • 取材・文石井光太

    77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。日本大学芸術学部卒業。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『「鬼畜」の家ーーわが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『レンタルチャイルド』『近親殺人』『格差と分断の社会地図』などがある。

  • 写真吉澤菜穂/アフロ

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