呼吸生理学の権威が解説! 「呼吸」で夢はコントロールできる!? | FRIDAYデジタル

呼吸生理学の権威が解説! 「呼吸」で夢はコントロールできる!?

桶狭間の戦いで織田信長を勝利に導いた「呼吸術」

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ほんま・いくお/専門は呼吸神経生理学。東京慈恵会医科大学卒業。昭和大学医学部生理学教室教授、同大名誉教授などを経て、現在は東京有明医療大学の学長を務める。著書に『呼吸を変えるだけで健康になる 5分間シクソトロピーストレッチのすすめ』(講談社)、『すべての不調は呼吸が原因』(幻冬舎)など
ほんま・いくお/専門は呼吸神経生理学。東京慈恵会医科大学卒業。昭和大学医学部生理学教室教授、同大名誉教授などを経て、現在は東京有明医療大学の学長を務める。著書に『呼吸を変えるだけで健康になる 5分間シクソトロピーストレッチのすすめ』(講談社)、『すべての不調は呼吸が原因』(幻冬舎)など

“天下統一の夢”に挑んだ信長の感情制御術

アインシュタインが遺した言葉に、「我々人間は潜在能力の10%しか引き出せていない」というものがある。人間が使いこなせていない能力は複数あるが、今最も注目すべきは「呼吸」だろう。

たとえば織田信長は、「呼吸の力」を巧みに活用することで平常心を保ち、持てるパワーを最大限に発揮できていたらしい。

呼吸生理学の権威・本間生夫氏(東京有明医療大学学長)によると、信長が、呼吸コントロールに用いた術は、能の「敦盛(あつもり)」を舞うことだった。

人間50年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり
この一節を聞けば、ああ、あれかと思い浮かぶ方は多いだろう。

大河ドラマなどではだいたい、本能寺の変の見せ場として、燃え盛る炎に包まれてこの能を舞う信長の姿が描かれる。信長が勝負どころで好んで「敦盛」を舞っていたことは『信長公記』にも記されており、今川軍4万5千人に対して、織田軍はわずか2千人で立ち向かい、奇跡の勝利を納めたと語り継がれる桶狭間の戦いの前夜にも、これを舞い謳った上で出陣したとある。

信長が『敦盛』を舞ったのは、勝負どころで呼吸を整えるためだったと私は考えています。能楽のリズムには、呼吸を深くゆったりと安定させる働きがあります。信長は経験的に知っていて、活用したのではないでしょうか。信長ほどの傑出した人物でも、我々常人と同じように、不安や緊張の克服に努めていたというのは意外かもしれませんが」(本間氏、以下同)

舞う姿を見て、謳う声を聞くことによって、その場にいた武将たちの呼吸も信長と一緒に安定し、平常心を取り戻せただろうと、本間氏は推測している。織田軍の「息の合った」戦いと大躍進を可能にしたのは「呼吸の力」だったのである。

現代人の呼吸は浅く早く、衰えやすい

呼吸は、生きる上で、すべての基本であるといっても過言ではありません。COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器系疾患はもとより、加齢による身体の衰え、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の発症と悪化にも、呼吸は大きく関係しています。さらに身体の健康だけでなく、感情も、実は呼吸と表裏一体なんですよ

確かに、我々の呼吸は常に喜怒哀楽などの感情と影響し合い、変化する。たとえば極度の緊張や不安を感じている時、心臓が胸から飛び出しそうなほどドキドキするのと一緒に、呼吸も浅く早くなっているのが分かる。

不安な感情と浅く速い呼吸は、脳の同じ部分が司っていることが最近の我々の研究で明らかになりました。脳の最も深いところにある扁桃体というアーモンド形をした場所です

なるほど、同じ場所で生じているから、不安を感じると連動して、呼吸も浅く早くなるのだ。

これは逆も言えることで、不安を感じている時、努めてゆっくり、深く呼吸すると落ち着きを取り戻すことができます。禅、瞑想、ヨガの呼吸法にも、同様の意味があります

本間氏によると、過剰なストレスにさらされている現代人は老若関係なく、「浅くて速い呼吸」になっている人が多いという。

仕事や家事で時間に追われ、心が安らぐ間もなく非常にせわしいリズムで生活している人が多いため、呼吸にも余裕のないリズムが反映されてしまっているのでしょう。そしてこうした傾向が、現代人の呼吸年齢を老いさせる原因にもなっています。浅くて速い呼吸は、呼吸機能の衰えを早め、肉体にも精神にもよくない影響を及ぼします

出陣前、信長が「敦盛」を舞うのにも理由があったのだ Photo:アフロ
出陣前、信長が「敦盛」を舞うのにも理由があったのだ Photo:アフロ

睡眠時無呼吸症候群の人は「悪い夢」をみている

呼吸は、現実世界だけでなく、我々が睡眠中にみている夢にも深く関与しているようだ。

目覚めている時、感情が呼吸に大きく働きかけていることは誰もが実感できるでしょう。嫌な相手に会えば早くなり、気が合う人が相手ならゆっくりと落ち着く。

一方、睡眠中は感情の影響はなくなって、単純に、空気の出し入れが行われるだけだろうと考えられがちですが、そうではありません。眠っている時も感情の影響は続いており、そこには夢が関係していると考えられています。つまり、現実世界で生じたネガティブな感情が、悪い夢を見させていることもある。

それから、感情の影響ではありませんが睡眠時無呼吸症候群の人なども、悪夢を見やすいです。しょっちゅう覚醒して眠りが浅くなり、それが自律神経に影響し、糖尿病や高血圧の引き金になるとも言われています。今や成人の4〜5人に1人は、睡眠時無呼吸症候群という報告もある、社会問題ですね

悪い夢を見て夜中に目が覚め、寝付けなくなれば、翌日は寝不足になり、一日中ぼんやりして過ごすことになる。寝不足が続けば体調が崩れ、生活習慣病のリスクも高まる。

前章で本間氏が述べているように、呼吸を安定させることでネガティブな感情をコントロールできるのならば、呼吸を上手く使えば、悪い夢を見ないようにすることもできる気がするがどうだろう。

できると思います。私は香りの活用と適度な運動を組み合わせることをお勧めしています。あとは香道、華道など、『道』がつく、日本文化を嗜むのもよいでしょう。織田信長の『能』もそうですが、道がつく文化はいずれも、呼吸が深く係っており、感情のコントロールに良い影響を及ぼします

呼吸を制する者、夢を制し、人生を制する。――次回は本間氏が提唱する、感情に効く、「良い呼吸」について紹介する。

  • 取材・文木原洋美

    宮城県石巻市生まれ。大学在学中にコピーライターとして働き始め、20代後半で独立してフリーランスに。2000年以降は軸足を医療分野にシフトし、「ドクターズガイド」(時事通信社)「週刊現代 日本が誇るトップドクターが明かす(シリーズ)」(講談社)「ダイヤモンドQ」(ダイヤモンド社)「プレジデントウーマン」(プレジデント社)などで、企画・取材・執筆を手掛ける。あたらす株式会社の代表取締役も務める

  • 撮影西﨑進也

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