死産を行政に相談したら逮捕…「夫婦の未来」を奪った県警の責任は | FRIDAYデジタル

死産を行政に相談したら逮捕…「夫婦の未来」を奪った県警の責任は

香川県警は「抗議文の内容を確認した上で適切に対応したい」とコメントしたが…

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10月14日、「逮捕は早計」と香川県警に抗議するため、同県警や丸亀署、各報道機関にあてた文書を発表した佐藤倫子弁護士(写真:共同通信)

自宅の冷蔵庫に乳児の遺体を遺棄したとして、香川県警は9月24日、丸亀市に住むAさん(25)とその妻、Bさん(22)を死体遺棄容疑で逮捕した。県警は2人の名を実名で発表し、各報道機関もこれに倣い、実名で報道した。

当時の丸亀署によると、2人は同月22日ごろ、遺体を袋に入れた状態で自宅の冷蔵庫に遺棄した疑いがあるとされていた。24日に県の児童相談所から「流産した乳児を自宅の冷蔵庫に入れている家庭がある」と警察に通報があり発覚、その日に逮捕に至る。

困って相談したら、逮捕されてしまった…

その後、夫妻は勾留満期であった10月5日、不起訴処分となり、釈放された。これを受け、妻Bさんの元弁護人、佐藤倫子弁護士は丸亀署や香川県警、そして各報道機関にあてた文書を発表。丸亀署による逮捕が早計だったこと、香川県警が逮捕当日に報道機関へ実名を公表したことは極めて不当であること、そして県警の実名発表を受けた報道機関がそのまま実名で報じたことは極めて配慮に欠くものだったと訴えた。

佐藤弁護士によると、夫妻は丸亀市で1歳の子供と3人で暮らしていたが、Bさんは自身が妊娠していることを知らないまま、9月21日未明、妊娠4〜5か月の胎児を死産。同日朝、死産に気付いたという。かかりつけの婦人科クリニックを受診しようとしたが、臨時休診だったため受診できなかった。そこでBさんは、クリニックの診察が再開次第受診をして医師の指示を仰ごう、その際に胎児も持参しよう、と考えたのだという。

Bさんは、死産したことによって自分がいままで妊娠していたことと、死産そのものをようやく認識する。夫のAさんは、クリニックの受診まで日数があることを案じ、その胎児を冷蔵庫で保管することをBさんに提案。ふたりで胎児を冷蔵庫に保管した。

そして23日の祝日を経て24日朝。1歳の子供を保育園に送った際、このことを保育士に伝えたことがきっかけとなり、ふたりは逮捕される。

「Aさんは、お子さんを保育所に送った際、保育士に『Bさんが死産した』ことを伝えました。すると、同日午前10時過ぎに、町役場からAさんに電話がありました。Bさんの様子を尋ねる役場の職員に、Aさんは、死産の経緯や冷蔵庫に胎児を保管していることを説明し、どのような手続を取ればよいか相談しました。役場の職員は、調べてまた連絡するとのことでした。

しかし、役場からの連絡はなく、同日午後1時頃、丸亀警察署の警察官複数名がお二人の自宅を訪れました。お二人はそのまま丸亀警察署に任意同行され、逮捕されました。お子さんは、児童相談所に一時保護されました(なお一時保護はお二人の不起訴処分時には既に解除されています)」(佐藤弁護士の文書より)

胎児の遺体を隠すつもりも、遺棄するつもりもなく、困って相談したことから逮捕に至ってしまった。また「本件逮捕に至る過程において、児童相談所の職員がお二人に連絡をしたことは、一度もありませんでした」(同)というとおり、児童相談所は、夫婦に聞き取りを行うなどの確認作業を行うことなく、丸亀署にそのまま通報したのだという。

丸亀の児童相談所といえば2018年3月、東京都目黒区で船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5=当時)が親から虐待され死亡した事件で、家族が転居前に関わっていたことも記憶に新しい。当時、児童相談所間の引き継ぎが十分でなかったと問題視されたこともあって、丸亀の児童相談所がこうした先走った対応をとった可能性もある。

この胎児の死亡に事件性がなかったこと、死体遺棄容疑の逮捕が勇み足だったことを、佐藤弁護人は文書で次のように綴る。

「冷蔵庫での保管も22日夜から24日昼までの間と短く、お二人はその事実を隠してもいません。どのような手続を取ればよいか、Aさんにおいて役場に相談している最中でした。死体を隠匿したり放棄する『死体遺棄』とは程遠い実態です。妊娠4〜5か月で気付かずに死産するなどということは、どのご家庭、どんな女性にも起こりうることです。死産が分かった時点で救急車を呼ぶなどすればよかったのかも知れませんが、それができなかったからといって、到底、本件の経緯は罪に問われるようなものではありません。

胎児を確認し、お二人から少しご事情を伺えば、本件が罪に問われるような事案ではないとすぐに分かったはずであり、警察による本件逮捕は極めて早計だったと言わざるを得ません。このような、何ら悪意のない、どの家庭にでも、どの女性にも起こりうる出来事で、突如逮捕勾留され、社会生活を途絶されるようでは、私たちは市民は到底、安心して社会生活を営むことができません」

佐藤弁護士から「逮捕は早計」と抗議を受けた香川県警察本部(写真:共同通信)

佐藤弁護士によれば、Bさんは胎児の死産2日前である9月19日、大量出血していた。そのとき「自分は流産した」と思ったのだという。だがこれは、後から分かったことだが、切迫流産だった。そして20日夜から激しい腹痛に襲われる。「胎盤が出てくるのでは」とBさんは考え、安静にして過ごしながら、少しだけ睡眠をとった。

そして21日の朝、シャワーを浴びたのちに、排出物を確認しているときに、小さな手が見えて死産だと気づいたのだそうだ。他の病院へ行くことも考えたというが、診察後胎児を返してもらえるのか不安だったことや経済的な理由で、かかりつけクリニックの休診明けを待つことにした。その結果、逮捕されてしまった。

「もっと早く妊娠に気づけていれば、産んであげられていたかもしれない」と、Bさんは話しているという。

妻は自主退職を余儀なくされた

夫妻は不起訴となったが、にもかかわらず、今現在も、ふたりの実名や逮捕時の写真がインターネット上に残り続けている。さらに匿名掲示板で『Aさんの知人』と名乗る者が、真偽不明な情報を投稿し、まとめブログには「前の奥さんにもDVを加えていた」などとした情報が掲載されていた。

さらに妻のBさんは自主退職を余儀なくされたほか、家族が住んでいたアパートの退去を求められたという(その後、家主の理解を得て退去は免れた)。滞りなく返済をしていた債務についてもAさんの勾留中、連帯保証人が債権者からの一括請求を受けるという事態に陥った。珍しい苗字だったこともあり、Aさんの両親や親族もさまざまな不利益を被った。不起訴による釈放後、周囲の理解は得られつつあるものの、未だ影響は拭いきれない。

香川県警は「抗議文の内容を確認した上で適切に対応したい」とコメントしている。

佐藤弁護士は取材の最後にこう語った。

「お二人の行動は死産した場合のベストな方法ではなかったのかもしれません。ですが、ベストな方法から外れてしまえば逮捕されてしまう。そんな世の中が良いとは思えません。これから同じような経験をされた方が、ネットで検索して、今回の事件報道を見ることで、怖くて相談できなくなるのではと心配です。

また、判例では妊娠12週以降の死胎で人の形をしたものは『死体』にあたるとされており、これを冷蔵庫に入れたことが『隠匿』であるとして逮捕されたのだと思いますが、もし彼らの行為が本当に犯罪に該当してしまうというのであればそれはやはりおかしい。死体遺棄罪の構成要件が過度に広範、ないし不明確であり、問題があると感じます。女性たちが不測の流産で不当に逮捕されたり罪に問われたりしない仕組みが必要だと思います」

女性が、産まれたばかりの赤ちゃんを遺棄したとして、逮捕に至る事案は後を絶たない。今月7日も茨城県内にて自宅で出産したのち、その子供の首を絞めて殺害したとして女子高校生(18)が殺人容疑で再逮捕された。彼女は妊娠や出産を家族に相談することなく出産している。また13日にも埼玉県内にて、自宅で出産した男児を直後に殺害したとして川越市の女性(26)が殺人容疑で再逮捕された。

茨城県の女子高校生は「生まれてきた赤ちゃんの扱いに困った」、埼玉県の女性は「育てる覚悟がなかった」とそれぞれ供述しているという。また埼玉県の女性は成人していることから実名報道がなされている。昨年12月にはベトナム人の技能実習生が自宅に双子の新生児の遺体を放置したとして逮捕され、のちに死体遺棄罪で起訴。今年7月、熊本地裁で有罪判決が下された。

こうした事案は当時の女性たちの置かれた立場や家族との関係などの背景がはっきりとしないまま、逮捕時に報道が先行してしまう。その現状が、予期せぬ妊娠をした女性、子育てに自信を持てない女性たちをさらに追い詰めている。

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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