『THE TIME,』の斬新な仕掛けから読み説くTBSの変革 | FRIDAYデジタル

『THE TIME,』の斬新な仕掛けから読み説くTBSの変革

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10月1日より放送開始した『THE TIME,』。月~木曜は安住紳一郎アナ、金曜は俳優の香川照之がMCを担当している 写真:ゲッティ/共同通信イメージズ
10月1日より放送開始した『THE TIME,』。月~木曜は安住紳一郎アナ、金曜は俳優の香川照之がMCを担当している 写真:ゲッティ/共同通信イメージズ

『THE TIME,』という番組について、賛否両論様々な声が上がっている。現時点であの番組がしていることが正解なのか誤りなのかは、正直言って私にもよく分からない。

しかし、長年情報・報道番組を手掛けてきたテレビマンとしてひとつだけ「確かに言えること」がある。それは「何が正解か分からない、現在のテレビ業界というカオスの中では、『THE TIME,』という番組がやろうとしていることは、最も『真っ当』だ」ということだ。

何が正解か分からない状況の下で、人が取る対応は多分2種類に分かれると思う。「目の前の成績」をなんとか確保するために、付け焼き刃的な「その場しのぎ」の対策を取るか。あるいは「今は辛いかもしれないが、将来的には成績が上向くように」毎日地道に努力をするかだ。

その場しのぎの対策であれば、とりあえずどこかから「完成された人気者」を連れてきて、その人頼りの番組をすればいいかもしれない。人気のありそうなゲストをたくさんキャスティングして、スタジオを派手にすればいいかもしれない。でも、そうはせず、あえて「辛そうな道」を選んで、先々に向けた努力をする「イバラの道」を選んだのが『THE TIME,』である気がする。そしてそれは、TBSという放送局があえて選んだ道なのかもしれない。

『THE TIME,』には、大まかに言って「3つの“あえて選んだ”イバラの道」があると思う。ひとつは「あえて伝え手だけでいく」イバラの道。2つ目は「あえて地方局に頼る」イバラの道。そして3つ目は「あえて苦手な演出に挑戦する」イバラの道だ。どういうことかひとつずつ説明しよう。

1.「あえて伝え手だけでいく」イバラの道

『THE TIME,』にはコメンテーターがいない。その代わり、アナウンサーは「そんなにたくさん必要?」というくらいたくさんスタジオにいる。

通常、報道・情報系の番組はコメンテーターという「感想を言うプロ」をスタジオに置き、「プロが言った感想」で時間を埋めるのが常套手段だ。特に近年、テレビが斜陽産業と言われるようになり、制作費がどんどん減らされている中では「いかに感想で時間を埋めることで、取材の数を減らして金をかけずに長時間番組を作るか」が生番組の成否を分ける「一番のカギ」のようになっている。

『THE TIME,』ではコメンテーターをあえて排除することで、感想という「水増し」を排除し、「情報を薄めず、濃度を保つこと」で情報番組としての質を保とうとしているのがよく分かる。スタジオにコメンテーターがいない分、アナウンサーたちには「自分たちの力量で番組を盛り上げること」が要求される。安住紳一郎さんという「民放一巧みな」信頼感のあるエースがいるからこそ成り立つ演出ではあると思うが、あえてたくさんのアナウンサーたちに安住アナと朝の番組で共演させることで、若手たちの力を高めようとしているようだ。

そして、スタジオにはなぜかたくさんの気象予報士たちがいる。現在日本は「毎日が異常気象」と言われるほどに大雨や異常な天気などが続き、各局とも気象情報の重要性に気づいている。しかし、気づいてはいても、天気予報は外部の専門会社に頼り、なかなか独自性が出しづらいのが現状だ。

そんな中、スタジオに思い切ってたくさんの気象予報士たちを集め、番組独自で精度の高い気象情報を伝えていく、という姿勢を示している点で『THE TIME,』は新しい。今のところこの「たくさんの天気の伝え手」たちはあまり効果的に活用されているようには見えないが、今後どのような新機軸の天気予報を伝えていってくれるのかは期待大だ。

さらに、街角からは「ニュース班」と呼ばれるディレクター陣たちが、最新情報を中継でどんどん伝えていく。この徹底的に「感想」を排除して「事実」だけを濃厚に伝えていこうという姿勢は、生番組の経験者から見ると「さぞかし大変だろう」と思うが、きっとその「情報濃度の濃さ」がいずれ視聴者たちに伝わる日が来るのではないか。

2. 「あえて地方局に頼る」イバラの道

『THE TIME,』は、かつての日本テレビの『ズームイン!! 朝!』のように各地方局からどんどん中継をするのをひとつの「目玉」にしている。これは、生の報道・情報番組の経験者からするとやはりかなりの「イバラの道」だと言わざるを得ない。

語弊があるかもしれないが、失礼を承知で敢えて言うと、地方局のアナウンサーやディレクター・カメラマンは、東京キー局に比べるとかなり実力差があるのが実情だ。地方局はアナウンサーもスタッフも全国に向けて中継をした経験値が浅いので、しばらく「番組側が我慢して経験を積んで」もらわないと、レベルアップは望めないのだ。

実はかつて日本テレビ系列が「強くなった」のは、『ズームイン!! 朝!』のおかげと言われている。全国から系列各局の担当者が定期的に集まって企画会議をし、「面白いもののみがオンエアを勝ち取る」シビアな競争に晒されることで各局が「他に負けまい」と切磋琢磨し、そんな中でアナウンサーやスタッフのレベルが見違えるほど上がっていったのだ。

そして、全国各地の日本テレビ系列局に「ズームインで有名な人気アナウンサー」が続々誕生し、その人気アナたちがその局の「その地方での優位性」を確固たるものにしていった歴史がある。

今回きっとTBSは、しばらく「忍耐する」覚悟を決めたのだと思う。じっくり系列各局のアナウンサーやディレクターが育ってくれるのを待つことにしたのだろう。

今や地方局は東京キー局に比べても先行きは暗く、未来に希望は持てない。そんな中で各局とも局員たちの士気はダダ下がっているのが悲しい現状だ。朝に「自分たちが活躍できるチャンス」があるというだけでどれだけJNN系列各局のスタッフたちに活気が蘇るか、ということを考えれば、「なりふり構わずズームインを真似する」ことの価値は高いのだ。

まして現在ではズームインの頃ほど中継にお金がかからなくなっている。「ズームインをやるなら今」というのは、そういう意味でも頷ける話だ。

3. 「あえて苦手な演出に挑戦する」イバラの道

そしてもうひとつ『THE TIME,』に感じること。それは「TBSが苦手そうな演出にあえて片っ端から挑戦している」感じがすることだ。

これまで報道・情報番組では良く言えば「オーソドックス」、悪く言えば「地味」が持ち味だったTBS。「柔らかい演出が苦手」だったTBSがあえて「謎の白い鳥のぬいぐるみ」(シマエナガファミリーというらしい)を出して歌わせてみたり、体操するVTRを出したり番宣で女優にランニングさせてみたり、「日テレやCXが得意そうな」演出をジャンジャン試してみている。

まるで大阪ABCの「おはよう朝日です」を彷彿とさせるようなピアノの生演奏とか、しつこく繰り返されるゴダイゴの主題歌とか、「ちょっと外してない?」と個人的に思うものもあるが、それでも朝の番組に「ゆる〜いあったかさ」を持たせようと努力しているのは良く分かる。

もっと言えば金曜日のMCに「若葉マークをつけた」香川照之さんを起用したのさえも、この「苦手そうな演出にあえて挑戦」している一環ではないかという気もする。

「演出に多少失敗してもいいのだ。失敗しているうちに苦手は克服されるだろう」という心意気を感じる。そして、この3つの「イバラの道」を堂々と歩むことができるのは、そこに「安住紳一郎」という稀有な名アナウンサーがいるからだ。すべての「失敗するかもしれない挑戦」を温かく受け止め、抜群の安心感で見せてしまうことができるのは安住アナならではだ。

しかも安住アナはあまりアクが強くないので、「安住アナあってこその番組にして、『ザ・安住ショー』という感じにならない」のも絶妙だ。他局のメインMCを張るようなアナウンサーの番組はだいたいみんな「オレ様の番組」という感じになってしまっているが、安住アナだからこそ「名脇役に回って他の出演者たちを引き立てることができる」のではなかろうか。

これは先月の『ニュース23』のリニューアルと対を成すものなのかもしれない。TBSのニュース各番組はいま『ニュース23』のリニューアルを機に「調査報道」に力を入れ始めているが、これは「自分たちの力で取材して、スクープをとれるようになる」ための「イバラの道」であると言えると思う。

『ニュース23』にしろ、『THE TIME,』にしろ、TBSはいまきっと「長期的視点にたって、基礎体力をつけること」に真剣に取り組もうとしているのだ。そういう地道な努力には即効性はひょっとしたらないかもしれない。しかし、「テレビ報道・情報番組全体の信頼が低下している」現状で、そうした「真っ当な努力」を積み重ねた局にはきっと報われる日が来ると思う。ぜひ、耐え抜いてほしい。そして他局にもこの姿勢を見習って欲しいと僕は願う。

  • 鎮目博道/テレビプロデューサー・ライター

    92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。近著に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)

  • 写真ゲッティ/共同通信イメージズ

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